魔球!?


理奈 「なんだか連発で質問が来るなあ」
一平 「例の「ぴあ」とか、「ベストサイト5000」とか、雑誌に出たからですかね」
理奈 「そうなんかな。それで新しい人が増えてんのかもね。で、今回はさ、掲示板でも
    けっこう書き込んでくれてる子だね。静岡の恋するカサブランカさんからで、えーと
    この子15歳だー」
一平 「それはいいから質問行きなさい(^^;)。おまえショタコンだったのか?」
理奈 「だってかわいーじゃん。まいいや、質問ね。「某有名野球漫画家水島○司さんの
    「野球狂の○」という漫画で、ある投手がドリームボールという変化球を投げて
    いました。それはアンダースローから投げる球で、地面すれすれからホップして
    落ちる。さらにその後揺れるという魔球なんですがこれは実際には投げられる
    んでしょうか?」っていうんだけど。伏せ字でわかんない、某有名野球マンガって何?
    漫画家の方は水島新司なんでしょ?」
一平 「別に伏せ字にしないでもいいだろうな。漫画の方は「野球狂の詩」という。漫画家は
    その通り水島新司だな」
理奈 「アタシ、知らないんですけど、この漫画」
一平 「だろうな。もうけっこう前のもんだから。ちょっと前に、その後の「野球狂の詩」をやって
    たけど、ああいうのはよくないね。だって…」
理奈 「あんたの好みはいいから。で、どういう漫画なわけ?」
一平 「プロ野球もので、セ・リーグに東京メッツという架空球団を作って、そのチームの選手
    を通して、野球の面白さや素晴らしさを描いたものだ」
理奈 「ふぅん。それにそのドリームボールっていう魔球が出るの?」
一平 「魔球ってほどじゃないがな。で、この「野球狂の詩」の中で、水原勇気編というのが
    ある。その中で彼女の決め球がドリームボールなんだな」
理奈 「彼女って…、あ、女の子のプロ野球選手なんだ」
一平 「そう。水原勇気編の最初は、野球協約突破の話だったよ。81条第1項に「医学上
    男子でないもの」は入団できないって決まりがあったからね。もっとも、これは現実にも
    撤廃されたけど」
理奈 「そうか、今は女性選手OKなんだね。で、ドリームボールって?」
一平 「この水原勇気を登場させるにあたって、作者もだいぶ困ったらしいんだ。どう考えたっ
    て女子選手が通用するわけがない、と思ったからだね。そういう意味では大真面目
    にこのテーマを扱っていたんだ。水原の欠点として、タマは速いが球質は軽い、体力
    がないから長いイニングがダメ、強烈な打球に対しては逃げてしまう。女性の特徴を
    モロに出してしまっている」
理奈 「あ、そうか、それで魔球か」
一平 「そういうことだ。そういう水原が生きていけるとしたらリリーフ、それもワンポイントの
    ようなショート・リリーフだ。その時の決め球として作ったのがドリームボールなんだな」
理奈 「どういうボールなわけ?」
一平 「さっき恋するカサブランカさんが言ってた通りだ。下手投げからのボールで、いったん
    ホップしたあと揺れながら落ちるボールだ」
理奈 「いろいろ変化するんだなあ」
一平 「どういうタマだったのか、ということについて、作中で新聞記者の山井が犬神総裁に
    説明しているシーンがある。それを引用してみよう。
     犬神−「山井くん、いったいドリームちゅうのはどうだったんじゃね」
     山井−「ボールの握りにあったんですよ、総裁」
     犬神−「−」
     山井−「ふつう縫い目に合わせて指をあてるとボールは手元で左右に揺れる。いわ
          ゆる大リーガーがよく使うスクリューボールといわれるやつです。これをフォ
          ークの握りで投げたのが水原のドリームボールというわけです。
          ですから、田淵、衣笠、シピンらの打つ瞬間に自分の体が揺れたという証言
          は、体ではなくボールの方が揺れていたわけです」
     こんな感じね」
理奈 「スクリューとフォークが合わさったもんなの?」
一平 「そんな感じかな」
理奈 「投げられんの、本当に?」
一平 「ちょっと難しいかな。文章読んだだけで判断するなら、これは単にムービング・
    ファストボールのような気がするよな」
理奈 「なにそれ」
一平 「だから、縫い目に指をあてて浅くボールを挟んで投げるフォークもどきさ。落ち方は
    フォークほどじゃないが、揺れながら落ちる」
理奈 「それ、ドリームボールじゃないの?」
一平 「ちょっと違う。ボールがホップしてないだろ? ホップするフォークを投げた投手で有
    名なのは、元阪神の故・村山実とか、元ロッテの村田兆治とかだな。だが彼らは縫い
    目は意識していないから、揺れながら落ちてたとは限らない」
理奈 「ほんじゃ、村田さんとかが意識して縫い目に指を当てて投げたらドリームになるの
    かな」
一平 「どうかな。さっきも言ったが、水原はアンダースローだからね。それも左腕だからスク
    リューが投げられたわけだけど…。さらに水原は、このボールのためにボーリングで
   特訓
している」
理奈 「ボーリング?」
一平 「そう。そもそも、アンダースロー投手にフォークはないんだ。これは実際に投げてみれ
    ばわかるが、フォークというのははさんで抜くタマだ。これは上手から投げるから投げ
    られるのであって、アンダースローでこれをやったら、ボールを上に放り投げてしまう」
理奈 「あれ、じゃアンダーって落ちるタマないの?」
一平 「あるさ。ヤクルトの高津や西武の潮崎が決め球にしているシンカーってやつだ。これ
    はシュートを投げるつもりで投げると落ちるボールだ。本当にシュートを投げたい時は
    腕の捻りを小さくしてやる」
理奈 「じゃそのフォークを投げるのとボーリングが関係あるわけなの?」
一平 「そうだ。下手からのボールの抜けをよくするためと、手首を鍛えるためにボーリングを
    活用したということだ。だから水原がドリームを投げる時は、極端なアンダースローに
    なる。さらに全身を使って飛び跳ねるようなイメージだ。これでボールに勢いをつけて
    ホップさせているんだな」
理奈 「へー」
一平 「当然のように、こんな投法じゃ長続きしない。だからメッツとしても、水原の起用法は、
     9回2死で、最後の打者を2ストライクまで追い込んだ状態で使うことだった。唯一球
     のための投手だったんだね」
理奈 「あ、じゃ一球しか投げないんだ」
一平 「そうだ。だから相手打者も絶対にドリームが来るとわかってるんだけど、それでも打て
     なかった」
理奈 「最後はどうなったの?」
一平 「最後の最後に打たれた。打ったのは、キャンプの間中、水原を鍛えていたファームの
     ベテラン捕手だ。シーズン前に広島へトレードされて、打倒・水原で燃えていたんだ」
理奈 「でも打てるんだね、その魔球も」
一平 「そう思うけどなあ。ただ漫画の方は、そのタマを打つ方法というのが、基本的な打
     撃技術ではなかったんで、ドリームを打てる打法で打つと他のタマが打てないし、
     普通のフォームで対応するとドリームが打てないという設定のようだったね」
理奈 「はあ、なるほど」
一平 「まあ実際は、そんなことしないでも打てるような気はするけどなあ。失投だってあるわ
     けだしな」
理奈 「これはあれなの、けっこうまともな魔球なの?」
一平 「そうだなあ、少なくとも大リーグボール○号だの、大回転投法なんてのよりはずっと
    現実的だよな。もしかしたら投げられるんじゃないかな、と思えるだけでも」