投球モーション


理奈 「読者のみなさま、あけましておめでとーございまぁす。今年もカントクを困らせるよう
    な面白い質問をお待ちしていまぁす」
一平 「明けましておめでとうございます。なんだかあっさり21世紀になってしまった感があ
    りますが、野球界はどうなっていくのでしょうか」
理奈 「新年早々ムツカシそうなことは言わないの。では20世紀に積み残してきた質問を
    消化しましょう。今回はこれだぁ!
    yoshiki Itouさんからの質問ね。「昔、投手に20秒ルールというのがあったと
    思いますが、これは今はなくなったのでしょうか」だそーです。ね、カントク、この
    20秒ルールって何?」
一平 「このItouさんてのは年輩の方かな、それとも記録ファンなのかな。古い話なんだよ。
    要するにね、塁上に走者がいない場合、投手はボールを受けたら20秒以内に
    投球しなければならないというルールがあるんだね。野球規則8.04にある。
    さらに、20秒毎にボールを1つずつ宣告され続けるんだ。つまり、80秒ボールを投
    げなかったら、自動的に四球で出塁だ」
理奈 「あ、そんな決まりがあるんだ。で、もし破ったらどうなんの?」
一平 「うん、ボールが宣告されることになってる」
理奈 「キャッチャーからボールもらって、バッターに20秒以上投げなかったらボールになる
    のね?」
一平 「そだよ。実際、これがプロでも適用されたこともある。昭和47年のことだけど、阪急
    の梶本隆夫投手が該当者だ。東映戦だったんだけど、トップの大下に対してカウント
    2−3になったところで、捕手からボールを受けた梶本は、そのままスパイクでマウン
    ドを均し始めたんだね。何を投げようか考えてたのかも知れない。その時、突如、二
    塁塁審の露崎元弥審判が「ボール!」とコールしたんだ。もちろん、大下は四球で出
    塁した」
理奈 「へー。びっくりしただろうね、その梶本さん」
一平 「だろうね。梶本本人はもとより、阪急ベンチも驚いて、西本幸雄監督が抗議したんだ
    けど、審判団は「ルール通りである」として取り合わなかったそうだよ」
理奈 「でも20秒って長いようで短い気もする。しょっちゅうこんなのあるんじゃないの?」
一平 「実はこれが史上唯一の例。もともとこのルールはあったんだけどかなり曖昧で、実
    際に適用されたことはなかったんだね。ところがこの年、つまり昭和47年は、試合
    のスピードアップを図るため、この規則を厳密に適用しようってことになってたんだ。
    念の入ったことに、二塁塁審にはそのためのストップウォッチを持たせることまでし
    ていた」
理奈 「そりゃまた厳しいね。でもなんで史上唯一なの?」
一平 「やっぱ厳しすぎると思ったんじゃないかなあ。梶本以降、適用者が出なかったこと
    もあって、このルールは有名無実化してるようだね。さらに昭和54年には、20秒毎
    にボールを加算していく、という条項は削除されたよ」
理奈 「じゃ、もうナシなわけ?」
一平 「いや、そうじゃないよ。規則書を読んでみると「この規則は、無用な試合引き延ばし
    行為をやめさせ、試合をスピードアップさせるために定められたものである」とある。
    だから、審判が投手に早く投球するように警告したにも関わらず、20秒以上かけて
    投げ続けているようなら、遠慮なくボールを宣告していいんだ」
理奈 「ふぅん。あ、そういえばランナーがいる時はかまわないの?」
一平 「うん。これがまた判断の難しいところだけど、走者がいる場合は、走者の盗塁や離
    塁に注意を払うため、どうしてもインターバルが長くなる。故に、このルールは適用し
    ないんだね。多少遅くなってもやむを得ない、ということだ」
理奈 「じゃ無制限?」
一平 「まぁな。でも、実際にあまり極端なら当然、審判から警告を受けるし、それを無視した
    らボークだ。それに、観客のブーイングもすごいと思うよ(^^;)」
理奈 「そりゃそうだね。ということは、この20秒ルール自体はまだあるということでいいね。
    ただ、適用されることはほとんどない、と」
一平 「そうだな。警告を受けてまでやらないだろうしね」
理奈 「あ、あとねあとね、これ年明けにもらった質問で、順番が狂っちゃうんだけど、似てる
    質問だから特別にやりたいの。んと、伊藤優さんからで「ランナーなしで投手に
