やつがきた
やつがきた


今朝からクラスの中は騒がしい。
これ見よがしに置かれた空席は、席替えによって真ん中の方へ移動した。
(都合よく真ん中の席が空いているわけねーだろ。転校生への配慮ってやつだ。流石にあとから入ってきて一番後ろじゃ寂しかろう)
んで、俺の横だったりする。
空席。
そしてその向こうに日野という順番だ。

これは!と思ったね。
そこそこ。そこの女子。「男子かな女の子かな」じゃねぇ。こうなれば女に決まっている。
根拠はない。勘だ
俺は本能に生きる男。コレと思った勘は外さない。……この前のテストのヤマは偶々外したんだ。
まあいい。そんなわけで俺の隣には女の子が来る!これは決定。
もちろんお約束に可愛い子だ。
季節外れの転校生といえば訳ありか美形に決まっている。
その点星奏学院はそれなりに名門だからな。素行の悪い奴は入れない。
だから後者で間違いない。
それで、面倒なので色々手段段階すっとばすが、長く一人身のこの俺にも幸せな未来が約束されるのだ。
教科書を見せてあげたり、校舎内を案内したり等つけ入る隙は少なくない。
今に目にものを見せてくれる!

おおっと、間違えた。つい気が逸って討ち入りかなんかと混同した。

あ、先生が来た。
お待ちかねの転校生だな。

男かよ!
夢破れて山河あり、城春にして、なんだっけ
思わず昨日習った漢文が浮かぶ。
うん。間違っている気がするのは分っている。だが俺は気にしない。
あーあ、つーまーんねー。
男なんか増えても面白くないことはあっても面白いことなんて一つもない。
ああ、断言するね。
だって、あいつ美形だもん。
違う。当たって欲しかった予想は美形だけじゃなくてその前!男前が増えたところで面白いわけねーだろ(絶叫)
うわー、女どもは歓声あげて喜んでら。

ふん。「加地葵」って名前だけは女っぽいな。
まあ、自己紹介の感じでは悪いやつじゃなさそうだ。
自分の座る席(とどのつまり俺の横)を指定されてたら、輝かんばかりの笑顔。
ほっほー。そんなに俺の隣が嬉しいか。
そこまで言うなら仲良くしてやってもいいぞ。特別に俺の好きなやきそばパンが購買に並ぶ時間帯を教えてやってもいい。(貧乏くさいとかいうやつもいるが、俺はあのしみったれ感が大好きだ)

ってオイ。
少しは日野から目を離せ。
俺を認識しろ。
このクラスには日野の他にも生徒はいるんだ!
ほら、前の席の加藤。お前もなんとか言ってやれ。今お前が声かけたのに完全にスルーしたぞあいつ。
まさに猫まっしぐらに一直線に日野に向かっていったな。
加藤、俺はお前と同じ愚は犯さない。
賭けてもいいぞ。あいつの頭に今日の俺達の記憶はないって。




……加地が出てからというもの、まっとうな恋愛話は思い浮かばない。
いやー、コルダは皆のテーマカラー決まっていて、背景飾るの楽ですね。
文中の漢詩は正しくは「国破れて山河あり、城春にして草青みたりと」By杜甫ですね。

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