重い球、軽い球


理奈 「これ、アタシもわかんなかったんだー。小泉俊一さんからで、「よく球が重いとか
    軽いとかいいますが、具体的にどういうことか教えて下さい」というやつ」
一平 「あ、なるほど。よく使われる言葉だけど、どういう意味だと聞かれると困る人も多い
    かもな」
理奈 「よく聞くような気もするんだけど、説明してって言われるとわかんない」
一平 「そんなところだろうな。これはテレビやラジオ、新聞等のマスコミの解説もよくない
    ね。これくらい知ってるよね、という前提で情報を送るだけだからね」
理奈 「で、どういうことなの? 実際にはボールの重さって決まってるんでしょ?」
一平 「うん。前にもやったけど、公式硬球は141.7〜148.8グラムの間とルールで
    決まってる」
理奈 「じゃ、重い軽いってのはその7.7グラムの差のことを言うの?」
一平 「あー、いやいや、そうじゃないんだよ。実際には重さに変化はない」
理奈 「どゆこと?」
一平 「つまり、ボールが重いとか軽いってのは、打者が打ったときに感じる印象なんだよ」
理奈 「よくわかんないんですけど」
一平 「まだわかってもらっちゃ困るの(^^;)。例えばさ、バッターが打つとするだろ? その
    時、ほとんど手応えがないことがある。打った瞬間、「あ、これは軽いな」と感じられる
    んだよ。こういうボールを「軽い」と表現する」
理奈 「ふぅん。でもさでもさ、ちゃんとミートしてもそうなるんじゃないの?」
一平 「あれ、おまえよく知ってんな。そう、ジャスト・ミートしても同じ感触になる。でも、ちょっ
    とそれ置いといて先行くぞ。で、逆に打った瞬間、手がビリビリくるような投球もある。
    これが重いタマだね」
理奈 「でもさでもさ、ヘンなところで打っちゃってもそうなんじゃないの?」
一平 「うん、そうだ。で、両者の見分けなんだけどね、軽い球質のボールをジャスト・ミート
    すると、これはもう本当にボールを打った気がしないんだ。大げさに言うと、素振りし
    ただけ、みたいな」
理奈 「じゃ重いのは?」
一平 「重いタマをジャスト・ミートして打ち返すと、手にそこそこ感触が残るんだよ。あ、打っ
    たなっていう充実感というかな」
理奈 「わかったようなわかんないような…。抽象的だなあ」
一平 「こればっかりは仕方がないね。実際に打ってみないとその感触はなかなかわからな
    いと思うよ」
理奈 「でも、硬球を打って感触がないってのも信じらんないね」
一平 「まあそうだね。実際は、硬球を打ったら、そりゃあ手応えのあるものなんだ。ミート・
    ポイントを外したり、振り遅れでもしようものなら、そりゃもうバットを持っていられない
    くらい手が痺れて痛い」
理奈 「でも、そんなシーン、プロ野球じゃあんまり見ないよ」
一平 「慣れだよ、慣れ。軟式から硬式に初めて移った人なんか、かなり強烈に感じるらし
    いよ。まあ、それも慣れるけどね」
理奈 「そんでさ、軽いタマと重いタマって、投げ方があるの?」
一平 「あるにはある。けど、どっちかというと投げる人によると思う」
理奈 「あ、じゃあ重いタマを投げられる人と投げられない人がいるっていうこと?」
一平 「うん、そうだね」
理奈 「へー。じゃあ、実際、どういうの? 重いタマと軽いタマって」
一平 「端的に言うとな、軽いタマってのは回転数の多いタマってことなんだ」
理奈 「回転数?」
一平 「ボールを浅めに握ると、指先に力が入りやすいよな。この状態で、手首を使って思
    い切り指先を切るイメージでボールにスピンをかけて投げてやると、非常に回転数の
    多いタマを投げることが出来る。わかるかな?」
理奈 「なんとなく。なんか、シューッとか音のしそうな感じのボール?」
一平 「そうだ、そうだ。そんな感じだね。キレのいいボールってところだ。こういうタマは、
    当然速いし、ボールが生きている状態だから、まあ打ちにくいわけだ。でも反面、
    バットに当てると非常に飛距離が出やすい」
理奈 「なんで?」
一平 「簡単に言えば、作用反作用の関係」
理奈 「むつかしいことはわかんない」
