オーナーになりたい!


理奈 「ここはひさしぶりだなあ。蜘蛛の巣張ってんじゃないかなあ」
一平 「3ヶ月ぶりくらいか? もっとかな」
理奈 「で、質問が来てんのね。んと、山沢さんから。「最近のマルハによるベイスタ
     ーズ身売り問題の件で思うのですが、なぜあんなみっともないことになるの
     でしょうか。Jリーグでもその動きがありましたが、この際ファンが経営権を
     買い取るようなことはできないのでしょうか」っていうんだけど。ファンが買う
     なんてムリだよね」
一平 「まあね。日本じゃムリだろうな。難関が山ほどある。まず買おうにもなかなか売って
     くれる球団自体がない。あっても、個人やファン団体が相手じゃ、まともに取り合っ
     てもらえないだろう。それらをクリアしても、加盟料がなんと30億円もかかる
理奈−「さ、30億円!?」
一平−「こんなもん、絶対ムリだよな。つまり、日本で球団を買収しようと思ったら、売り主
     に買い取り料金を払う他に、リーグに莫大なカネを積まなくちゃならないってわけだ」
理奈−「なんでまた…」
一平−「まあ、おいそれと仲間に入れたくなかったんだろう。閉鎖的だね。ただ、これは昨今
     の問題から見直されて、加盟料30億円てのは廃止される方向らしい」
理奈 「ふーん。あれ、じゃアメリカじゃ個人購入が出来んの?」
一平 「なんと可能なんだね。実際にいたんだ、そういう人物が。その立志伝中の人物が
     チャールズ・フィンリーだ。フィンリーは子供の頃から野球が大好きだったんだ
     ね。インディアナの山間の町に生まれた彼は、学歴もないまま小さな鉄工所に勤
     める一方、ノンプロで野球をやっていた。だが、現実的な彼は、その頃にはすでに
     自分のプレイヤーとしての素質は大したものではないと判断していたんだね」
理奈 「へー。あ、それであれか、だったら自分で球団を持ちたいって思ったのか」
一平 「そうなんだな。しかし、球団を持つには天文学的なカネが必要だ。プロ野球ファン
     なら誰でも見る夢だが、真剣にそう思う人はいないだろう。ところがフィンリーは違っ
     た。鉄工所から保険会社にトラバーユする(死語)と、あっというまに才覚を現し、
     アメリカでも有数の実業家に上り詰めた」
理奈 「すごいねー」
一平 「ここでいよいよフィンリーは長年の夢を実行に移すことになる。当時、カンザスに
     あったアスレティックス(現在はオークランド)の株を買いあさり始めたんだな。
     そして1960年の暮れに、アスレティックスの株の52%を買い占めたことを公表
     した。そして翌年早々には、とうとう全株式を買い取って、夢のオーナーになった
     わけだ」
理奈 「パチパチパチ」
一平 「以後、20年間に渡ってアスレティックスのオーナーだったんだけど、この人はい
     ろんなことをやりすぎて反発も買った。最初はチーム強化も積極的に図って、ワール
     ドシリーズ3連覇という偉業まで成し遂げたんだけど、チームが強くなっても一向に
     客足が増えなかったのに不満を持ち、ムリなフランチャイズ移転もやった。最後には
     結局金儲けの道具として球団を扱うようになってしまい、主力選手をバンバン放出
     してカネを稼ぐという荒っぽいことまでやった。そしてとうとう、1980年には、アスレ
     ティックスを手放すハメになってしまった。売った相手は、ジーンズのリーバイスだ」
理奈 「最後はお粗末だけど、立派な人だね」
一平 「そうだな。昔はこういうのをアメリカン・ドリームなんて言ったもんだ」
理奈 「結局、この人も赤字で手放したんでしょ。日本でもそうみたいだけど、大リーグでも
     儲かってる球団てあんまりないの?」
一平 「ないんだな、これが。根本的な原因は選手の年俸が高すぎるってことだろうな。
    大リーグ30球団のうち、黒字はわずか6球団。24球団はオール赤字だ。日本と違っ
    て、企業名を球団名に使うことなどないから、広告塔としての役割もあまりない。
    赤字だとつらいだろうな」
理奈 「じゃ何で球団持ってるのかな」
一平 「まだ改善の余地があると思うからさ。それに、球団経営は趣味で、他の本業の儲け
     をつぎ込んでいるオーナーだっている」
理奈 「優雅だなあ」
一平 「アトランタのオーナーだったCNNのテッド・ターナーなんかその典型だろうな。
     このターナー、完全なワンマンで(まあ、オーナーってのは多かれ少なかれそういう
