左打者には左投手
理奈 「カントク、おひさ」
一平 「よ。お互い忙しくてなかなか連絡も取れなかったな」
理奈 「ま、しよーがないよ。それぞれプライベートってのがあるんだしさ。で、質問来たわけ
ね?」
一平 「ん。まあ、ぽつぽつは来てたんだけど、例によって……」
理奈 「ああ……。相変わらずルール違反や読み込み不足が多かったってわけね」
一平 「そんなところだ。で、今回のはそれね」
理奈 「はいよ。T・Mさんから。んと 高校三年生の子だね。えーー、「僕は最近になって
野球を見るようになったのですが、左打者には左投手というのがよく分かりま
せん。実際、左投手に弱い左打者というのはよく見かけます。しかし、それが
なぜなのか解説者の話を聞いてもよく分かりません」。はあ、なるほど」
一平 「なるほど、とは?」
理奈 「だってよく聞くから」
一平 「そうだな。ではなぜかわかるか?」
理奈 「そういやわかんないな……。でもさ、プロ野球中継とか見ててもさ、アナウンサーと
か解説者とか必ず言うじゃん。左バッターにはサウスポーだって」
一平 「そうだな。しかし、あまりにも定説化しているというか、概念化しているんだろうな。
それがなぜかという説明をしてくれる解説者はあんまりいないね。その説明を促す
アナウンサーもいないしね」
理奈 「なんでだろね」
一平 「さっきおまえも言ったが、あまりにも常識になってしまって、「そんなのは当然知って
るでしょ?」という前提で解説してるからだろうな。反面、どうしてなのか深く考えたこ
とがないのかも知れないしな」
理奈 「だねーー。じゃあ、なんでなんだろ?」
一平 「その前に、おまえはなぜだと思う?」
理奈 「そだなーー。確かにあんまり深く考えたことないや。そういうもんだって教わったし」
一平 「そんなところだろうな」
理奈 「実際問題として、本当に左バッターは左投手が苦手なんかな」
一平 「その辺は微妙だな。まずは、なぜ左打者は左投手が苦手なのかを考えてみよう。
これは実際に打席に立ってみればなんとなくわかるはずだ」
理奈 「そんなこと言ったって、あたしもカントクも右打ちじゃん」
一平 「そうなんだけど、理屈は同じだよ。あのな、右打者がサイドスローやアンダースロー
が打ちにくいってのは知ってるな?」
理奈 「あ、聞いたことある。逆にさ、左バッターはサイドやアンダーが得意だとも聞いた」
一平 「おう、その通り。これには理由がある。左打席から構えると、右のサイドやアンダー
の投手が投げる腕や球筋がよく見えるんだ。外から内に入ってくるように投げるわけ
だから当然だな。逆にな、これが右打席だと、外から内じゃなくて内から外へ逃げて
いくように見えるんだ」
理奈 「ああ、そうか……」
一平 「同じ右投げでもオーバースローならまだ見える。けど、横や下手からだと、まるで背
中から投手の腕が出てくるように見えるんだな。当然、打ちにくい」
理奈 「だからなのか」
一平 「そうだ。左投手を打ちにくい左打者ってのも同じ理屈だな。左打者からすれば右投手
の球筋は見えやすいんだ」
理奈 「でもさあ、それから言えば確かに左のサイドやアンダーは左打者は打ちにくいかも
知れないけどさ、そうじゃない普通の左投手でも打ちにくいんでしょ?」
一平 「そう。でもこれは単に数の問題だ」
理奈 「どういうこと?」
一平 「左投手より右投手の方がずっと多いってことさ。サウスポーと対戦するよりも右投手
と対戦することの方が多いから不慣れってこともあるだろう。だから、右打者でも左投
手が苦手って人はいるんだよ」
理奈 「あ、そうなんだ。でも右打者は左投手の球筋が見えやすいんでしょ?」
一平 「うん。だから右打者は左打者より左投手が打ちやすいんだ。いくら対戦数が少なく
ても球筋は見えるからな」
理奈 「そっかー。じゃあ左バッターってのは、左投手の腕や球筋が見づらい上に、左投手
そのものが少ないから余計に苦手ってことなんだね」
一平 「そういうことだね。だけど、これも個人差はあるよ。右打者でもサウスポーが苦手な
人がいるように、左バッターでも左腕投手が得意な人はいる。千差万別さ。ただ一般
的には、左には左、というのが鉄則になっている」
理奈 「ふうん。あ、じゃあさ、右打者は右のアンダーが打ちにくいんなら、もし左のアンダー
がいたら左バッターってめちゃめちゃに打ちにくいんじゃないの?」
一平 「ああそうだ。左投手の横手、下手投げなんてぐっと数は少ないから余計に打ちづらい
だろうな。もっとも、アメリカ人打者なんかは、サイドやアンダーは右でも打ちにくいって
人は多いよ。アメリカにはあんまりそういう変則投法の投手はいないからだな」