失踪

失踪



その電話を受けたのは夕刻食事がすんだ後だった。
「うちの子お邪魔していませんか?」
憔悴しきったような女の声。
声の主は同級生藤原芽衣の母親だった。
「芽衣、どうかしたんですか?」
「いえ、伺っていないならいいんです。」
電話はそれだけ言うとあっさりと切られた。
芽衣どうかしたのかな?
放課後別れる頃は元気だったのに…

翌日。
クラスは芽衣の話題で持ちきりだった。
「芽衣のやっぱり家出かな?」
「えー、他の人ならともかく芽衣が?」
「そうだよね、昨日別れた時もそんな様子まったく無かったし、」
昨日の芽衣の様子を思い出し皆はしゅんと肩を落とす。
何か悩みがあったのかな?
つらい事でもあったのかな?
だとしたら、どうして自分は気付いてやれなかったんだろう。
何か自分にしてやれた事は無かったのか?
様々な思いが交差する。
その中でクラスメイトの一人が新しい情報を満ち出す。
「何かね私の友人が最後に芽衣を見掛けたって事で今警察に行ってるんだけど、
その子の話を効いたんだけどね、昨日ね芽衣その子の前を歩いていたんだって、
そしたら芽衣ね急に立ち止まって、こう少し上を向いて苦しそうな顔をしていたんだって。
その子は立ち眩みかな?って思ってそのまま通り過ぎたんだって、
でね、少し歩いたら何か後ろで音がしたんだって、
うん、私もね芽衣が倒れた様などさっていう感じの音かと思ったんだけどね、
違うんだって、何かこうキンって感じの、本人も良く分からないって言ってた。
で何の音かな?って思って振り返ったんだって、
そしたら、そこに居たはずの芽衣の姿が何処にもなかったんだって言ってた。」
それが本当なら不気味な話である。
人一人が消えてしまうんなんて、
神隠しという言葉が脳裏を横切った。
「まさか。」
「作り話だよね」
何人かがそう結論づけた様だ。
「えー、でもその子嘘を付くような子じゃないもん。」
否定されて話を持ち出した子はむきになる。
「じゃあ、あんたはその話信じてるの?」
「う、それはさ…」
途端に口ごもる。人間とはそんなものである。
「あんたたち、やめなよ不謹慎だよ。」
そう、問題はそんな事ではない。
芽衣が居ないという事だ。
その時教師が教室に入ってきた。
何時も挨拶にうるさい教師が、挨拶をする前に口を開く。
「えー、もう皆さんは知っていると思いますが………」

数週間後。
芽衣の葬儀が執り行われた。