ベビーシッター

ベビーシッター



その日の訓練も終わり騎士団の部隊長ことレオニス=クレベールは久方ぶりにやって来た広場で予期せぬ人物に会う。
「あ、隊長。」
アンヘル族の彼は王都にも大分慣れたようだ。休みの日には積極的に広場に出て皆と交流を持っている事をレオニスは知っていた。
「どうした。」
その先を続けようと思った訳ではないが、レオニスの視線はシルフィスの抱き上げているものに止まる。
「えーっと、ですね。この子がどうやら迷子になってしまったみたいで、」
2・3歳だろうか、確かにシルフィスの抱いていたのは子供だった。
「向こうの通りでですね迷っていたんですが、どうやらはぐれたのはこの辺だと言う事で連れてきたんです。」
向こうの?
シルフィスの指差す方向にはもはや通りの向こうが見えないほど人が往来していた。
よく、その迷子を見つけたな。
「それでですね私ちょっと自警団まで行ってきます。若しかして母親が捜索依頼をしているかもしれませんし。」
確かに、あれだけ人通りの多い通りを探しているより自警団にでも届けた方が早い。
肯くレオニスにシルフィスがはいと子供を渡す。
「この子お願いしますね。」
お願いします?
流石に足が速いと自負するだけの事はある。レオニスがちょっと待てと止める前にシルフィスはもう通りの向こうに消えていた。
残されたのは年端も行かない子供一人。
だが、シルフィスが戻るまでの間時間を無下に使うつもりはない。
「名は?」
問いただすレオニスの物言いは、いつもと変わらない。
彼の視線を受け子供の涙腺がみるみる緩む。
「わーーーん。」
声は辺りに轟いた。
何事かと見に来る人でみるみる人垣が出来上がる。
レオニスは子供を宥めようと声を掛けるが、逆効果であった。
如何に部下の崇拝を集める騎士と言えども子供にかかれば形無しである。
打つ手はもはや無かった。
「隊長!」
シルフィスが自警団から戻った様だ。
この時ほど彼の存在をありがたく思ったときはない。
彼は後ろに母親らしき女性を連れて、人込みを掻き分けレオニスの所に戻ってきた。
「本当にありがとうございます。」
母親は余程探し回ったのだろう、髪はあちこち乱れ疲れきった様子だ。
子供を抱え何度も頭を下げる母親を送り出し、レオニスはシルフィスにぽつりと聞いた。
「私の顔はそんなに恐いか?]
「……」
シルフィスは問いに答えなかった。

逆にね、レオニスの場合赤ん坊だったら平気な気がするんですよ。