もう、あの顔がこの部屋に現れるのが日常となってしまった。 セイリオスは執務室の扉を明けて顔を覗かせた彼女を確認すると感嘆とも諦めともつかぬ息を吐いたあと、いつもの様に笑顔で迎え入れた。 扉の人物の方はセイリオスが執務の真っ最中なのを見受けて遠慮しているようだ。 「構わないよ。けど、この書類に目を通してしまうから入って待っててくれるかい。」 なるだけ相手が気を使わない言い様は心得たもの。彼女は安心したように笑うと中に入り扉を閉めた。 さらさらとセイリオスの走らせるペンが音を立てる。それを遠くから邪魔しないようにと気遣っている気配。さらっと、最後に自分の署名を入れて彼はペンを置いた。 「さて、終わったよ。メイ。」 とんとんと書類を揃えて手招きをする。 何の用かな?と、にっこりと笑う。 「うん、あのさ。クラインって誕生日って特別に祝ったりする?」 セイリオスは言葉に窮した。なぜならば日付からいってメイのいう誕生日とは明後日にせまった自分の誕生日だと思われたからだ。 ふむ、 セイリオスはしばし考え込んだ。 「という事は、メイの国では何か行事のようなものが行われるかい?」 疑問符をつけて、知らない振りをしてみる。 「…行事って言うほど華々しいものでもないけどさ。」 半ば呆れ顔でメイは言う。 「じゃあ、どんなものなのかな?」 意地悪をしているつもりだったが、メイに気落ちしている素振りは見えない。いや、見せないのか。 メイの表情を温かく見守る至福の時間。 「え〜と。親しい人たちと生誕をお祝いするの。」 ふむふむ、それで? 「具体的にはというと、ケーキ食べたりプ…。」 「プレゼント貰ったり、祝いの言葉を述べたり。…だね。」 これ以上謀ると後に引けなくなるので早々にメイの言葉を引き継いでみた。 どんな反応が返ってくるか楽しみに待ってみたところ、メイは大きくため息を吐くとそのままへなへなへなと机の上にへたばってしまった。 「なんだ。知ってるんじゃない。殿下ってば」 その言葉にはそ知らぬ顔の笑み。 「…殿下がそんな冗談いう人だったとは知らなかったわよ。」 「おや?知らなかったのかい?」 わたしのにんしきふそくぶそくですーーわたしがわるいんですー。ふてくされたメイは言う。 「いいよ。回りくどく聞こうとしたのが間違い。殿下!明後日ヒマ?」 「死ぬほど忙しい。」 きっぱりさっぱり。 「ちょっとくらい時間あるでしょ?」 「朝九時からクラインの諸侯らや近隣諸国の祝いの使者を迎え入れ、一時中断して三時から神殿にて祝いと祝福を受け、また王宮に取って返して使者との謁見の続き。夕方からは王家縁類・上級貴族などが参加の園遊会が、…夜中まで続く。」 「そういえば皇太子だったね。」 今まで何だと思っていたんだろう。セイリオスはがっくりと肩を落とす。 「王宮中で準備に終われた侍女やら文官らが奔走してたはずだが?」 気が付かなかったのだろうか?今だって廊下を小走りに通る足音がひっきりなしに聞こえるのに。 えへへ。と、メイが舌を出した。本当に、目的以外は目に入らない性質らしい。 「そっか、それじゃあ無理だね。」 「ああ。なので…」 セイリオスは言いながらセイリオスは席を立つ。 「これからお付き合い願えないかな?」 メイの手を取る。 「へ?」 「だから、明日も何かと忙しいのでね。今日くらいしかゆっくり出来ないのだよ。」 r?だって?と戸惑うメイ。机の上の残された書類の束が気になるらしい。 「大丈夫。早急を要する物はすませた。 なんだっけ?親しい者と祝い、ケーキを食べたり?」 「プレゼント!」 思い切れたらしいメイが元気よく繋げた。 「そう、楽しみにしているよ。」 そう笑うと今度こそ二人連れだって部屋を後にした。 |