アンヘルの乙女

アンヘルの乙女 10



シルフィスがシオンに連れ去られてしまったので、一行は解散し取り敢えずメイとティナリスは研究院の方へ戻っていた。
「若しかしてさ、ティナリスが分化しないのってシルフィスのせい?」
就寝直前にメイがふと聞いた。
ティナリスは少し上を向いたしぐさで考えているようだったが、ややあって静かに肯いた。
恋をした相手によって性別を分けるというアンヘル族。ならば逆に、恋をした相手によっては分化しない事もありえるかもしれない。
シルフィスの話では性の自覚や幼い頃からの憧れのような物でも分化するらしい。
ティナリスは、その幼い頃から一筋にシルフィスに焦がれてきたのだ。
まるで呪いのように。
彼女のどう見ても女の子にしか見えない姿を見ながらメイはそう思った。

次の日騎士団宿舎からの二人は研究院からの二人より先に広場に付いた。
アンヘル村からの迎えは程なくして現れた。
シルフィスよりも2、3年上と言った感じの青年だった。
「やはり、あなたが来ましたか、」
「私が来なくてどうする。」
ガゼルには理解できないやり取りを交わし、シルフィスはガゼルに向き直る。
「紹介します。彼はガーシュ=タクトと言って、こちらも幼なじみみたいなものです。」
「どうも、ティナが世話をかけたみたいで。」
アンヘル族が皆美形と言うのは本当だな
握手を交わしながらガゼルはそう思った。
明るく朗らかなのシルフィス達とは又違った雰囲気を持っていた。
「ティナ達はまだみたいですね。」
人の行き交う通りを見ながらシルフィスがもらす。
「大方、ティナがごねているんだろう。」
ガーシュはやれやれと言った感じだ。
けれど、その表情はどこまでも優しい。
ああ、そうか
ガーシュはティナリスの事が好きなのだとガゼルは理解する。
「あ、来た来た。」
ガゼルがいち早く人込みの中のメイ達を見つけた。
約束の時間を過ぎているので二人ともやや小走りである。
それを見守りながらのガーシュとシルフィスの会話はガゼルにも聞こえてた。
「シルフィス。早く女に分化してくれ、」
そうなったら、きっと王宮にいる『そうなっては困る輩』の面々が喜ぶ事になるだろう。
「どうしてですか?」
「ティナは流石に男に分化するのは難しだろう。」
そうかもしれない
「…でも、ティナだったら根性で男に分化しそうですね。」
シルフィスの言葉にガーシュは困ったような顔をする。
「そうかもしれない。」
ティナリスが人込みに攫われて、流されていくのをメイが慌てて追いかけた。
「ああ、何やってるんだ、全く。」
それを見たガーシュが走っていた。
無事ティナリスを連れて到着したメイに、シルフィスは先程したのと同じように彼を紹介をする。
ティナリスは最後まで帰るのを渋っていたが、やがてガーシュに諭されて帰っていった。

帰りはやっぱり喫茶店。
「彼は昔からティナの事が好きで、それはティナが私を好きだと言い始めるより前から…」
興味津々の二人にシルフィスは語る。
「ずっと私の事を好きだと言い続けているティナの事をガーシュもずっと好きで…」
ガーシュの気持ちは誰の目にも明らかだった。
だからこそ、こういう事をシルフィスも語る気になったのだが、
「……」
ひい、ふう、みいと換算してみる。十年以上もそんな状態が続いているらしい。
彼はどんな気持ちで彼女の事を見つめているのだろう。
辛くはないだろうか
悲しくはないだろうか
と、シルフィスは何かから目を離す様に窓の外を見た。
つられて二人もそちらに目を向ける。
「早くティナが私の事を諦めてくれるといいんですけれど、」
それはおよそシルフィスらしからぬ言い草であったが、二人とも何も言わなかった。





後書き
今回は、10回を数えた「アンヘルの乙女」の最終話なので少し後書きも長め、
オリキャラ二人目がようやく出てきました。
これは初めから予定していた事で、終わらせるために無理矢理出したのではありません。念のため、
それにしては出番が少なかった。
彼の気持ちとか、もっと深く書きたかったんだけどな。
ティナは書いてる途中男の子に分化させるのも面白いかな、とか
ガゼルとくっつくと面白いかな等と自分で自分を迷わせましたが やはり初めに考えた形にしました。
シルフィスは女の子に分化します。
そのうちディナ×シル書くだろうけど、私の中ではずっとシル×○○○なので…
男の子バージョンは書きにくいです。
今回は一応男の子を意識して書いたんですけどわかりませんよね。

うう、それにしても美形ばかり出てきて嫌になる。
うだつのあがらない美術商とか、やたら暗い雰囲気の金物屋とか威勢のいい大工とか出てこないものか、
(だったら書けば?、という突っ込みを私は好まない)
一通り終わったらファンタでも「どうでもいい人生」書くぞ!(決意)