アンヘルの乙女

アンヘルの乙女 8



二日後。
シルフィス、ガゼル、メイの三人は示し合わせたように休みを取っていた。
と言っても、当初からその予定であったのだが…
はじめはアンヘル村から来た異客をに付き合うための休みであった。
だが4人は今、八番街の外れに来ている。
ここは路地に囲まれた何も無い場所である。
確かにもう少し行けば大きな通りに出て、それなりに賑わっていたりするのだが、ここは静かで喧騒が百万里も向こうに感じる。
「帰りなよティナリス。」
ガゼルは心配して言うのだが、ティナリスは聞かない。
「いえ、皆様が私のために危険を侵すのですから肝心の私が留守番しているという訳にはいきません。」
人一倍臆病な彼女が決意するのにどれだけの勇気が要ったことであろう。
他の二人は既に諦めているのか何も言わない。
だが、はっきり言って足手まといであった。
「まあいいや。さっさと行くよ。」
メイのその言葉が合図であった。

二日前、町で引っ手繰り犯を見つけた四人はすぐさま自警団に通報した。
だが、証拠がない事などから見間違い等と決め付けられ相手にしてもらえなかったのだ。
自警団の言う事も尤もだ。現行犯でなければ証拠なしでしょっ引く事は出来ない。本当に見間違いや誤解の可能性だってあるのだ。
証拠が無ければ、こっちで見つければいいじゃん。
メイはひどく簡単に言った。
わざわざ悪人を見過ごすつもりの無かったガゼルは諸手を挙げて賛成し、初めのうち反対していたシルフィスも他ならぬ幼なじみの事、二人の説得に渋々肯き今日の決行にあたる。
出発しようかなと言ったときにティナリスも行くと言い出したのだ。
どんな荷物か知っているのは私一人です。
というのが彼女の言い分であった。
さて、こんなに深刻に何をするのかと言えば決まっている。
直接相手の所に乗り込んでいって、荷物を取り返すのである。

こんこん。
「今日は西園寺さん、回覧版です。」
厳正なる話し合いの結果、一番始めに声を掛けるのはメイが適任と言う事になった。
ガゼルは一応男の子で、シルフィスは結構有名なので面が割れている可能性があった。それでなくても、容姿が目立つので警戒される恐れがある。ティナリスは言うまでもないだろう。
こんこん。
こんこん。こんこんこんこん。
「あー、うるせー。何わけのわからないこと吐かしてるんだー。」
尤もである。
ここは異世界。西園寺と言う日本名も、回覧版などと言うものも存在しない。
げしっ。
どかっ。
即効でドアの影に隠れていたシルフィスとガゼルに叩き伏せられる。
わーい、突入だ。と、メイが心躍らせたのもつかの間、あっと言う間に終わってしまった。
「中に二人しか居なかったぜ。」
「こちらも誰も居ません。」
呆気なく終わってしまった。
ガゼルの倒した二人の中に例の黒服の引っ手繰りもちゃんと居た。
つまんないの。と、呟いては不謹慎だろう、メイ。
「私の荷物ありました。」
奥からティナリスが荷物を手に現れる。
がっちゃんーー。
見事に転んだのは、部屋が狭かった為と弁明しておこう。
そして、ついでの様に転がりできてきた物。
「ねえ。」
メイが誰とも無しに声を掛ける。
「ねえってば、」
聞こえているってば、
しかし、誰も答えない。今し方出てきた物に目が釘付けである。
「偽金て立派な犯罪よね。」
転がっている大きな袋からは明らかに偽装途中のコインがぎっしり詰まっていた。
「丁度いいじゃない。荷物だけでは牢屋にぶち込めないもんね、これと一緒に縛り上げて大通りにでも晒しましょう。」
その通り、例え荷物が出てきても拾ったと言い張られては元も子もない。
まあ、荷物さえ取り戻せれば良いかな、という気持ちで決行したのだ。
皆で手分けして男達を縛り上げる。
何せ男3人である。4人掛かりでやっとこさの仕事である。
きゅっと縛り上げて家の外まで引きずり出すのに大分時間を取られてしまった。
「お前ら、面白そうな事やってるな。」
したがい、後ろから声を掛けられるまでその人物に気がつかなかった。
「し、シオン様!!」
一番近くに居たガゼルは飛び上がらんばかりに驚き、メイとシルフィスは持ち上げていた男を勢いよく落とした。
「何やってるんだ?ガゼル。」
ポンと肩をたたく。
それからは石火の如く。
「ひ、人違いです。」
「あ、シオン。それ偽金作ってたよ。あと宜しく!!」
という、捨て台詞はメイの物。 その他は、ばびゅーん と走り去る。
「何だ? ガゼルとあれはメイとシルフィスと、後もう一人は見た事無いな。」
しっかりチェックされていたりする。
シオンは4人を見送った後、それはそれは嫌そうな顔で足元に転がる男達を見下ろした。


うう、二つに分けようとしていた物を一つにまとめてしまいました。
早く終わらせたいらしい。