    よっては、モーションの途中で静止する人がいますが、何秒くらい静止していて
    も
よいのですか?」だって。これ、どゆこと?」
一平 「ああ、なるほど。つまりな、ほれ、たまにいるだろ、投球モーション起こしてピタッと
    止まっちゃうピッチャー」
理奈 「あ、いるね。横浜の三浦さんとか」
一平 「あれ、おまえ、よく知ってんな。おまえがそういう細かいことまで注意を払ってるとは
    思わなかった」
理奈 「うっさいわね、ファンなのよ、三浦さんの! いいじゃないのよ」
一平 「へぇー、顔か?」
理奈 「うっさいって言ってんでしょ! さっさと質問に戻んなさいよ!」
一平 「わかったわかった(こいつもまだ可愛いとこあんな(^^)。
    じゃルール通りの厳密な投球フォームを列挙しよう。
    1.打者に面して立ち、
    2.軸足のすべてをプレート上に置くか、プレート側方にはみ出さないように
      前縁にピッタリ触れておき、
    3.他方の足(軸足以外)をプレートもしくは後縁、またはその延長線上におき、
    4.ボールを両手で身体の前方に保持する。
    以上のことを守った上で、この姿勢から投球動作を起こしたら最後、投手は打者に
    投球する以外の行為は許されないんだ」
理奈 「なんか窮屈そう」
一平 「いやいや、そんなことはないよ。文章にすると複雑そうだけども、やってることは一
    連の投球フォームに過ぎない。で、問題はこの後、つまりモーションの途中で止まっ
    ていいのかってことだね」
理奈 「いいんでしょ」
一平 「ダメだよ(^^;)。故意に途中で止めたり、段階をつけたり、変更しないでそのま
    ま
投球を完了しなければならないんだよ。野球規則8.01のaだ」
理奈 「じゃ三浦さんのは…」
一平 「厳密に言えばダメ。反則投球としてボークを宣告されてもやむを得ない」
理奈 「だって…」
一平 「まあまあ。実際には、日本の場合、かなり緩やかなんだよ。止まってるように見え
    るが、あれは投球リズムの一環であり、投手は流れるように投げているつもりなのだ
    という人もいるしね」
理奈 「ふぅん」
一平 「真相は藪の中だけどね。本当は、打者のタイミングを外すためにそうやってる人も
    いるだろうし、自然にそうなっちゃう人もいるだろう」
理奈 「日本の場合は緩やかって言ってたけど、アメリカは厳しいの?」
一平 「めちゃめちゃ厳しい。ああいう、打者を幻惑するような行為はアン・フェアだ、という
    考え方が一般的なんだ。仮に三浦がメジャーへ行くことにでもなったら、今のフォーム
    じゃ100%ボークにされるだろうな」
理奈 「三浦さんだけ悪者にしないでよ」
一平 「そうだな。日本にはそこそこいたしね。昔、近鉄と中日に在籍した芝池博投手は、
    アンダースローのフォームなんだけど、ノーワインドアップでモーションを起こすと、
    プレート上でくるりと一回転して二塁方向へ向いたまま、しばらく止まって、それから
    やおら投げ込んできたね。あれなんか、明らかにボークだし、問題視もされたけど、
    実際にはボークにされてなかったと思うよ」
理奈 「なーんだ」
一平 「伊藤さんの質問に的確に答えるならば、モーションの途中では一瞬でも止まっちゃ
    ダメ。ただ日本ではそのルールの適用が緩やかだから大目に見られているって
    ところじゃないかな」
理奈 「じゃ三浦さん、フォーム変えなきゃいけないの?」
一平 「そうなるけど難しいんじゃないかなあ。長年やってきたことだろうしね。私の本音を
    言えば、あまり好ましいとは思わないけど、ルールは様々な事情で弾力的に適用
    してもいいんじゃないか、と思う面もないではないからね。ただ、あまり極端なことを
    やれば、当然、違反として処分すべきだけど」
理奈 「そっかー」
一平 「でも知らんかったなあ、おまえ横浜ファンだったのか?」
理奈 「え、別にそうでもないけど。どのチームでも好きな人いるもん」
一平 「誰?」
理奈 「中日の李さんとか、日本ハムの下柳さんとか、近鉄の吉岡さんとか」
一平 「どうでもいいが、なんか好みが渋くないか?(^^;)」
理奈 「アタシ、ガキみたいなのって嫌いなんだもん。巨人の高橋とか元木みたいな顔」
一平 「嫌いな選手は呼び捨てなんだな(^^;)」
理奈 「ま、そんなわけで今年もよろしくー」
一平 「このコーナーのためにも、過激な発言は避けてくださいね、理奈さん(^^;)」