おかゆ



茹だるような暑さも過ぎ、涼しい風が吹き始めた秋。
流行るものと言ったらアレである。
「全くもう、何も羽織らないで夜中ずっと起きてたりするからよ。」
異世界から来た少女は半年近くも経ちすっかりこの世界に馴染んだ様子である。
もっとも、初めからそうではあったが…
「うるさい、少しくらい静かに出来ないのか。」
その原因である少年は、今朝方から高い熱を出し寝込んでいる。所謂風邪である。
煩わしそうに言ってみせるが、その声も元気がなく彼の体調を物語っている。
「何よ!自分が悪いんじゃない。」
散々の押し問答の末、芽衣を追い出すことに成功したキールは頭から布団をかぶり本格的に寝るようである。

熱の為中々寝付けず、ようやくうとうとしかかった頃、ドアを開けて芽衣が再び入ってきた。
「何だこれは、」
目の前に突き出されたトレイを指差し尋ねた。声が不機嫌であるのは仕方のないことだろう。
「お粥よ。知らないの?」
芽衣は気にした風もなく平然と答える。
お粥。そう言われると一見普通のお粥に見える。
しかし、芽衣の作ったモノである油断はならない。
以前にもサンドイッチもどきを食べさせられて酷い目にあったことがある。
「さっき外に行ったらシルフィスに会ってね、キールが風邪だって言ったら心配してたよ。
それでね、色々話したんだけど風邪にはやっぱり栄養のあるモノをとるのが一番だっていう話になって、風邪と言ったらお粥だねって話になったの。こっちにもお粥ってあるんだね。」
シルフィスー、余計なことを言うなよ。
「作ったことあるのか?」
キールは恐る恐る聞く。
芽衣はうーという素振りで少し考え込んだが、そのままキールに持たせたお粥を指差す。
つまり、初めてなのか…
「大丈夫よ、ちゃんとシルフィスに作り方教わったもん。」
と、キッチリ書き込まれたレシピを取り出す。
そこまでするんだったら、作りに来てくれ・・(キール心の叫び。)
躊躇していたキールに業を煮やし芽衣はチャキーンと取り出したスプーンで彼の口の中に押し込める。
「ツベコベ言わず、さっさと食べなさい。」
むせるキール。無理もない。
「お前!!これ何が入っている。」
あくまで見かけはまともだった。見かけは
後は、筆舌に尽くし難い。
「何よ、不味いとでも言うの。」
「……お前、味見したか?」
芽衣の動きが止まった。そのまま視線は宙をまう。
忘れてたな。
芽衣の様子からキールはそう読み取る。
「うー、だってその前にいっぱい失敗しちゃって、やっとまともなの出来たと思って急いで持ってきちゃったんだもん。お昼に間に合わそうと思って…ごめんね」
キールは芽衣の手の火傷を見て取る。台所の奮闘が目に見えるようである。
「まあ、今度から気をつける事だな。」
「怒らないの?」
芽衣としてはいつもの嫌み、からかい、お説教全てを覚悟していただけに拍子抜けした。
「人は誰でも失敗するものだし、失敗の無い人間はいない。大切なのは過ちを繰り返さないことだ。 反省してるみたいだし、今後は気をつけるだろうと判断した。だから怒らない。」
「…キール。あんたやっぱり熱あるわ。寝たら?」
(怒)
「ああ、そうする事にする!出て行け。」
そう言って芽衣にトレイを押し付ける。既に中は空であった。
「あはは、怒った。やっぱりキールはそうでなくちゃ!」
彼女なりに心配していたらしい。
「うるさい。」
「じゃあこのの容器片づけてくるね。」
じゃあまたねと去った背中にもう来るなと投げつけて、再びキールは布団に潜る。
しかし、どうやったらあんな料理が出来るんだ?
布団の中でキリキリと痛むお腹を抱えキールはそう独白した。

何か、お約束ってな感じですか?
料理と言えばアイシュなんですが彼は自分で作るでしょう、
と言う事でシルフィスの登場です。