鑑賞日記#10 2012年ベスト映画

個人的ランキング1位。「桐島、部活やめるってよ

文化系の非リア充をゴミ以下の風景としか思っていないようなリア充グループの高校生たちが、リア充中のリア充である「桐島」という象徴的存在を失うことによって、突然アイデンティティを揺らがされるんですね。
そんな時に存在感を増すのが非リア充なわけですが、非リア充の強みは自らの無力さ、無根拠さを既に知っているということです。いわば、無知の知です。失恋の悲しみをどうやって昇華すればいいのかも、どれだけみっともなくても生きていかなければいけないことも知ってる。それは決して「勝ち」ではなくて、むしろ「負けの肯定」であるのだけれど。
「神は死んだ」とかつてニーチェは言いましたが、神の死とはつまり、神の意志に拠らずに自ら生きる人間の誕生です。神(桐島)を殺すことによって、人間を描こうとした作品なんじゃないでしょうか。と哲学修士らしく暴走してしまいましたが、内容は一応学園ドラマです。いやほんと。

個人的ランキング2位。「レンタネコ

大好きな荻上直子監督の最新作。
やっぱり荻上直子本人が監督した作品と、類似品は全くの別物です。流れる時間の「時間感」、出てくる物の「物感」、満たされている空気の「空気感」が全く違うのです。
ほのぼのとした田舎でもたいまさこが美味しそうなものを食べてるのが荻上直子の映画じゃねぇんだよ。愛すべきヒトと、そのヒトが生きる時間を、モノへのフェティシズムで繋いでいるわけで、肝心のヒトと時間が描けてなければモノばっかり真似しても意味ないんだよ。

そして、今回のフェティシズムの対象は「ネコ」。でも、決してこれはネコ映画ではありません。ネコをレンタルすることで心の穴を埋める映画、というのはあまりにも表面的な言葉に騙された理解です。大事なのは主人公がネコと共に生きている時間のほうであって、主人公自身は穴を埋めたがっているわけだけど、ひょっとしてその穴は、アリの巣や墓穴と同じように埋めないほうが良いものなのかもしれない。埋めたいと思いながら、ネコと一緒に生きていること、それ自体に意味があるのかもしれません。

個人的ランキング3位。「夢売るふたり

どんなに良い人でも、たとえば突然大金を手にするとか、信じていた人に裏切られたとかすると、突然人が変わってしまうことがありますが、里子の場合はその2つが両方同時にやってきたわけで、そりゃ豹変してしまう理由としては十分すぎます。

面白いと思ったのは、貫也が最初の頃は「ほとんど嘘をついていない」ということ。生い立ちも妻がいることも全部正直に話している。
それが徐々に、妻が妹になり、更に病気になり、と嘘が上手になっていくんですね。最終的には、妻にさえ嘘をつくようになってしまう。

一見救いのない話ではありますが、見続けるのが辛くならないのは、「それでもこの二人は、最終的には愛し合ってる」ということが最後まで分かるからだと思います。すれ違い真っ最中でもひざまくらするし寝室も一緒だし(セックスレスではあるけれど)、ラストシーンも二人の絆が暗示されています。

西川美和監督作品の心地よいところは、観客が「信頼されている」感があるところだと思います ただ、そういう意味では最後に起こる「事件」は不満でした。 この世界には包丁も血も要らないのでは。ただ地味に捕まるだけでも十分クライマックスとして成立する世界なのに勿体ない。

個人的ランキング番外編。「テルマエ・ロマエ

原作ファンの一部には不評みたいですが、個人的には何も考えずに大笑いして見られて楽しかったです。

これからローマの歴史的悲劇のスペクタクルが始まります!と言わんばかりの壮大なオープニングから既にツボでした。実際始まるのは戦争でも虐殺でもなく「風呂作り」なんだけどな。
話の内容自体は全然違うけど、このくだらなさとか、無駄に高いテンションとか、のだめカンタービレと近い気がします。と思ったら、監督が一緒なんですね。

阿部寛はどこからどう見てもローマ人にしか見えませんでした。
予告編見たときは、「上戸彩いらねー」って思ったけど、想像したよりも面白いキャラだったので違和感ありませんでした。あれはあれでアリ。後半のオリジナル展開も、一応伏線回収してまとまってたのでいいんじゃないの。特に「涙」のオリジナル演出は良かったです。
 


 

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