エラーは誰が決めるの?


理奈 「あたしの後輩から質問だなんけど」
一平 「後輩?」
理奈 「そうよ、いい? 「最近このページをみつけて、とても感動しました!私は
    高1です。高校で初めて野球部のマネージャーをやりはじめました。わから
    ない事ばかりで自分で勉強してφ(.. )なんとか最初よりはわかるようになって
    きたけど、どうしてもわからない事はまだまだいっぱいあります(>_<)
     そこで、今とにかく知りたいのは「エラーかエラーじゃないか、また誰のエラー
    かの見分け方」です。これがわからないとスコアが書けません(++)是非教えて
    ください」ていうの。ほら、感動したってよ、ちゃんと答えてあげなさいよ」
一平 「はぁはぁはぁ。なるほど、なるほど。これは実際にプレーに関わってるか、スコアを
    つけている人ならではの質問だね」
理奈 「この子、えーとピンクミッキーちゃんは入部したてのマネージャーさんだね。
    スコアか、あたしはわかんないからカントク勝手にやって」
一平 「いい加減、おまえもスコア覚えなさい(^^;)。
     さて、ひとつ思い出してもらおう。プロ野球でも高校野球でもいいが、公式戦の
    球場のスコアボードには、ヒットを示す「H」、エラーの「E」、フィルダースチョイスの
    「Fc」というマークがあるな」
理奈 「うん」
一平 「そのランプは、ひとつのプレーが終わると瞬時に点灯する。つまり、そのプレーを
    ひとつひとつ判断している人がいるってことだな」
理奈 「そういや、そうね。だれ?」
一平 「公式記録員という人だ。この人は、その試合の公式スコアを記録するのと同時に、
    各プレーに関して判定を下すのが仕事だ」
理奈 「判定するのは審判でしょ」
一平 「アウト、セーフとかはな。しかし、そういうプレーの結果じゃなくて、そのプレーの判断
    をするのが公式記録員なんだ」
理奈 「へぇ、知らなかったなあ」
一平 「地味な仕事だからな。で、そういう記録員のいる試合、つまり公式戦なら、彼らの判
    定通りに書けばそれでもいいんだ。でもな、そうでない試合、つまり練習試合とかだ
    な、こういうのは公式記録員なんていないから、これはもうスコアラーが判断するしか
    ないよな」
理奈 「その判断で困ってるんだろね、彼女は」
一平 「だろうな。けどなあ、これはけっこう難しいよ」
理奈 「そうなの?」
一平 「ああ。一般的には、エラーというのは野手が捕球できそうな打球を、グラブに当てて
    ジャッグルしたり弾いたりした場合なんだな。逆に言うと、グラブに触れてなければ
    エラーにはならない
理奈 「あれ、そうなの? だってトンネルとかは…」
一平 「それが難しいんだよ。こういうことがあった。昔、巨人の王がトンネルしたんだよ。
    テレビで見てた私は、当然エラーだろうと思った。ところが、なんと記録は二塁打だ
    ったんだ」
理奈 「どうして? あ、偉大な王選手だから?」
一平 「おまえ、そういうことを言うか(^^;)。まあ正直、当時は私もそう思ったがね(^^;)。
    このプレーは、つまり正面ではあったが、打球が速いために反応できなかった、とい
    うことだったんだな。だからグラブに触れてはいないし、正面の打球ではあったけど、
    これをエラーにしたら野手に気の毒だ、ということなんだな」
理奈 「そういうのアリなんだ」
一平 「そうなんだ。これは他にも言える。例えば同じように、サードへ強烈な打球が飛んで
    きて、三塁手が打球の勢いに押されてこれを弾いた。一見エラーに見えるが、この
    プレーはまず間違いなくヒットになる。強襲ヒットってやつだな」
理奈 「へー」
一平 「こんなのはどうだ? 左打者が打席に立ったから、二塁手は右よりに守備を変えた。
    ところが、打球はセカンドの左に飛んできた。二塁手は打球を追ったがグラブに当て
    て弾いた。普通の守備位置なら十分に追いつけた打球だった」
理奈 「うーん…。エラー?かなあ」
一平 「いや、これもヒットなんだよ。まあ確かに守備位置が悪かったんだけど、それは不可
    抗力ということになっちゃうんだ。フライでもあるな」
理奈 「あ、ポテンだね」
一平 「そうだ。ふらふらっと内野と外野の中間に上がったようなフライ。野手が3人くらい集ま
    ってきて、さて誰が捕ろうかと思ってるうちに3者の真ん中に落ちたりする。誰も打球に
    触れてないから、これもヒットだね」
理奈 「じゃ打球に触らなきゃヒットって思えばいいんだ。グローブに当てたらエラー、と」
一平 「いや、そう断言は出来ないんだよ。そこが難しいところだ。
    例えばな、三遊間の深いところに飛んだゴロをショートが追いついた。けど、グラブに
    当てて捕球は出来なかった。一塁セーフ。これは多分エラーにはならない」
理奈 「そっか、これはむしろショートがよく追いついたということで、エラーにしちゃかわいそ
    うだ、と」
一平 「そうだな、そんなところだな。他にもな、平凡なショートゴロだったんだけど、打者走者
    の脚が速いのでショートが焦って打球をファンブルしたようなプレー。これは通常エラー
    なんだけども、その時に打者走者がどこにいたかが問題だ」
理奈 「どゆこと?」
一平 「つまりな、ショートは確かに打球を弾いたんだけど、それがセーフになった原因かどう
    かが問われるわけだ」
理奈 「だって、そうなんじゃないの?」
一平 「いや、こういう場合だと、ショートがまともに打球を処理していても、打者走者の脚が速
