ある日のお茶会

ある日のお茶会



休日。
シルフィスは王宮に来ていた。ディアーナにお茶会に呼ばれたのである。
ディアーナはクラインの姫であるが、気さくで…と言えば聞こえは良いが要するに姫様らしくないのである。
まあ、そのお陰でこうして一介の騎士見習いである自分が王宮に出入りできる訳だが…
とんとん。
「失礼します。」
ディアーナは他人行儀と嫌うのだが、シルフィスはディアーナに対し何時も敬語である。
「来ましたわよ。」
「こっちも準備OK。」
中で、ディアーナとメイの声が聞こえたが、訳が分からぬシルフィスは首をひねる。
そのまま扉を開ける。
中ではディアーナが一人テーブルに付いていた。
「あれ、今メイの声がしてませんでした?」
そう言いながら中に入る。
途端、上から何かかぶせられた。
視界はすぐに開けたがとっさの事で事情が飲み込めない。
「ほらね、こっちの方が絶対似合うって、」
「えー。でも、こちらもきっと似合いますわ。」
「???」
見ればディアーナは薄青のドレスを持って自分の前に来ていて、メイは自分の後ろにいった。
「まだ事情が分かってないみたいよ。」
メイは楽しげに言い、部屋の奥から姿見を持ってくる。
「ほいな、見てみ。」
そこには、深緑のドレスに身を包んだ自分がいた。
ドレスには大きな襟がついていて胸のあたりで華の細工によって止められていた。
「ほらね、似合いますでしょ。」
ディアーナはまるで自分の事のように得意げだ。
「今度はこっちを着てくださいな。」
と、薄青のドレスをさしだす。
「あのー、これは?」
おずおずと尋ねるシルフィスに二人が顔見合わせて笑う。
「あのね、シルフィスが来る前にね、私たちシルフィスの話をしていたの。」
「そうですわ。女の方になるのか、男の方になるのかとても興味のあるところですわ。」
「それでね、今は身軽な男の子の格好ばかりしてるでしょ。だからこのまま男になっちゃたらつまらないなって話してたの。」
「着せるなら今のうちと思いまして、私の持っているドレスからシルフィスに似合いそうなものを幾つか選んでまいりましたのよ。」
ねー。っと二人は笑顔でハモる。
「だから、次はこれを着てください。」
ディアーナの後ろの積み上げられたドレスがシルフィスの視界に入った。
ゆうに20着は有りそうだ。
冗談じゃないと、シルフィスは抵抗する。
「逃げましたわ。メイ捕まえて下さい。」
「OK。」
メイの方が扉側に居たのは計画的犯行だ。
ばたんばたん。
どすどす。
「何をしているのだ騒がしい。」
騒ぎを聞きつけたのか、セイリアスが入ってきた。
「あ、お兄様。」
ディアーナは兄が現れても手を止めない。
「ほう。」
セイリアスはドレス姿のシルフィスに言葉を失う。
「殿下。助けてください。」
メイに取り押さえられたままシルフィスは涙目で訴える。
ドレスに身を包んだ佳人は悲しみの表情を浮かべていても美しい。
セイリアスは、その様子から妹達が何をしていたのかを悟ったが、はたして自分はどうするべきか。
シルフィスには嫌わせたくない。
しかし…
「あー、出来たら後で見せに来なさい。」
どうやらセイリアスは己の欲求に従うようだ。
「殿下!」
シルフィスは最後の味方を失った。
「はーい。」
「お兄様。楽しみにしてて下さいね。」
二人は仲良く手を振り、セイリアスを送り出した。


散らかした後は後片付けである。
ディアーナとメイは仲良くドレスをクローゼットに戻していた。
「あ、これも似合いそうですわね。」
ディアーナが手に取ったドレスは先程の薄青のドレスよりも更に薄く、白に近い色をしていた。
華美な装飾は一切無く、多めに付けられた布地が肩のところで止めてある。至ってシックな作りだ。
しかし、シルフィスはもう帰ってしまった。
散々二人に玩具にされ、半泣き状態であった。
今日の事で若しかしたら暫く王宮には寄り付かないかもしれない。
どれどれ とメイがディアーナからドレスを受け取り、目の前で広げてみせる。
「でもこの色、シルフィスと言うよりディアーナのお兄さんに似合いそうね。」
「!」
暫く考え込んだが、ディアーナも「そうですわね」と賛同する。
顔を見合わせる二人。
「「ふふふふふふ」」
何事かを企む二人の息はぴったりであった。



セイリアスのドレス姿って見たい人います?