アンヘルの乙女

アンヘルの乙女 9



喫茶「いつもの所」(笑)。
「あー、危なかった。」
て、何がだい。ガゼル。しっかりチェック入っていた様な気がするんだが…
「メイ、「かいらんばん」って何ですか?」
シルフィス、君の意見は尤もだ。それはこの世界の者なら誰しもが聞きたい事であろう。
「回覧版ていうのはね、一家の主婦に回ってくる召集令状のことだよ。」
これこれ。
「!メイの世界では女の人にも召集令状が来るんですか?」
「家庭を預かる者だから、別に女の人とは限らないんだけどね、」
これこれこれ。
「8月に呼び出された者は炎天下の中の強制労働。9月に呼び出された者は押し迫る炎と戦い、10月に呼び出された者は他人を蹴落としても走らされる運命にある。」
もしもし、おーい。戻ってこーい。
「てゆーのは冗談だけどね。」
あ、戻ってきた。何かあったのか?メイ。
どうやら、彼女も疲れているらしい。
因みに8月=公園の草むしり、9月=防災訓練、10月運動会の事である。
「あー、喉乾いたー。」
「俺も。俺も」
アイスティー4つ。注文するとすぐに運ばれて来た。
「おいしー。」
「……」
ちゅるちゅるーーーー。
「お前ら、いつもそうやってダベっているのか?」
気が付けばそこにシオンが居た。
「げ」
「出たーー」
がたがた。
「って、俺は化け物か何かか?」
予想通りの反応と突っ込みである。
向かって右奥からシルフィス、ガゼル。左奥からティナリス、メイの順に座っていたが、ちゃっかり女の子の割合が多い方に座る所がシオンのシオンたるゆえんであろう。
と、シオンの視線がティナリスで止まる。
「彼女は」
「シルフィスの同郷か何かか?」
説明を使用としたシルフィスよりも早くシオンが尋ねる。
「ええ、そうです。」
まあ、これだけ希に見る外見をしていて判らないのはメイだけだろう。
「で、何をしていたんだ?」
出来る事なら、ティナリスの事で逸らかしておきたかった3人は心の中で舌打ちする。
「ええと、悪者退治!」
間違いではない。
「に、しちゃ俺の顔を見て逃げ出したところをみると、他に後ろ暗い事でもあるんだろう。」
ご名答。
流石シオン。このくらいでは騙されてくれないらしい。
「大変だったんだぜぇ。さすがの俺でも男三人を自警団まで引きずって行くのは、」
押し黙ってしまった皆にシオンは肩に手を当て疲れたというジェスチャーをしてみせた。
「おかげで、今日の予定が消化出来なかったし。」
「何、庭いじり?」
いつでもメイは突っ込みを忘れない。
「ち・が・う。
自室の魔法書の整理でもしようと思ったんだよ。明日からまた、違う予定が入っているから今度となるといつ出来るか分からないからな。」
そしてシオンはシルフィスに目を止め、何か思い付いたように手をポンと打った。
「そうだ、シルフィス手伝え。」
突然の名指しにシルフィスはきょとんとする。
「そうしたら、何とか今日中に終わる。その代わり黙っておいてやるよ。」
「なんで、シルフィスだけ?」
ガゼルが異論をとなえる。
4人の行った事だ。名指しに不満があるらしい。ガゼルらしい正義感だ。
「お前らが加わると余計時間が掛るんだよ。そんなに広くないしな。
それに、このことはシルフィスの幼なじみの事だろ、シルフィスがやるのが妥当じゃないか。そっちのお嬢さんは無理みたいだしな。」
ティナリスは脅えてさっきからシオンと目を合わそうともしない。まあ、シオン相手では無理も無いが、
メイは知っている。シオンもまた、前述した「そうなっては困る輩」の中の一人である。
メイが耳聡いこともあるが、本人が隠す様子も無くこれだけあからさまにしていてはその事を知らないのは結構抜けているシルフィスだけというものだろう。
きっと、魔法書の整理というのは口実に違いない。
「とういう訳で、」
シオンが腰を上げた。
「ほい、行きましょう。」
と、シルフィスの手を掴み行ってしまった。
「わ、ちょ、待って下さい。シオン様。」
お達者で〜。
シオンに引きずられて行くシルフィスを見送るメイ達の横で、明らかにティナリスは暗い表情で俯いていた。
約束の五日目は、明日である。


時間をおいたが、シオンのセクハラは直らなかった。。
シオンファンの方ごめんなさい。