    くて、結局内野安打になったかも知れないだろ? その辺の見極めだよ。だから、こう
    いう時のポイントは、ショートが打球を弾いたとき、打者走者はどのあたりを走っていた
    かということになるんだ。ゴロを弾いた時に、すでに一塁ベースの寸前だったら、これは
    もう、捕球していたとしても間に合わないだろう。そういうのを見抜かないとダメなんだ」
理奈 「う〜〜ん…」
一平 「バントなんかも同じね。バントした打球を野手がとって一塁へ投げたんだけど大暴投。
    パッと見はエラーだけど、野手がバントを処理したとき、打者走者はどのあたりを走って
    いたかによって、ヒットにもなるしエラーにもなるんだ」
理奈 「なんかさー、すんごい難しくない?」
一平 「正直言って難しい(^^;)。この辺はもう、経験しかないんだよ。出来るだけ多くの試合を
    見て、プレイを直に見るしかないんだよ。でまあ、取りあえずはよく野球を知ってる人の
    そばでスコアをつけるのが早道だ」
理奈 「そうか、その人に判断してもらったり解説してもらうんだね」
一平 「そうそう。理想的には監督さんだな。監督の隣でスコアをつけさせてもらい、プレーの
    解説もしてもらえばベストだろう。とはいっても、練習試合ならともかく、公式戦になんか
    なっちゃうと、監督は試合の方に集中しちゃってスコアどころじゃなくなっちゃうかも知れ
    ないからなあ(^^;)。
     まあ、そういう場合でも、控えの選手がいるだろ、彼らに頼むんだね」
理奈 「だねー」
一平 「そのうち、慣れてくると自分で判断できるようになってくるよ。「ああ、今のはエラーだ」
    とか、「うーーん、あれはエラーにしたらかわいそうかなあ」とかね。
     テレビで野球中継なんか見てるときでも、そういう判断をするつもりで見ると上達が早
    いよ。徐々に自分の判断に自信も出てくるしね」
理奈 「あ、もうひとつの質問! 今のエラーは誰なのかっていう見分け」
一平 「見分け? そりゃまあ、実際にボールを逃したり弾いたりした選手だと思うけど…。
    あ、もしかして外野のことか?」
理奈 「外野?」
一平 「うん、ほら、フライがセンターとライトの中間に飛んだとしてさ、両者が交錯して落っこと
    したときなんか」
理奈 「あ、そか。でも、そういうのって大抵はヒットになるんじゃないの?」
一平 「まあな。それでも両者がグラブを出してて、どっちが落としたかわかんない場合とかな。
    そういう時は、どちらがより打球を処理しやすい位置にいたかで判断しよう。例えばな、
    センターが打球に完全に追いついて捕球体勢をとっていたのに、ライトが割り込んでき
    て捕ろうとしたら落球したってケース。こりゃライトのエラーだよな」
理奈 「内野はそういうのない?」
一平 「フライではそういうのもあるよ。あと内野独特だが、内野ゴロをさばいた野手が一塁へ
    送球したんだけど、これがちょっと逸れてしまって一塁手が捕れなかった。そのせいで
    打者走者はセーフ。エラーはエラーなんだけど、さて誰のエラーにすべきか」
理奈 「そりゃ、送球が悪かったんだからファーストじゃないでしょう」
一平 「そうね、そういう判断でいいね。だけど、確かに送球はワンバウンドしてたけど、あれく
    らいはファーストが捕らないとなあってのもある。こういうのはファーストのエラーとなるこ
    ともあるんだよ」
理奈 「ますます難しいなあ」
一平 「こういう判断をパッと下さなきゃならない。記録員(スコアラー)の仕事は大切だよ。
    でもね、慣れてくればわかるけど、プロ野球中継なんか見てて「えー、今のがエラー?」
    とか、「あれはヒットでしょう、エラーじゃないよ」とか思うことが出てくると思う。そうなれ
    ば上達している証拠だね。で、なんで判定に疑問が出てくるかと言えば、これは個人差
    なんだ」
理奈 「個人差?」
一平 「そ。その人のクセというか、な。守備寄りに見てしまう人もいれば、打者有利に見る人
    もいる。これは贔屓とかそういう問題じゃなくてな、その人の考え方なんだ。同じプレー
    を見ても、今のはヒットだと見る人もいれば、いいやエラーだよ、という人もいる。人間が
    見て判断してるんだから、それは当然なんだ。だから、それはあまり気にしないでいい。
     ただ、公式戦なんかでは、きちんと公式判定が出るから、それと自分の判定が同じか
    どうか、食い違っているならなぜそうなったのかを、ちゃんと解析した方がいい。
    無論、公式記録員だって人間だから間違えることもあるし、クセもある。公式記録員が
    必ず正しいとは限らない。だけど目安にはなるよね。彼らは本職なんだから」
理奈 「難しかった…」
一平 「まだある」
理奈 「えー、もういいよー」
一平 「(無視)それはフィルダースチョイスの件だ。これもイマイチ判定が難しい。ヒットでも
    エラーでもないわけだからね。これの見極めについては、「教えて!野球」内のフィルダ
    ースチョイスの項目を参照して欲しい。
     いずれにしてもスコア記録は奥が深い。10年やってても判定に困るプレーが出る。
    だからもう、これはそういうもんだと思ってしまった方がいい。どんなプレーが飛び出す
    かわからないのが野球なんだから。はじめからちゃんとしたものでなくてもいいから、
    自分でわかりやすいように記録することから始めよう。いきなり完全を目指してもムリ
    ですもん。
     あとはアドバイザー。記録するときに、今のプレーについて解説してくれる人を見つけ
    ておくと進歩が早いよ」