安息日

安息日



寝耳に水。
突然の出来事を指す。

「は?賄いのおばさん達がですか…」
隊長こと、レオニス=クレベールに呼び出されたシルフィスとガゼルに思いもよらない司令が下った。
「そうだ、昨日の賄いで食べた鯵の塩焼きが原因らしい。皆、今は病院にいる。」
治癒魔法は原因が胃の中から消えない限り役にはたたない。
「じゃあ、全員食中毒で入院なのかー。」
ガゼルが心配そうにこぼす。
事の顛末はそういう事らしい。
んで、それがシルフィス達に何の関係があるかと言うと…
「明日には代わりの者が来るが、何分急な事なので今日というのは無理らしい。
そこで、二人には代わりに夕飯を作ってもらいたい。」
要するに細かい事は見習いがやれ、という事だ。

むきむきむき
皮むきむき
ガゼルは包丁を器用に扱ってジャガイモの皮むき。その横では……
むき…むっきー、む…
ものすごく不器用そうにシルフィスが人参を……削っている?
既に手は傷だらけだ。
む…むむむ…
「ああ…!貸せ危なっかしい。頼むから鍋の番でもしててくれよ。」
それが懸命だ。
シルフィスは役立たずを自覚しているのか、しゅんとうな垂れる。
「そうします。」
ジャガイモ、人参、牛肉、玉ねぎおまけに茶色の固まり。それらが順番に鍋の中に放り込まれる。
どうやらメニューはカレーだな。
暫く二人は黙って作業を進める。
「すいません。役に立たなくて。」
シルフィスは鍋をかき回しながらぽつりと漏らした。
ガゼルは付け合わせの惣菜を作っていた手を止めシルフィスを振り返る。
「気にすんなよ。誰にでも得意不得意ってあるだろう?」
そりゃーね。
でも、と未だ渋るシルフィスにガゼルは渇を入れる。
「俺だって、自慢じゃないが水泳が苦手だ。きっと隊長だって苦手なことくらいあるさ。
それがバランスってもんだと思うぞ。だから助け合いって言葉があるんだろ。
いいんじゃないか?苦手な自分に満足さえしてなきゃ。」
あ、とっても真面目なご意見だね。
「ガゼルは満足しないで、何にかしてる?」
「おう!なんとか水の中で目を開けられるようになったぜ。」
………くす。
「そうだね。私も見習わなくてはね。」
くすくすと、シルフィスは遠慮がない。
「あははは、あまり堂々と言えたもんでもないな。」
「そんなことないよ。」
二人顔を見合わせて笑う。
「迷惑なんかいっぱいかけていいんだからさ。」
小さく呟いたその言葉はシルフィスには聞こえない。
「?なんですか。ガゼル。」
「いや、何でもないって。あははは。」
誤魔化しながら、ガゼルは止めていた作業を再開させる。

「ほら、鍋吹いてるぞ。」
「あ?あああ!」
慌ててシルフィスも作業に戻る。
シルフィスは誤魔化されたのを、分かっていたが何と無しにその話題はそのまま終わってしまった。

比較的好評に終わった夕食の後。
早々に就寝したガゼルの見る夢は、
幸せな食卓
自分の作った料理を食べる相手を見てガゼルは嬉しそうに微笑むのであった。




ガゼルも不器用だと思っていたら、違うらしい事がメイでのプレイで判明。
そう言えば、銛なんか手作りだったね。