ソフトボール??


理奈 「うし。これが今年最後の質問回答かも知んないからハリキッて行こうね。
    じゃ早速ね。えーーと、なになに? 中学生〜〜? わー中学生の子から質問だ、
    うれしーなー。んと、門田正人くんからね、「この前、オリンピックで銀メダルを
    取った女子ソフトボールのチームが巨人と試合をやって勝ちましたけど、なぜ
    プロなのに負けたのだと思いますか?」ということで」
一平 「ははー、なるほど。これに限らず、今年は女子ソフトが注目されたから、プロの選手
    と対戦するケースもけっこうあったよね」
理奈 「そうだったかな。で、ホントに負けたの?」
一平 「負けた。まあ、巨人だけじゃないがね。単独で打者と対戦する企画もだいぶあった
    ようだが、基本的にはあまり打ててないね」
理奈 「どうして? ソフトって下投げだし、タマだってプロよりずっと遅いんでしょ?」
一平 「そうなんだけどな。でも、その分、マウンドからホームまでの距離は野球よりソフト
    の方が近いだろ?」
理奈 「あ、そうか。どれくらいなの?」
一平 「アメリカ代表チームのエース、フェルナンデス・スミス投手は時速110キロを出し
    たって言われてるね」
理奈 「じゃ遅いじゃん。プロは140キロくらい出るんでしょ?」
一平 「だから言ったろ? マウンド−ホーム間が野球より狭いんだよ。おおよそ2/3って
    ところだ」
理奈 「そっか、じゃあ野球で言うとどれくらいのスピードになんの?」
一平 「うん、距離が2/3だから速度は3/2倍だというのが定説だね。ということはスミス
    の速球は野球換算で165キロの剛速球ということになる」
理奈 「165キロ!!」
一平 「あくまで換算だよ。そう言われてるだけだし、実際はわからない」
理奈 「でもすごいねー。けど、そんなすごいタマ投げる人なんて世界に何人もいないんで
    しょ?」
一平 「そうでもない。世界レベルのエース投手なら、大体100キロくらいのボールは投げ
    るんだよ。日本にも何人かいる。100キロってことは野球で言えば150キロ投手だ」
理奈 「そうなんだ。でも、150キロったらすごい速いんでしょうけど、プロでも投げる人はい
    るでしょ。それに、ただ速いだけなら160キロでも打てるって、前、カントク言ってた
    じゃん」
一平 「うん、そうだ。なのになぜ打てないと思う?」
理奈 「わかんない。投げ方が違うから?」
一平 「お、ちょっとかすった。それもあるんだよ、タイミングがうまく取れないんだな。
    だが何より、初速と終速の差がほとんどないってことだ」
理奈 「初速と終速度?」
一平 「ボールを投げれば、投げた瞬間とミットに届いた時点のスピードは違うわけだ。
    理由はわかるな?」
理奈 「えーと、なんだろ? あ、空気? 空気抵抗かな?」
一平 「その通り。真空の中で野球やってるわけじゃないから、ボールは当然、空気抵抗
    を受ける」
理奈 「それくらい落ちるの?」
一平 「プロ野球中継とかでスピードガン表示があるだろ? あれはほとんど初速なんだ。
    終速はあれからマイナス10キロ以上20キロ未満てところだろう」
理奈 「ふーん」
一平 「この初速と終速の差が小さい方が打ちにくいんだよ。ソフトの速球投手の場合、
    この差が5キロくらいしかない」
理奈 「わー」
一平 「だからプロの打者は面食らうんだろうね。ムリもないよ、通常、150キロという速球
    を相手にしているとは言え、打者の手元あたりでは140キロ以下に落ちてるボール
    しか打ってなかったわけだから」
理奈 「あ、カントク、素朴な疑問! じゃあ、そのすんごい速い球を打ってるソフトの選手
    の方がすごいんですか?」
一平 「あ、なるほど、そう来たか。そうだなあ、一概にそうは言えないよ。ソフトの速球って
    のは、もう人間技じゃ打てないんだ。視覚でタマを見て、大脳が打つと判断して、筋
    肉に指令を出し、腕の筋肉が打撃行動を起こすまでの時間よりも、ボールがミットに
    届く速度の方が速いんだから」
理奈 「え、じゃあ絶対打てないんじゃないの?」
