どうでもいい人生7〜その時彼は〜



〜東京在住の往年の金物屋の場合〜


その人物は夕方、そろそろ店を閉めようかと思った頃やって来た。
「お客さん。もう、閉めるよ!」
やたら暗い客だ。
その男は何も言わず、店のほうをじっと見ている。
頬の十字傷。
腰の日本刀。
これはどう見てもやばい客だ。彼の直感がそう言ていた。
男はまだも黙っている。
金物屋は店をしまう作業を止めて、男の動向をうかがう。
彼も店を開いて何十年、この手の客には慣れている。
辛抱強く待つ。
「・・・・」
暫くして、男が何か言った。
聞き取れなくて聞き返す。
「鎖をくれ。」
鎖?
置いてなかった。金物屋は少し考えて、軒にあった日よけの布を降ろした。
「ここの支えに使っていたのなら有るがね。新調したばかりだから物は悪くないよ。」
前の鎖が錆びてしまったので替えたばかりだった。
必要なものだったが、客の要望にそうのがプロというものだろう。
「それでいい。」
男はそう言うと、お金を置いて去っていった。
鎖なんか何に使うのだろう。
当然わいた疑問。
あれで首なんか括らなきゃいいけど・・・
そう思いながら金物屋は店閉まいを再び始めた。




若しくは、道端で拾った。
あの状況で薫ちゃん家から持ち出したとは考えにくい。