水分補給


理奈 「人気あんのかな、ここ。質問、減らないね」
一平 「けっこうなことですよ。こういうコーナーはネタが尽きないから」
理奈 「んで今回なんだけど。ばっかすさんからでぇ、”最近、プロ野球中継で、ベンチが
    映されると、みんな何か飲んでいます。前は試合中は水なんか飲めなかったと
    思うんですが、なぜ今はいいんでしょうか?”だって。そうね、チェンジになったりす
    るといっつも何か飲んでるよね」
一平 「(^^;)」
理奈 「なによ、その苦笑は」
一平 「だってこれは野球に限ったことじゃないと思うんですけど(^^;)。どっちかって言えば
    スポーツ医学じゃないんですか?(^^;)」
理奈 「いいじゃないのよ、野球だって関係あんだし。わかるんでしょ、どういうことか」
一平 「でもなあ、いい加減なことも言えないし・・・」
理奈 「わかったの、わかんないの!?」
一平 「はい(^^;)・・・」
理奈 「最初っから素直にそういやいいのよ。で?」
一平 「そうだなあ、一般的になって、まだ10年くらいじゃないのかな。理奈は、試合中、水
    飲めないっての知ってたか?」
理奈 「知んない。だってウチのチームだってみんな飲んでるじゃん」
一平 「昔はな、試合中はもちろん、練習中も水分を採るのは御法度だったんだよ、無論、
    野球に限らない」
理奈 「ゴハットって何?」
一平 「辞書を引きなさい(^^;)。まあ、禁止ってことだ」
理奈 「なんでよ? 夏場のあっつい盛りの時でもダメだったの?」
一平 「そ。練習終わるまで飲めなかった」
理奈 「また何で?」
一平 「試合中や練習中に水分を補給すると、スタミナがなくなるって信じられてたようだ
    ね。横っ腹が痛くなることもあるし」
理奈 「あ、お腹痛くなることはあるよね。でも、スタミナがなくなるって、どゆこと?」
一平 「正直言って、迷信に近いと思うよ。ただ、冷たいものを飲むと、体はそれを吸収す
    るために、その温度を体内で上げているんだそうだ。だから、そのために余計なカロ
    リーが使われるってことはあるんだね。そういう意味ではスタミナが落ちるというのも
    まるで根拠がないってわけじゃない。それに水飲めば、当然、汗はかくからね」
理奈 「じゃお湯ならいいの?」
一平 「そういう理屈になるよね。でも、昔はもちろんお湯もダメだったんだから、もうほとん
    ど意味がないと思う。それに、よほどがぶ飲みしない限り、腹痛になることもないだ
    ろうし、お湯よりは冷たい飲み物の方がリフレッシュ効果もあると思うんだけどね」
理奈 「汗いっぱいかいてるんだから、水分補給だって必要だよね」
一平 「その通りだね。だいいち、マラソンではみんなドリンク飲んでるじゃない。マラソンみ
    たいに激しいスポーツには不可欠だってことだよね。なのに水分とったらスタミナ落
    ちるなんて理屈は、マラソンを前にしたらもろくも崩れてしまう。当然、他のスポーツ
    だって飲んでいいんだよ」
理奈 「これって最近の話なの?」
一平 「うん、そうだね。この話で、大の野球ファンとして有名な池井優慶大教授が、共同通
    信系の新聞コラムでこういう話を書いてる。簡単に説明するからよく聞いて」
理奈 「はーい」
一平 「ある野球部の監督が、ひとりの高校生を連れて小さな医院を訪れたんだ。この生徒
    は野球部のピッチャーだった。監督は先生にこう相談したんだ。「先生、この子はピッ
    チャーで、いいタマを持っているんですが、惜しいことにスタミナがない。大変な汗っ
    かきで、前半は素晴らしい投球をするんですが、後半必ず崩れてしまうんです。何か
    いい方法はありませんか?」って」
理奈 「ふんふん」
一平 「相談された先生は考えた挙げ句、水分を補給するのがいちばんだと思ったんだね。
    ただ、普通の水じゃだめだ。かえって汗が出て、電解質や無機質まで体外に出てしま
    う。電解質のアンバランスを補うために、体液成分に近いものを飲ませたらどうだろう
    と」
理奈 「体液成分?」
一平 「簡単に言えば、生理食塩水だろうな。でも、当然、この水分補給という考え方は監督
    に反対されたんだ。ムリもない、水を飲むから汗をかく、だからスタミナが落ちるとい
    う考え方が主流だったからね」
理奈 「だからタダの水じゃないのを飲ませようとしたんだね」
一平 「そうだ。先生はこう言って説得したんだ。「監督、夏場の暑い中、野球の練習を何時
    間もしたら、3〜5リットルくらいの汗をかくんですよ。汗ってのは水分だけじゃない。
    体に必要不可欠なカリウムにカルシウム、ナトリウムなどの物質も一緒に出ちゃうん
    です。これがどれだけ人間の体に悪影響を与えることになるか。そもそも脱水症状に
    なったら、集中力もなくなりますよ。バテて試合に結果の出せない選手を、根性が足
    りないで片づけるのは無茶ですよ。精神論を否定するつもりはありませんが、肉体に
    必要なものを無視するのはもってのほかです」とな。そして、「試しに私が作る飲み物
    を飲ませながら投げさせてみませんか」と言ったんだな」
理奈 「で、どうなったの?」
一平 「吉と出た。医師の指示通り、3イニング毎にコップ1杯ずつ飲ませてみたんだ。夏の
    県大会第三回戦に登板したそのエースは、最後までバテることなく見事に完投勝利
    を収めたんだ」
理奈 「やったじゃーん」
一平 「見事だね。実は監督、この自家製ミネラル・ウォーターを、他の部員たちにも、練習
    の合間合間に飲ませていたんだそうだ」
理奈 「そんで、その特製ドリンク、どういうものだったの?」
一平 「うん、まず基本は井戸水。ここに食塩を0.85%加えた。これは生理食塩水の濃度
    だね。ここにハチミツを加えて、さらに口当たりがいいようにアスコルビン酢酸、つまり
    ビタミンCを入れたんだね。要するに、今のスポーツ・ドリンクの原型と言っていいだ
    ろうね」
理奈 「すごいねー、なんかテレビドラマになりそうな話。あ、でもそこの監督さんて部員みん
    なに飲ませたんでしょ? じゃあ結果もかなり良かったの?」
一平 「実はこの高校、和歌山の箕島高校なんだよ。県立高校なのに、選抜で3回、夏にも
    1回優勝している、名門中の名門だ。この箕島伝説が出来上がったのは、このミネラ
    ルドリンク以降の話なんだよ」
理奈 「すごーい、じゃあ、そのお医者さんのおかげで強豪に・・・」
一平 「一概にそう言うわけじゃないけど、かなり好影響はあったろうね。精神論だけじゃな
    い、もっと科学的に取り組まなきゃダメだっていう好例だ」
理奈 「なんか、今回はちょっと為になった感じがするー」
一平 「今回だけかい(^^;)」