− NERO −

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【NERO】

音楽が終わったらわかってしまう
非常灯をつけたらわかってしまう
スクリーンに映し出される
わたしはここに居ない
だからあなたの声は聞こえない

レンズを覗いて
音を消す前に
目を閉じて
物語を創って
手を伸ばして
触れたものを数えて

暗闇に閉ざされている
暗闇に帰結されている
スクリーンに映し出される

とおりぬける
とおりぬける
とおざかる雨雲のように
埃にまみれた声
ひとつのイメージ
ひとつの記憶

拾わないと魔法が解けてしまう
確かめないと崩れ落ちてしまう
わたしはここに居ない
だからあなたの声は聞こえない
 
 


 

【ハイウェイ】

おおきな雨粒がひとつふたつ
ふりきれなくなった交差点で
まっくろのわたしは立ち止まった
夢はいつまでも夢のままで
信じられるものはどこにもない
ただ少年はピアニカを弾いていて
ハイウェイは音を乗せて走り続ける
あとすこし
あとすこし
息が切れるまで

おおきな雨粒がひとつふたつ
染み込んでくるような日だった
靴ずれの左足をひきずって
野原に着いたときには
ちょっとだけ雲が晴れて
霧の向こうが見えたんだ
相変わらず少年はピアニカを弾いていて
ハイウェイはまだまだ走り続ける
もうすこし
もうすこし
もうすこし
 
 


 

【言葉にならない】

ずっとずっと昔に扉を開いた
透明な朝日の中で溶けてなくなりそうな
1つの存在に怖くて触れられなかった
泣いて、泣いて、泣きたかった
繰り返される凍てついた言葉に
やがて幾つもの影を手放した

午前3時のアラームが鳴り響く
毛布をかぶったままきつく目を閉じて
目に見えない揺らぎを追いかけていた

何が欲しい?
何が欲しい?
言葉にならない。
地に足をつけることを忘れたまま
鼓動の静まりを待つ長い時間に
余計なものや失ったものを数えていた

胸ポケットに窓の鍵を持っていながら
ガラスを壊そうと必死になっている横顔が
誰よりも近くて誰よりも遠く見えた
遠く、遠く、遠くへ消し去ろう
外に向かって手を伸ばそうとしても
その破片に遮られることに早く気付いて

午前3時のアラームが聞こえる
君はもう眠っていますか?
どうか、安らかに眠っていますように

やさしくなりたい
やさしくなりたい
言葉にならない。
何も要らない 何も要らない 何も要らない
どうか、どうか、安らかに眠っていますように
 
 


 

【キャンバス】

広い広いキャンバスは
広がることを自己目的化して
地球の表面を覆い尽くした
視線の先は定まらず
悲しみだけがこみ上げる

今、空白のキャンバスに色が乗せられる
彼女の絵筆は地殻に入口と出口を
そして肯定と否定を描いた
君は誰
君は誰
君は誰
何を追いかけているの
何を守ればいいの

勝ち負けじゃなくて
理論でもなくて
ただ楽しいことを考えよう
楽しいことだけ考えよう

長い長い時間は
時間が経つことも忘却して
未来を現在に、現在を無に変えていった

今、真空の時間に息が吹き込まれる
彼女の体温は過ぎた時に意味を与え
過ぎゆく時に密度を与えた
僕の心
僕の心
僕の心
何を追いかけているの
何を守ればいいの
 
 


 

【虚数】

「虚数は、存在しない数なんだ」って
高校の時、数学教師が云った
そして教科書のその章が終わるまで
存在しないはずの数とずっと戯れていた

ちょうどその頃、季節は夏になった
学園祭に向けた映画の撮影があって
宿題もせず新聞もろくに読まず
休み中なのに一日中学校に来ていた

そして再び授業が始まったとき
数学の授業は新しい章に入っていて
クラスメイトには新しい彼女が出来ていた
完成した映画の評判はなかなかだった

「人の間と書いて人間なんだ」って
小学生の時、担任の先生が云った
僕らの間の何もない場所が人間なら
僕ら自身は一体何なのだろうと思っていた

下校時刻に教室を追い出されるまで
存在してないはずの人間と語り合っていた
外に出たらいつの間にか雨が降っていた
雨の皮膚感覚が僕のいる場所を示していた

喫茶店で数学の古いノートを開いて
式を見つめながら誰かのことを考えていた
名前を書いて消したら式まで消してしまって
二度と何が書いてあったのか思い出せなかった

顔を上げると横断歩道の向こうに
存在してないはずの人間が立っていた
僕は赤信号を無視して走り出した
走りだす鼓動が僕のいる場所を示していた
 
 


 

【カタチ】

ぼくには形がない
視覚と聴覚のカオスに
身を投げ 漂っている
ただきみの視線の中に
身を投げ 漂っている

言葉には嘘がない
言葉を整理すれば
思考は整理される?
言葉に変えた瞬間に
事実になってしまう

望む物は事実
恐れる物は事実
ぼくはカオス
ぼくは白昼夢
きみが去る前に
言葉を残していくことを
待ちわびているのです
 
 


 

【とけいがまわる】

とけいがまわる
あなたが居ない間に
とけいがまわる

あいしているの
あいしてないの
ひとりにしないで
わたしはここに
わたしはわたし

冷たい土を踏む
裸足で冷たい土を踏む
歩きつづけいる

あいにくるの
あいにこないの
ひとりにしないで
何かを望んでいるから
待ちつづけいる

どうでもよくないの
どこにもいかなければ
どうでもいいの

ほら
とけいがまわる
あなたが居ない間に
とけいがまわる
 
 


 

【talk】

風の刺す雪の日に君は云った
お伽噺を信じられなくなっても
信じていた時代は忘れないでいよう、と

それははるか遠い昔
待ちわびた手紙を受け取って
封を切る瞬間
すれ違い顔を上げたとき
ふっと過ぎる気配

陽ざしの香る春の日に君は云った
わたしに出来ることはただ
沈む三日月に想いを託すことだけ、と

それははるかとおい現在
目覚める度に淋しくなって
カーテンをかたく閉めたり
とつぜん罪悪感に苛まれて
カーテンを切り裂いたり

風の刺す雪の日に僕は云った
思い出さなくてもいいよ
眠ってしまっていいよ

だから風向きが変わったら
青白いランプを吹き消して
世界の果ての歌を聴かせて
世界の果ての物語を聞かせて
 
 


 

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