偽り

偽り



アンヘル村から来た若者は今日セイリアスに望まれて皇太子妃となる。
王宮ではその準備で皆が駆け回り、町では皆がその話題で浮かれている。
レオニスは今日の式の間王宮の回りを警護する任に就いていた。
「レオニスいるか?」
声からシオンである事は分かった。
「どうぞ。」
入ってきたシオンは普段通りの服装のレオニスに少しだけ眉を寄せる。
「今日だな。」
「はい。」
二人の会話は単調だ。
「式に出ないんだってな。」
「本来なら部隊長としては参列せねばならないのですが先のダリスとの争いで実質騎士団も人手不足。 祝い事に紛れ、何事かを働く輩がいるやもしれませんので。」
嘘付け。
レオニスは彼女の上官。本当なら他のものが出なくてもレオニスは参列するべきだっただろう。
実際、シルフィスもそれを望んでいたし、殿下からも直々にお言葉があった。
それを拒否し、彼は式に参列しない。
彼女が他人のものになるのを見たくないってところか。
シオンの推測は外れていない。
「いいのか」
「何がです?」
レオニスはあくまでしらを切るつもりだ。
だが、シオンは言い逃れを許さない。
「お前、あいつのこと…」
「自分は彼、いえ彼女の事は部下意外に思ったことはありません。」
レオニスはシオンに皆まで言わせない。
彼の表情はいたって冷静だったが、行動は言葉とは違い正直だった。
「レオニス。嘘つくならもっと上手くやれよ。」
シオンは有無を負わせない視線でレオニスを見据える。
レオニスはその視線を黙って受け止めた。
「この俺の様にな。」
レオニスは目を見開き何か言いかけた。
が、やめた。
二人は長い事何も言わなかったが、最後にレオニスがぽつんと漏らした。
「喩えそうであってもどうにもなりません。彼女は望まれ望んで行くのですから。」
そのまま何も無かったように自分は職務がありますので、と言い残し部屋を出ていった。
残されたシオンは暫くその場に立っていたが、やがてずるずると座り込む。
「しかし、俺はレオニス相手に何やってるんだろうね。」
そう、この言葉は本人にこそ言うべきだったのだ。
だが、それももう遅すぎる。
シオンは暫く黙り込んでいたが、やがて何かを吹っ切るように立ちあがった。
「さて、そろそろ行きますか。」
数時間後、礼服に着替え何食わぬ顔で式に参列するシオンの姿があった。