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の中には、決してやってはならないことというものがある。寅さん風に言えば、「それを
やっちゃあおしまいよ」である。こと、プロ(つまり職業として)を標榜するスポーツ競技で、
決してやってはならぬこと、それが八百長であろう。誤解を恐れずに言えば、殺人よりも
罪は重い。仮に違法行為を犯しても、刑事罰を受け、社会的制裁を受けて更正したので
あれば、球界復帰も吝かではないと、個人的には思っている。が、スポーツ倫理の面で
言えば、八百長を行なうということは、最低最悪の行為に他ならず、決して復帰を許して
はならない。
その、史上最悪の行為が日本プロ野球界にもあった。
昭和44(1969)年、10月7日。西鉄ライオンズは、かねてから疑惑のあるとされていた
永易将之投手が暴力団と関係を持ち、公式戦において八百長行為を行なっていたことを
正式に認めた。同時に、同投手の解雇も発表した。翌日には、楠根宗生オーナーと国広
直俊球団社長が西鉄本社で記者会見して詳細を公表した。
これがすべての発端であった。
事態を重視したコミッショナー委員会(宮沢俊義、金子鋭、中松潤之助)は、永易将之
投手の永久追放を決定、発表した。さらに昭和45年3月に開催された通常国会の予算
委員会(衆議院)で取り上げられ、社会問題化する。ただ、このときはまだ永易投手
ひとりだと思われていた。
その後、永易投手がマスコミ取材を受け、新聞やテレビで「敗退行為に加担したのは
私だけではない」と発言し、球界とファンと愕然とさせた。
翌昭和45年、この事件は球界に大激震を引き起こした。3月の衆議院予算委員会で
社会党議員が問題を取り上げ、東京地検特捜部も動き出した。これにより、首謀者・
藤縄洋孝が逮捕されたが、彼の自供によって、西鉄のエース・池永正明投手も名を連ね
ていることが判明、それこそ球界は仰天した。
慌てふためいたコミッショナー委員会は関係者から事情聴取を開始、西鉄の与田順欣
投手、益田昭雄投手が敗退行為に参加したかどで永久追放処分、同じく池永正明投手
も敗退行為を勧誘され現金100万円を受理したとして永久追放処分とした。
さらに、敗退行為は拒否したものの、現金を受け取った西鉄・船田和英内野手、村上
公康捕手を昭和45年いっぱいの出場停止処分、同じく基満男内野手を厳重戒告処分と
した。
多数の処分者を出したが、まだ事態は沈静しなかった。
中日のエース・小川健太郎投手が、オートレース八百長に関係し逮捕され、さらに野球
の八百長にも参加したことが判明、永久追放処分。東映のエース・森安敏明投手も八百長
に関係したとして、やはり永久追放処分が下った。他にも、八百長行為はもちろん、暴力団
との付き合い、オートレース八百長への関係者など、両リーグで10名を越える1軍選手が
出場停止や戒告などの処分を受けた。
この事件で、多くの主力選手に逮捕者、永久追放処分者を出した西鉄は球団運営の意欲
を喪失、名門・西鉄ライオンズ消滅の遠因となった。
なお、この事件の当事者である元・西鉄の池永正明投手復権の動きが、野球解説者の
豊田泰光氏を中心に起こっているが、筆者としては絶対に反対である。上記した通り、池永
元投手は、プロ野球選手として決してやってはやらぬことをやったのである。人間として失格、
とまでは言わぬが、少なくともプロ野球に関係することは許せない。仮に、池永元投手は八百長
には参加していない、金も受け取っていないというのなら話は別だが、もしそうなら堂々と再審
請求すべきであろう。また、金を受け取りはしたが八百長はしていない、という場合でも、筆者
としては永久追放はやむを得ないと考える。金を受け取った時点で、すでに加担したのも同然
だからだ。この場合、八百長賄賂だとは思わなかったでは済まされない。常識的に考えて、
何の意味もなく100万円もの大金(しかも昭和44年での100万円である)をポンをくれるはず
がないだろうということくらい子供でもわかるからだ。
豊田氏らの主張が「もうそろそろ許してやってよ」というものであれば論外である。二度とこの
種の犯罪が起こらぬようにするためにも、永久追放処分は解くべきではないと思っている。
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