鑑賞日記#2 松ケン映画で新進監督を掘り起こせ

DEATH NOTE [DVD] 」の映画化で、松ケンのあまりの憑依力に一目ぼれしてしまい、それ以降松ケンの恋人として人生を歩んでいる私でありますが、最近はちょっと考えが変わってきました。松ケンの魅力は、「神童」「カムイ外伝」のように漫画のキャラクターを三次元で再現することよりも、新進気鋭の若手映画監督のやりたいことを空回りさせずに具現化する能力にあるように思います。

たとえば2008年の「人のセックスを笑うな [DVD]」。 映画館で「人のセ、セ、セ……クスを笑うな、1枚下さい」とどもりながら言ったら「本日は売り切れです」とあっさり返されて絶望的な気分になったりもしましたが、そんな絶望もいざ映画を観たら、この監督の個性的な演出に度肝を抜かれ、全て帳消しになりました。

まず、カメラが全然動きません。ただの長回しではなくて、例えば登場人物が部屋を出てしまった後も、延々と同じアングルで無人の部屋を映し続けるのです。隣の部屋で喋っている声だけが微かに聞こえてきます。そして、そろそろ放送事故かと思ってきたころ、やっと部屋に登場人物が戻ってきます。そして、カメラはまだ動きません。

この非常識なまでの長回しが、「重要な部分をあえて見せずに音声だけで想像させる」という意外な効果をもたらしてくれて、そのおかげでクスクス笑いの絶えない劇場でした。

また、脚本も特異で、意味のない動作が延々と続くシーンがかなりあります。蒼井優がひたすら菓子を食べ続けるシーンが1分以上続いたり、きゃっきゃうふふ言いながらゴムボートに空気を入れ続ける描写だけがやはり1分以上続いていたり。

これが全然退屈しないのです。何かの目的のための描写だったら、「もう分かったから早く次に行けよ」と思ってしまうのですが、恐らくこれは描写自体が目的なのだと思います。「かもめ食堂」系の間の取り方と近いかもしれません。 逆に、ハリウッド系のテンポの良い映画が好きという人には受け入れられないかもしれません。

すっかりこの独特な時間の流れ方の虜になってしまったので、同じ監督の前作「犬猫 [DVD]」も観てみようと思います。

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松ケンの「新進監督発掘能力」を三度確信したのは、2010年「ウルトラミラクルラブストーリー [DVD]」です。

これは恐らく「人のセックスを笑うな」以上に人を選ぶ映画なので、安易に他人に薦めて良いものか悩むのですが、深読みして妄想するのが好きな人なら「ウルトラミラクルラブストーリー」1本で1ヶ月は飯が食えると思います。

本作品は、一言で言えばあり得ない出来事が次々に起こるラブストーリーなのですが、物語の中で起こる「あり得ないこと」にはいくつかのパターンがあります。
まず、何かのメタファーとして使われる場合。
それから、想いと現実を繋ぐ奇跡として使われる場合。
更に、舞台設定が不条理であることや、リアルを追究しているわけではないことを示すために使われる場合。
「ウルトラミラクルラブストーリー」には、この3パターン全て使われています。

まず、知的障害のある主人公が農薬を浴びるとまともになってしまう、というエピソード。これは明らかにメタファーでしょう。魅力的な天然少年が、人工的な圧力によって、本人にとって「不自然」である「まとも」な状態であることを強いられる状況を描くにあたり、人工的な圧力を農薬に喩えているのです。

一度死んだはずの主人公が、マチコ先生を想って生き返るのは、古典的な2番目のパターンと考えて良いでしょう。

また、ARATAさんの演じるある人物が出現するシーン(ここはぜひ、ネタバレせずに見て仰天して欲しいです)は、3番目のパターンだと思われます。ある意味で、安っぽいリアリズムを描くつもりはないという監督の決意表明でもあると想います。

好き嫌いがはっきり分かれる(そして、おそらく嫌いのほうに振れる人が多いであろう)映画ですが、この監督にはこれからも世間に媚びることなく、志を貫いて欲しいと思っています。前作「ジャーマン+雨 [DVD]」も本当に癖があって分かりにくいけど、様々なインスピレーションを与えてくれる作品です。
 

       
 

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