一平 「おまえ、高校生じゃないのかよ(^^;)。どう言やいいのかな。ピッチャーが回転数の
    多いボールを投げてくるだろ。それをバットで打ち返すと、回転してくるボールの勢い
    をそのまま生かして飛ばせるんだよ。だから、軽くバットに当てても飛距離が出ちゃっ
    たりするわけだ」
理奈 「わかったようなわかんないような。じゃ重いのは?」
一平 「逆なんだ。回転数があまりないボールだ。これだと、バッターはボールの回転数を利
    用して飛距離を出すことが出来ない。純粋にバッターのパワーで打ち返すしかないん
    だね。当然、きちんと振り切らないと飛んでいってくれない」
理奈 「じゃ力のある人じゃないt飛ばないんだね」
一平 「そうだね。だから、プロなんかでも小柄でパワーのない打者が、外国人選手もビック
    リというような特大のホームランを打つことがあるけど、これは、軽い球質の投球を
    ばっちりのミート・ポイントで打ち返した結果だと思うんだね。だけど、こういうバッター
    は、重いタマを場外ホームランするようなことだけは絶対出来ない」
理奈 「話はずれるけどさ、そういうバッティング・パワーを比べるのはどうやればわかる?」
一平 「いちばん簡単なのはノックだよ。外野ノック。ノックで外野スタンドに放り込んじゃうよ
    うな人は、立派なパワーヒッターだろうね」
理奈 「わかった。じゃあお話戻そう。あと、重いタマの投げ方とかあるの?」
一平 「あるけど…。最初にも言ったけど、これはその人の特質によることも多いから、意識し
    て重いタマを投げようとしても、いい結果は出ないと思うよ。それよりは、タマが軽いと
    いうことは、回転数の多い、キレのいいボールを投げている、ということなんだから、
    その利点を活かす方が建設的だと思うんだけどな」
理奈 「そうなんだ」
一平 「でもまあ、カラクリだけは教えておこうか。軽いタマについてはさっき話したよな。
    重いタマなんだけど、これはボールを深めに握って、手首というより腕力を使って投げ
    る投法なんだよね。これを意識してやったら、絶対にどこか故障しちゃうと思うな。
    元々重いタマを投げる人というのは、最初っからこういう投げ方をしてきた人だろうし、
    その投法が合っているということだと思うんだ」
理奈 「そっかー」
一平 「プロでもね、ちょっと面白いピッチャーがいたんだよ。1999年にセントラルでは中日
    が優勝したけど、その時の守護神だった宣銅烈投手。彼は面白い投球をしてたね」
理奈 「宣て、李さんと同じ韓国人選手だよね」
一平 「そう。どうでもいいが、李は「さん」付けで、宣は呼び捨てなんだな(^^;)」
理奈 「別に宣もキライじゃないよ。アンパンマンみたいな顔した人でしょ?」
一平 「そういう覚え方はやめなさい(^^;)。で、この宣は、投げる時、ボールに指を立てる
    ように握ってたんだ」
理奈 「指を? あ、前にあったナックルみたいな?」
一平 「あ、似てる似てる。けど、ナックルはツメを立てるようなイメージだけど、宣は指なん
    だ。普通は、人差し指と中指をボールに密着させて、親指を添えるような感じで投げ
    るもんなんだけど、宣はその3本の指を立てて握って投げてたんだよ。これはすごい
    投げ方だよ。指の力がハンパじゃないってことだ」
理奈 「そうなの?」
一平 「指立て伏せなんか平気でできるレベルでないと、まず絶対ムリだ。そう考えると、
    宣の高速スライダーは、その辺に秘密があるんだろうね。指の力に自信がある人は
    試してみるといい。まず、コントロールがつけづらい。すぐに指が疲れてくる。
    でも、これをマスターすれば速くてキレのある重いボールが投げられると思うよ。
    まあ基本通りとは言えないから、お奨めはできないけどね」
理奈 「で、結論は?」
一平 「あ、そうか。説明したように、軽いタマ重いタマというのは、基本的には体質というか
    投げ方の問題。改善もできるとは思うけど、それよりは自分の球質を活かす方向に
    持っていく方がやりやすいと思います」
理奈 「ま、いいでしょ」