アンヘルの乙女

アンヘルの乙女 5



次の日はとても都合よく日曜日であった。
メイはティナリスと連れ立って早くから騎士団宿舎前に現れた。
「あ、来た来た。」
何故かちゃっかりガゼルも居る。
取り敢えず4人は場所を大通りにある喫茶店に移す事にした

日曜である為か、店はやや混んでいた。
それでも何とか空席を見つけ、腰を落ちつける。
運ばれてきた紅茶に取り敢えず口を付ける。
「メイ。昨日はありがとうございます。大丈夫でしたか?」
一息ついたところでシルフィスが礼をのべる。
言葉に甘えて彼女にまかせてしまったが、彼は昨日からそれだけが気掛かりだった。
「大丈夫だったよー。キールには見つかっちゃったけど。」
あっけらかんとメイは言う。
課題は増えたけれどね。
仕方が無い、それで何かおきて責任を取らなければならないのはメイではなくキールである。
それくらいの報復は当然であろう。その辺はメイもわきまえている。
ありがとうございますとシルフィスはもう一度頭を下げる。
本当に律義なやつである。
さてと、本題に入るシルフィス。
「ティナ、何しに王都に来たの?」
シルフィスの口調は珍しく冷たい。彼がここまで人を邪険にするのをメイもガゼルも見た事が無かった。
「ま、まあシルフィス。そう邪険にしなくても…」
ガゼルが助け船を出すが、ティナリスの目には涙が滲む。
あーあ
シルフィスもわかってないねぇ。女の子が「会いたい」って来れば理由は決まってるじゃない。
メイはダージリン砂糖入りミルク抜きを飲み干しながらそう思う。
だが、それを彼女に言わせるわけにもいかないだろうし、出来まい。
「これからどうするの?シルフィス。何時までも私の部屋に泊めておくわけにもいかないでしょう?」
ここもシルフィスが譲った。
彼はこういう事(人に冷たくする事)には慣れていないらしい。
「昨日の家に村のほうには連絡しておきました。数日のうちに迎えが来るでしょう。」
ティナリスはその言葉にビクッと顔を上げる。 「そしたら、帰るんだよ。」
彼はさらに言い聞かせるように続ける。
当事者以外の二人は更に目を赤くするティナリスが気の毒で堪らない。
「あ、」
突然声を上げたのが一瞬誰だか分らなかった。
「どうしたの。ティナ。」
今まで泣いていた人物にシルフィスが尋ねる。
ティナリスは惚けたように窓の外に目を向けている。
「あの人、私の荷物を持っていかれてしまった人ですわ。」
窓に映るのは黒いシャツを着た如何にもチンピラ然とした男である。
シルフィスとガゼルが素早く席を立ち身をひるがえす。
シルフィスは財布を置いていくのを忘れなかった。
気の利くやつである。
こういう事は彼らに任せるのが一番と、メイは動こうともしない。
「本当にあの男なの?」
確かに怪しげな男ではあったが、一瞬しか見えなかった。
「ええ、確かです。だって、とても個性的なお顔をいていましたでしょ。」
確かに…
チンピラの顔を思い浮かべながら納得するが、ティナリスもかなり言うな。
シルフィスの財布を弄びながらメイはそう思うのであった。



今年最後の作品です。
来年はどんな年になるでしょう。