お茶でも如何

お茶でも如何



通り掛かったのはほんの偶然。
「申し訳ございません。」
「いえ、約束も無しに来た私がわるいんですから、謝らないで下さい。」
見ると女官が深々と頭を下げていて、それを制しているのはシルフィスだった。
シルフィスは妹の友人で、たまにこの王宮にも遊びに来る。
ディアーナは今日神殿の方に行っている筈だ。
大方、知らずに訪ねたのだろう。
「どうしたのだ?」
あくまでさり気無く中に入る。
「あ、殿下。」
恐縮する女官を手で制し、先を聞く。
「シルフィス様が姫様を訪ねて来られたのですが、生憎姫様が出かけておられまして、」
予想道りの答えだった。
シルフィスは様付けされて少し居心地の悪そうに相づちを打つ。
「本当に気にしないで下さい。今日は帰りますね。」
と、帰りかけたシルフィスをとっさに呼び止める。
「それならば、たまには私の部屋でお茶でも如何かな?」
「は?」
「それとも、私とは嫌かな?」
「そんなことないです。」
「では、決まりだ。」

シルフィスは運ばれて来たお茶を前にして、未だ戸惑っている様子だった。
その表情が又何とも言えず面白い。
「?私の顔に何か付いていますか。」
あまり見つめていたものだから、シルフィスが顔を上げてそう聞いた。
「別に。」
そうとだけ答えて、今度は堪えきれずにクスクスと声を出してしまう。
「?」
私の反応にシルフィスは心底困った様子だ。
「ディアーナとは仲良くやっているかい?」
余り困らすのも可哀相だと思い、話題を振る。
「あ、はい。」
行き成り話題を振られてので咄嗟の答えは短かった。
「私といると緊張するかい?」
シルフィスは照れたように笑い、
「はい、少し。やはり『殿下』ですから…」
以前にもう少し気さくに話してくれるか、と言ったことを覚えているのだろう。何も咎めている分けではないのだが、
「ふう、困ったなこれでも私は王宮では過保護な兄で通っているんだが、シルフィスに打ち解けてもらうにはもっと砕けねば駄目か。」
シルフィスは堪らず吹き出す。
「そうですね。たまに王宮を抜け出して町で息抜きしている困った方でもありますしね。」
顔を見合わせて二人でクスクス笑う。
堅苦しさは抜けないが緊張は大分とけたようだ。
「そうそう、そんな感じでね。」
「はい。」
シルフィスは可笑しさで涙を拭いながら了解した。

それから後、夕刻になるまでの暫しの時間セイリアスはシルフィスとの他愛の無い話を楽しんだ。


「お兄様。今日私をだしにシルフィスをお茶に誘ったんですって?」
お帰りと言う間も無くディアーナが今日のことを持ち出す。
誤魔化そうとするセイリアスに間髪入れずディアーナが続ける。
「隠しても無駄ですわよ。ちゃんと女官に聞いたんですから。」
しまった。口止めをしておくのを忘れていた。
悔いても後の祭りである。
「シルフィスは私の大切なお友達なんですからね。手なんか出さないでね!」
それは、
「約束は出来ないな。」
呟きはディアーナには聞こえなかった。



ふふふ、念願のセイル×シル。
ふふふふふ……