一平 「というか、コツがあるんだろうね。この辺は実際にソフトやってる人にうかがいたい
    んだけどね。多分、ほとんどカンに近いんじゃないかな。タイミングというか。要する
    にヤマを張らないと打てないんだよ、きっと。だからソフトではチェンジアップがもの
    すごく有効なんだろうと思うよ」
理奈 「ということは、プロの打者にはどうしても打てないのかな?」
一平 「いやぁ、そうじゃないさ。プロなんだからね。ソフトボールを打つコツさえつかめば、
    当然、プロの打者の方が打つに決まってるよ」
理奈 「でもさ、そういう話を聞くと、案外ソフトの選手ってプロ野球でもいけそうな人、いる
    んじゃないかなあ」
一平 「面白いことに気づいたね。実はおまえと同じことを考えついた人もいたんだよ。
    昔、アメリカのマイナーであったことなんだけどね」
理奈 「くわしく聞きたーい」
一平 「よし。昔ね、アメリカに評判のソフトボール投手がいたんだよ。あ、男子選手だけ
    どね。彼に注目したあるマイナー球団が、テストしたんだ。そのチームの打者が7人
    彼と対戦した」
理奈 「結果は?」
一平 「ソフトの圧勝だったよ。7人の打者は見事に全員三振。こりゃいけるってんで、即
    採用した」
理奈 「じゃ成功したの?」
一平 「成功してたら記録に残ってるよ。そうはうまく行かなかったんだ。2試合ほど登板
    したんだけど、いずれもめった打ちを食らってお払い箱になったそうだ」
理奈 「なーんだ」
一平 「ムリないんだけどね。ソフトのルールでやればともかく、野球の18.44メートルから
    投げさせられたんだから、球速ががた落ちになるのは当たり前だね」
理奈 「さっき、慣れればプロが打つって言ってたけど、1試合やったらどうなるだろ?」
一平 「そうだな、1試合くらい(7イニング)だったら、けっこうソフトチームが勝つんじゃな
    いか?」
理奈 「速球とチェンジアップだけで?」
一平 「それとね、もうひとつソフト独特の変化球がある。ライズボールだ」
理奈 「ライズボールって?」
一平 「文字通り、浮き上がるボールだよ。世界クラスの投手は速球の他に、このライズを
    武器にしていることが多い。これは、下投げでボールに思い切り回転を与えることに
    よって生まれる変化球で、かなり打ちづらい」。ホップしてくるボールだ」
理奈 「野球じゃ投げられないの?」
一平 「物理的には可能かも知れないけど、事実上ムリじゃないかなあ。これを武器にした
    ピッチャーが出る漫画があったけど、これはボールにツメを立てるようにして握って、
    思い切りボールに対して上向き回転を与えてたね。実際にこう投げてライズさせるの
    はかなりつらいと思う」
理奈 「だからソフト独特なのか」
一平 「そうだ。けど、似てるボールならアンダースローの投手が投げられるよ。彼らの投げ
    る速球は伸び上がってくることがある。これはライズに似てるね」
理奈 「伸びるって、オーバースローの投手でも伸びる速球って投げる人いるじゃん」
一平 「おまえ、今年最後だから冴えてんのか?(^^;) 面白いとこに気づいたな。実は、
    よく言われる伸びるボールというのは、別に浮き上がってるわけじゃないんだ。
    そう見えるだけなんだよ」
理奈 「そうなの?」
一平 「いいかい、さっき言った初速と終速の話を覚えてるか? 初速と終速の差が大きけ
    れば大きいほどボールはお辞儀しているように見える。これは実際にお辞儀するよう
    な弧を描くんだな。ボールの力がだんだんと落ちてるってことだ。一方、初速と終速の
    差があまりない投手というのは、タマが伸びるように見える。これは、普通の投手が
    投げるタマというのは、大抵、打者付近でガクンと速度が落ちるから沈み気味に見え
    るんだけど、差のない投手の場合、この沈みがあまりない。だから、そのギャップで、
    まるで伸び上がるように見えるというのが真相だ。実際に伸び上がってるわけじゃな
    いんだよ」
理奈 「今年最後だけあって、濃い話だったね。
    みなさん、来年もよろしくね。質問、待ってますよ〜〜」