空気が和らぐ
そこに「いる」だけで
ただそれだけのことなのに
偶然というのは、いつまで続くのだろう。
きっかけは街でぶつかってしまったこと。その時だけならば、なんでもない良くある風景。
出会いは繰り返し、自分は”あの人”を意識するようになってしまった。
こんなこと思っているなんて変かな。
名前も知らない人なのに。
でも、何処に住んでいるかとか、家族構成とか、学校は何処に通っているかなんてしらないけど。
自分はあの人の事を知っている。
倒れかかった看板が遮った日差しを、道のタンポポに返してあげているところを見た。
迷子で泣きそうだった女の子に誰より先に気がついて声を掛けてあげているところを見た。
込み合った道を横断できないで困っていた人の横で、ただ黙ってゆっくりと一歩引いた。その行為に周囲が気がつき皆が道をあけてくれたところも見た。
そんな人なのだ。
声高に何かをいうことはなく。
押し付けがましく何かをすることもなく。
静かにその優しさを見せる。
だから”あの人”がいるだけでその場の空気が揺らめいて和らぐ
その空気は独特で自分の瞳を捕らえてしまう。
これはだからきっと”そういう事”なのだ。
案の定、向かいの通りに”あの人”の姿を発見して、小さく笑う。
何故かいつものように困った様子で周囲を見渡しては、背面に設置されている案内看板と見比べている。
今日は休日。
公園通りは買い物客やら何やらでごった返している。その筈なのに”あの人”の姿は浮き出たように発見できてしまう。
(しょうがないな)
嬉しげに呟いて丁度シグナルの変わった交差点を渡る。
声を掛けると驚いたように振り返って、安心したように笑みをこぼす。
「ああ、あなたは」
「今日はどうしました?」
「いつもすいません。僕は植物園を探していました」
すまなそうに頭を下げる青い髪の青年。私は笑顔でお互い様ですよと返して道を教えてあげる。
ホッともらす青年の笑顔が周囲に広がる。
空気が変質する。
去っていう青年の背中に手を振って自分もその場を後にする。
分かれるのは少し惜しい気もするが、こればかりは仕方がない。
それにまた会えるだろう。
近いうちに、きっと。
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