アンヘルの乙女

アンヘルの乙女 2



騎士団では午後の訓練が折り良く終わったところであった。
「あれ、メイ。何やってんだ?」
外に出てきたガゼルがメイ達を目ざとく見つける。
「あ、丁度良かったガゼル。シルフィス呼んできてくれない?」
「いいけど?」
何時もなら何も気にせず自分でとっとと中に入るメイである。その辺をガゼルは疑問に思ったのだ。
実はメイもそうしたかったのだが、連れが騎士団のごっつい面子に脅えて入りたがらないのだ。
後ろを気にしたメイにやっとガゼルがもう一人の存在に気付く。
「メイの友達?」
言いながら後ろを覗き込む。
金の髪に翡翠の瞳の少女はガゼルの視線を受け、びっくっと体を強張らせる。
「シルフィスの妹か?」
誰でもそう思うのか。
けれど来る道々話を聞いたメイは姉妹ではないと聞いていた。
ただ、彼女は小さく「違います」と言っただけなので詳しい事はメイも知らない。
取り敢えず広場での事を説明するくらいしかできない。
「あのね…」
「ティナ!!」
聞き覚えのある声が響いた。
シルフィスも訓練終了後自室には戻らず外に出てきたらしい。
足の速い彼は瞬く間に皆のところに駆け寄る。
「あ、」
少女の方も早かった。メイの脇をすり抜けシルフィスに抱き着く。
「会いたかった。」
感動の対面ってやつか。
と、感慨深げに見つめるメイとガゼルをよそにシルフィスは少女の方をガッと掴み自分から引き剥がす。
「何でティナが王都にいるんです!」
疑問…形ではない。むしろ怒気が含まれているような。
シルフィスはそのまま説教モードに入る。
「その子シルフィスの妹か?」
見かねたガゼルが助け船を出す。見え透いていたが、確かに皆の前でするようなことではない。
シルフィスは大きく息をつき、ティナと呼んだ少女から手を放す。
「ガゼル。この子はティナリス=カタラートといって、私の幼馴染です。」
それだけ言って今度はティナリスの方に向き直る。
「誰と来たの?ティナ。」
だが、少女の方は黙ってうつむいてしまった。
「その子一人で来たって言ってたよ。」
言ってはまずいかな、と思いつつも黙っておいて良い事でもないのでメイが代わりに言う。
「げ、一人で!」
ガゼルの驚きも無理はない。王都とアンヘル村はけして近くないのである。
「良く無事だったな。」
その通りである。
一方シルフィスはあまりの事に言を失っていた。
「……」
「取り敢えず宿まで送ります。何処ですか?」
「宿は取っていません。」
ティナはおずおずと答える。
「未だとってないんですね。じゃあ、手伝いますんで宿をとりましょう。しかし、この時間から取れるかな?」
既に太陽は彼方でだいだい色の光を放っている。
「…?」
メイは何か忘れている様な感じがした。
彼女は広場で独りでいた。そして今は宿をとっていないと言う。はて、
「荷物は何処です。私が持ちますから。」
シルフィスはティナリスの方に手を差し出す。
「!」
「荷物はありません。」
その時のシルフィス以下の呆気にとられた顔は忘れられない。



彼女の名前はティナリス=カタラート。
前に考えたオリジのキャラゆうきの別名ティナ=ターナから取りました。
ガゼルを見ていたら思い出しまして、使いたいなーと思ったんですが、
そのままってわけにもいかず氏だけ変えようと思ったらしっくりこなくて、大分変えてしまいました。
2話に盛込もうとしていた内容の半分しか書けなかった。