鑑賞日記#5 彼が読むべきだった本

先日死刑になった金川真大は、犯行に及んだ理由の1つに永井均の「<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス」を挙げていた。
この本の中には、なぜ殺人がいけないのかを考える章がある。そして永井均は、「死刑になると知っていて、それでも殺人をしたいというならば、それを否定することは出来ない」という結論に達している。これを読んで金川真大は、自分が死刑になるために殺人をすることを肯定されたと感じたらしい。

確かに、哲学の知識に長けたわけでない彼がそう解釈してしまうのは仕方ないかもしれないが、これは完全に誤読である。
そもそも哲学における真と偽は、あるかないか、であって、正しいか正しくないか、ではない。永井均は、殺人という行為や、殺人をしたいという意思が、錯覚などではなく間違いなく存在するということを肯定しただけで、それが「正しい」と言っているわけではないのである。

個人的には彼は、いや、この世の中に生きずらさを感じている全ての若者には、永井均ではなく中島義道を読んで欲しいと思う。「<子ども>のための哲学」は、哲学研究の初級テキストとしては良書であるが、そもそもほとんどの人にとって哲学研究は必要ではないのだ。

中島義道は、哲学研究者ではなく哲学者である。故に、日本の哲学研究界においては異端であるが、生きにくい世の中をいかにして生きるか、を自らの身をもって明らかにしている人である。
笑顔で近づいてきて、無意識のうちに相手にも笑顔を強要してくる偽善者が嫌い。町中に響く、サービスを装った騒音が嫌い。嫌いなものだらけのこの世の中で、いかに生き抜けば良いのだろうか。嫌いという感情を肯定した上で、それでも好きになりたいという葛藤を常に抱き、ぎりぎりのところで悩みながら生きていく、それこそが人間の醍醐味ではないのだろうか。このような彼の思想を学ぶことは悩める若者にとっては大きなヒントとなると思う。

学問としての「哲学学」ではなく、生きにくさを克服するための哲学とは何かを知りたい人には哲学の道場 (ちくま文庫)
もうすこし具体的な指針が欲しいなら、、人生を「半分」降りる―哲学的生き方のすすめ (ちくま文庫)人生に生きる価値はない (新潮文庫)がおすすめです。
いかにも非リア的でそそられるタイトルじゃありませんか?
 


 

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