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 練習を終えた僕とジュンコは、自動販売機からジュー スを買って、汗を拭き拭き部室に入った。部室の中には ユキコ先輩と、メイ先輩がいた。……いや、この言い方 は正確ではないかもしれない。狭い部室のちょうど真ん 中あたりには、ユキコ先輩の右半分と、メイ先輩の左半 分が無造作に転がっていたのだ。
 僕はしばらくの間、時間が止まったように立ちすくん でいた。どこかで蝉が狂ったように鳴いている声が聞こ えていた。ジュンコも、悲鳴をあげるわけでも座り込む わけでもなく、ただしばらくそれを見つめていた。突然 どこかの異次元空間にワープしてしまったとしたら、こ んな感じかもしれない。
 不思議なことに、その辺には血が流れたり汚く飛び散 ったりした跡は見当たらなかった。真っすぐな切り口か らは脳や内臓が教科書の模式図のようにはっきり見えて おもちゃの模型のようだった。部室は静かで、いつも通 り散らかってはいるけど、いつも通りの平和な雰囲気で、 ともすると目の前に転がっている非日常を忘れてしまい そうだった。
 これはきっとよくできたホログラムか、でなければ粘 土で作った人形なんだ、とも考えてみた。そうすればこ の異常なシチュエーションも死体の現実間のなさも、一 応の説明はつく。いや、それとも、ここは僕の夢の中な のかもしれない。それが一番ありうると思った。さっき まで炎天下で部活をしていたんだ、突然熱射病で倒れて 夢を見始めても不思議じゃない。そうだ、これはきっと 夢の中の話なんだ。僕は、そう思うことにした。
 やがて、ぎしぎしという音と共に、窓ガラスに反射し た風景が目に入った。一人の女の子がドアを開けて入っ て来たみたいだった。僕は振り返った。
 まあ、こういうことがあってもいいかもしれない。何 しろここは僕の夢の中だからだ。今、ドアから何事もな いように歩いて入ってきた女の子は、紛れもなく、ユキ コ先輩の左半分と、メイ先輩の右半分だった。ええと、 どうやって説明しようか。つまり、先輩達は別々に入っ てきたわけではなくて、二人の半分はちょうど真ん中で くっついていて、遠くからみれば一人の普通の女の子の ように見えるのだ。
 僕はとりあえず、愛するジュンコを背中に庇いながら 話しかけてみる。 「ど、どうしたんですか。」 「私達、半分ずつになってしまったの。」
 ユキコ先輩とも、メイ先輩ともとれる声質だ。でも、 今答えたのは多分メイ先輩のほうだろうと僕は見当をつ けた。 「やっと見つけたわ。私達の残りの半分。」
 とすると今のは、ユキコ先輩のほうなのだろうか。
 二人は、いや、一人なんだけど、先輩は、何かに惹か れるように歩いて近づいてきた。いつの間にか両手に長 い棒のようなものを持っている。それで床に転がってい る残りの半分×2をおもむろにかき混ぜ始めた。
 やっぱりこれは粘土で出来ていたのかもしれない。そ の半分×2は、たいして力を入れている様子もないのに 滑らかに混ざっていった。最初の頃は血の赤褐色をベー スにした粗いマーブル模様が渦巻いていたが、だんだん その模様が細かくなり、しだいにムラがなくなって、均 一に混ざってくる。そして、ついに無地になった。
 次の瞬間、かちっという音と共に、鮮やかなオレンジ 色に強く光った。僕は、思わず目をつぶる。
 数秒後、恐る恐る目を開くと、その光はすうっと消え ていく所だった。あとには、小さなプラスチックのよう なオレンジ色の固まりが残されていた。 「さよなら、私達の半分……。」
 先輩達は混ぜるのを止めて棒をそっと床に置くと、心 底悲しそうに、さめざめと泣いた。
 ジュンコはいつの間にか帰ってしまったらしい。姿が 見えなかった。僕も早く帰りたい。でも、何となく、今 帰ってはいけないような気がした。僕は好奇心も手伝っ て、このプラスチック風の物体に近寄ってみた。指先で そっと触れてみる。
 明るいオレンジ色は僕に流れ出したマグマを連想させ た。いかにも熱そうだったので、最初は慎重に近づいて、 恐々と人差し指の先で触れた。熱くはなかった。もう少 し手に力を入れてみても、何ともない。その代わり、触 っていた手を離そうとした途端、電気のようなものが僕 の全身を貫いた。体が引き裂かれるようなショックを感 じた。 「痛い!」
 どこからともなくジュンコのような声がした。唇を動 かしたのは僕だったような気がする。いや、今のはたし かに僕だった。嫌な予感がした。勿論、予感は当たって いた。いつの間にか、僕とジュンコは先輩達と同じよう に、まさに半分ずつの身体になっていたのだ。 「そんな……!!私達愛し合っていたのに、こんな姿じゃ お嫁にいけないじゃない!!」
 彼女は、自分がどんな状況に置かれているのかに気付 くと、あらためて泣き叫んだ。
 いやその、確かに僕たちは愛し合ってはいるわけなん だけど、果たしてそういう問題なんだろうか。そうじゃ ないと思うんだけど。でも、やっぱり言われてみればそ ういう問題のような気もするし。うーん。
 まあ、こんなことがあってもいいのかもしれない。何 しろここは僕の夢の中だからだ。とりあえず、一番最初 にしなければいけないことは、僕と彼女の残り半分を捜 すことだ。一体どこに行けば見つかるのだろう。僕は、 目の前のオレンジ色の物体を眺めながら、しばらくの間 思案していた。  
 

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