     もんだけど)、ブレーブスが16連敗もしたのに腹を立てて更衣室に乗り込んだ。
     何事かと思う選手を尻目に、ユニフォームに着替えだしたんだ。選手は何事かと驚
     いたが、ターナーはそのままベンチへ向かった。なんとそのまま監督の代わりに
     指揮を執ったんだ」
理奈 「どっひゃー」
一平 「この特攻オーナーの指揮をもってしても(というか、だから、かな(^^;))チームは
    勝てず、1−2で惜敗した。たまげたことにターナーは次の試合も指揮を執るつもりだ
    ったらしい」
理奈 「しかし、そんなこと許されんの?」
一平 「ダメに決まってるよ(^^;)。メジャーの規約に「チームの株式を所有する者は監督
     にはなれない」というのがある。ターナーはこれを適用されてしまった」
理奈 「どこにも困ったオーナーってのはいるのね。じゃあ、理想のオーナーってどういうの
     だろうね? なんか、そういう人っている?」
一平−「そうだな…。じゃあ、経営って面で見よう。これはオーナーじゃなくてGM、ゼネラル
     マネージャーの話なんだけどね」
理奈−「GM?」
一平−「基本的に、アメリカの球団ていうのはメジャー、マイナーを問わず、球団の運営や
     構成てのはGMがやる。例えばトレードを画策するとか、FAで大金を積んで大物を
     補強するとか、ドラフトではどんな新人を指名する、とか。あるいは、芽の出そうな
     若手をマイナーから抜擢してメジャーで数年鍛えさせる、とか」
理奈−「待った待った、それって監督の仕事なんじゃ…」
一平−「日本ではね。アメリカでは監督の仕事というのは、文字通り現場監督なんだ。
     つまり、与えられた材料(選手だね)を使ってどう料理するのかを任されているだけ
     だ。もちろん、補強計画については監督の意見も聞くよ、でも決定するのはGMな
     んだ」
理奈−「ふぅん。じゃあ日本て、監督がGMの仕事もやってるって感じなのかな」
一平−「そんな感じだな。日本でこれに近いことをやったのは、西武とダイエーで辣腕を振
     るった故・根本陸夫氏くらいのもんだろう。千葉ロッテで広岡さんがGMを務めたが
     これは現場とのパイプがつながらずに失敗に終わっている」
理奈−「日本のは向かないのかな」
一平−「いや、そういうわけじゃないだろう。ただ、監督が全権を握ってた時代が長かった
     からね、しっくりこないだけだろう。あるいは、オーナーが出しゃばってGMもどきに
     なってる例もあったしね。
      で、アメリカにはプロのGMとも言える、GM専門職みたいな人もいる。各球団に
     請われてチームを渡り歩くみたいな人だ。例えばピーター・バベージという人が
     いる。彼は、トロント・ブルージェイズ結成のとき、パドレスのGMから引き抜かれ
     たんだ。そしてこのカナダの新興球団の運営を任された」
理奈−「ふんふん」
一平−「バベージは、「新しい球団がいきなり好成績を残そうとしてもダメだ。将来を見据え
     たチーム作りをしよう」と主張した。FAやトレードで大物を獲ろうにも、先立つものが
     なかったしね。そこで彼が目を付けたのがドミニカの選手だ。南米には基礎体力が
     高い選手が多い。そこに着目したバベージは、ドミニカに野球学校を設立した。
     広島がやってるカープ・アカデミーみたいなもんだ、というより、カープ・アカデミーは
     これがモデルなんだ」
理奈−「へぇ。それがいつの話?」
一平−「1977年のことだ。ドミニカで育てた選手をチームに送り込むこの作戦は見事に
     成功した。4番を打つまでに成長したジョージ・ベルなどはその代表例だ」
理奈−「チームも強くなったのね?」
一平−「うむ。12年かかったが、地区優勝を遂げた。ちなみに、同じ年に誕生したシアトル
     マリナーズは長い間低迷してたよ。で、このバベージなんだが、なんと親子二代に
     渡るGMのプロだったんだ」
理奈−「へー。じゃオーナーでは誰か面白い人いる?」
一平−「そうだな、じゃこれもアメリカの例だ。ノースカロライナのチャーロットというところに、
     ボルティモア・オリオールズの2Aのチームがあった。そこの名物オーナーだった
     人の話をしよう。フランシス・クロケットというおばさんだ」
理奈−「え、女性なの?」
一平−「そうだ。別に女性がなったって構わないわけだから問題はない。
