ジンクス


理奈 「女の子の質問なんだけど」
一平 「たいへんけっこう」
理奈 「……」
一平 「な、なんだよ、その顔は(^^;)。女性が野球に興味を持ってくれるのは非常に良いこ
    とであると言わざるを得ないというか、ですね…」
理奈 「妙な言い回ししてんじゃないわよ。いいけどさ。いわさきさとみさんから。んと、「よく
    ジンクスを大事にする選手とかチームのことを聞きますけど、どの程度効果がある
    のでしょうか」っての」
一平 「はあ、なるほど。そういう質問も初めてだなあ。まあ野球に限ったものではないんだけ
    どね」」
理奈 「でもさ、実際どうなんだろ? ウチのチームもカントクも、あんまり縁起担いだりしない
    よね」
一平 「そうだね。まあ好き嫌いもあるしね。で、効果があるのかって問題だけど……」
理奈 「ないよね。ジンクスとか縁起とか、根拠ないもの」
一平 「また冷めた発言ですね、理奈さん(^^;)。こういうのは心理的なものなんだから、人
    によるんだよ」
理奈 「プロでもけっこうあるんだろね」
一平 「野球に限らず、スポーツってのは最終的には誰にも頼れない、自分しかないわけだ
    から、本当に苦しい時にはすがるものが欲しくなる気持ちもわからんではないよ。
    大リーグで名監督として有名なジョン・マグローって人がいる。ジャイアンツの監督時代
    の話だが、2連勝したあとの3戦め、バスで移動中に選手の会話が耳に入ったんだな」
理奈 「なに言ってたの?」
一平 「選手たちは、「お、今日もいた。また勝てるぞ」って」
理奈 「何がいたの?」
一平 「これがなんと霊柩車なんだな。バスの横に霊柩車が信号待ちで止まってたんだ。
    最初はマグローも、何を言ってるのかなと思ってたんだが、選手の話を聞いて納得し
    た。どうも、昨日も一昨日も移動中に霊柩車を見かけてるらしいんだな」
理奈 「へー。それで、今日も見たから勝てるってわけか。でもそんなの偶然じゃん」
一平 「そりゃそうさ。だが、選手が「勝てる」と思ってるんだから、これは悪いことじゃない。
    士気が上がってるってことだからな。これは試合にも良い影響が出るに決まってる」
理奈 「で、肝心の試合は?」
一平 「当然のように大勝した。選手は気分よく勝ったわけだ。マグローは、こいつはいけると
    思ったんだな」
理奈 「でも、偶然出会っただけなんだから、また明日も霊柩車が来るとは限らないじゃない」
一平 「ところが。不思議なことに、翌日も霊柩車に出くわした。その翌日は球場のそばで霊柩
    車を見た」
理奈 「もしかして、その間ずっと……」
一平 「勝っちゃったんだな、これが選手たちも、おかしいなあ、不思議だなあと思いながらも
    連勝を続けてしまう」
理奈 「そんなことあるのかな」
一平 「タネを明かすと、マグローが手を回してたんだ。最初の3試合目までは本当に偶然な
    んだ。だけど、そのことを知ったマグローは、このジンクスを利用しようとして、葬儀会社
    に協力を要請した。あらかじめ、選手のバスが移動するコースと時間を知らせておいて
    偶然を装って霊柩車が選手の目に入るようにしてたんだな」
理奈 「手が込んでるねー(笑)」
一平 「いや、まったく(^^;)。しかし、その労力はムダにならずに勝利へ結びついた」
理奈 「じゃあ有効なのか」
一平 「100%とは言わないがね。支えになることは確かだろう。まだ例がある。これもメジャ
    ーのジャイアンツの話だ。主役はかのウィリー・メイズ。日本のジャイアンツの主砲だっ
    た王貞治もデビュー後に苦労しているが、メイズもたいへんだった。メジャー入りしたの
    はいいが、初打席以降、なんと25打席ノーヒット。26打席目に初ヒットがホームランに
    なったが(この辺も王と似てるなあ)、その後またずーっと打てなかった」
理奈 「そんで、なんかジンクスで打てるようになったとか?」
一平 「いや、そうじゃない。まったくメジャーの投手に歯が立たなかったメイズは、監督の
    レオ・ドローチャーに泣きながら訴えたそうだ。オレにはメジャーのピッチャーは打てな
    い。マイナーに落としてくれ、と。自信喪失してたんだな」
理奈 「ふぅん」
一平 「これも名監督と謳われたドローチャー。しょんぼりしているメイズに、諭すように言った。
    「ウィリー、よく聞くんだ。キミは打てなかったがチームは勝った。きっと明日もそうなる
    だろうよ。だから明日も明後日も、その次の日もジャイアンツのセンターはキミが守るん
    だ。どうだ、わかったかね」」
理奈 「はあ。じゃあメイズが打てないことを利用しちゃったわけだ」
一平 「そう。実際、不思議なことだがメイズが打てなかった試合はずっと勝ってたんだね、
    ジャイアンツは。無論、こんなものはただの偶然だが、選手もコーチも、そしてファンも
    気づいていたんだ」
理奈 「でもさ、じゃあメイズはずっと打てないじゃん」
一平 「そうだな(^^;)。だが、ドローチャー自身は、メイズがいいバッターだということは見抜
    いていた。だからこそ、少々打てなくても、慣れるまで使っていこうとしていたわけだか
    ら。確かにメイズが打ってない時もチームは勝った。でもな、メイズが実力を発揮して
    打ち始めた時にも、結局チームは勝ったんだよ」
理奈 「ああ、なるほど。ひとつのジンクスを利用して、チームにも新人にも役立てたんだ」
一平 「その通り。これなんか見事な利用法だと思うよ。結局、ジンクスなんてのは、言葉は
    よくないけども、新聞や雑誌に載ってる占いと同じようなもんだ。信じない人は気にする
    ことはないし、信じる人も良いことだけ信じればいい。いずれ心理的なもので、それ以上
    のものではないんだから、過信することなく利用できるところは利用すればいい」
理奈 「効果はないでもないってことかな」