     話の前に、アメリカのマイナー・リーグの運営について説明しよう。基本的に、マイ
     ナーというのは、親球団、つまりメジャーの球団が面倒を見ている。監督や選手の
     ギャラはメジャーの親チームから出るんだ。だから、金持ち球団ほど数多くのマイ
     ナーチームを抱えているんだね。まあ、それはさておき。
      で、人件費は親球団が負担してくれるからいいのかといえば、そういうわけじゃ
     ない。観客が来なければ収益が上がらないし、広告も取らないと運転資金が切れ
     てしまう。どうすりゃいいのか?」
理奈−「うーん、難しいなあ」
一平−「そこがマイナー経営のいちばん難しいところだろう。ファンは、メジャーのゲームだっ
     てナマで見られるし、球場まで行かなくてもテレビで観戦も出来る。わざわざレベル
     の低いマイナーのゲームなど見に行かなくてもいいわけだ」
理奈−「そうだよねぇ」
一平−「けど、彼女は成し遂げた。彼女が就任する前の年に比べ100%アップの観客動員
     数になったんだ。実に2倍だ」
理奈−「そりゃすごい。チームを強くしたのかな?」
一平−「それがそうじゃない。むしろ彼女は野球そのものにはさほど詳しくない。GMのような
     ことをしようにも出来ないし、出来たとしても親球団の許可がいる。彼女のチームは
     実に弱かったんだ。その年には、リーグ記録を3つも上回る15連敗なんてしている」
理奈−「じゃお客なんか来ないんじゃないの?」
一平−「それがファン心理の面白いところだ。彼女は思ったそうだ。「いっそこのままいつま
     でも負け続けてくれないだろうか。そうすればファンはいつ連敗が止まるのか興味を
     持ってくれるから」とね。逆転の発想だね、千葉ロッテが18連敗した時も、ファンは
     もちろんマスコミも「いつ連敗が止まるのか」注目しただろう?」
理奈−「なるほど、そういうもんかもね」
一平−「徐々にファンも増えて、球場にも観客が訪れるようになった。観客が増えれば選手
     もやる気が出る。15連敗したにも関わらず、終盤には猛烈な追い上げを見せ、最
     終的には勝率0.001差で優勝を逃すまでに頑張った」
理奈−「頑張ったねー」
一平−「この年は、20万人の観客動員数だった。通常、2Aクラスならその半分の10万人
     も入ればいい方なんだそうだ。おまけに、入場料だってメジャーの半額くらいだ。
     数も少ない金額も安い。なら、球場内での飲食物やグッズで儲ければ良い。コーラ
     やホットドッグはメジャーの球場だろうがマイナーの球場だろうが、価格差はない」
理奈−「そりゃそうだ」
一平−「彼女は他の球場へ行くと、真っ先に売店に飛び込み、面白そうなグッズはないか、
     ホットドッグやアイスクリームは自分の球場と比べておいしいかどうかチェックする。
     これはドジャースの元オーナーだったオマリー氏もやってたことだね。

      さらに独創的なこともやってのけた。チーム一の人気を誇る4番打者に、バットを
     くれないか、と言ったんだ。ファンにプレゼントするから、と言ってね。しかし彼は
     断った。メジャーの選手ならともかく、マイナーの選手にはバット1本だって貴重品
     だからだ。それなら、と、彼女は「じゃあ、もしバットを折ったら捨てないで」と言った。
      早速、彼は相手投手に詰まらされてバットにヒビを入れてしまった。これじゃ使え
     ない。彼は彼女にバットを渡した。彼女はその折れたバットに4番打者のサインを
     入れて、翌日のゲームでいちばん大勢の家族を連れてきたファンにプレゼントした
     んだ。もちろんファンは大喜びだ。折れたバットだけど、なにもファンはそれでバッテ
     ィングをするわけじゃない。グッズと同じなんだ」
理奈−「なるほどー」
一平−「彼女は万事この調子で、選手たちから不要になった用具やユニフォームなどを集め
     て賞品にした。さらに、スポンサーを見つけて、広告を入れることを条件に様々なグ
     ッズを作り、それらを、それこそ毎イニングごとに賞品としてファンに進呈したんだ」
理奈−「すごいなー」
一平−「こうなると話題にもなるな。ファンだって、今度は何をもらえるんだろうという期待を
     持ってスタジアムに訪れる人が増える。
      チームを強くするのも重要な要素ではあるが、こういう細かいことでもしっかりやれ
     ば、おのずとファンはついてくるものなんだろうね」