ダブル・プレイ


理奈 「”1イニングに2つのダブルプレーという記録があると聞きましたが、本当です
    か?
” これは高校野球不所持男さんの質問だね。・・・でも、人のハンドルに
    文句言うつもりないけど、もうちょっと呼びやすい名前にして欲しいよー」
一平 「文句言ってるじゃないかよ(^^;)」
理奈 「いいのよ、細かいことは。で、本題に入るけど、ダブルプレーっていっぺんに2つ
    アウトにすることでしょ、1イニングは3アウトでおしまいなのに、そんなことあんの?」
一平 「結論から言うとあるんだ。実際、プロ野球でもあった。これは珍記録に書こうと思っ
    たんだけど、まあいいや。記録の方にも書くから。
    で、起ったのは昭和37(1962)年8月1日の南海−東映戦。どういう選手が関わっ
    たのか、っていうような細かい点は記録に書きますんで、ここでは状況だけ説明しま
    す。
     無死満塁で、バッターがセカンドゴロを打ったんだね。もう絶好のゲッツー・コース。
    ゴロをさばいた二塁手がベース・カバーの遊撃手へ送球、さらに一塁手へと送球が
    渡って、見事にダブルプレー・・・と思いきや、なんと一塁手が送球を落としてしまっ
    た。で、アウトはひとつしか取れなかった」
理奈 「ふんふん」
一平 「さらに次のバッターが、またしてもセカンドゴロを打った。今度はセカンドからショー
    ト、ファーストときれいに送球が渡って、文句なしのダブルプレーになったわけだ」
理奈 「じゃダブルプレー一回じゃないの」
一平 「そこが記録の深いところだね。実は最初のセカンドゴロのゲッツー崩れは、打者に
    は併殺打の記録がつくんだよ」
理奈 「えー、どーしてよ、だってエラーじゃん」
一平 「そうなんだけど、普通にプレーしてたら文句なしのダブルプレーだろ? だからさ、
    打者は併殺打を打った、けど、それを野手がエラーしたっていう扱いになるんだよ」
理奈 「へー」
一平 「そんで、その次のダブルプレーは完全に成立してるだろ? だから記録上は1イニ
    ングに2つの併殺打が出た、ということになるんだ」
理奈 「なるほどー、じゃあルールの上では1イニングに2つのゲッツーってあり得るんだぁ」
一平 「うーーん、あのねー。細かいこと言うようだけども、そうではないんだ」
理奈 「なによ、だって今、1イニングに2つのダブルプレーの記録を話したんでしょ」
一平 「ちょっと気になったんだけどね、理奈、おまえな、併殺と併殺打を混同していない
    か? これは質問してくれた人もそうだし、世の中の大抵の人はそうだと思うんだけ
    ど」
理奈 「併殺と併殺打? 同じじゃないのよ、あに言ってんのよ」
一平 「それが記録上はちょっと違うんだよ。いい機会だから覚えておいてよ。
    あのね、併殺っていうのは守備側から見たものなんだ。対して併殺打というのは打
    者から見たものだね」
理奈 「だから何が違うのよっての」
一平 「どう説明したらわかってもらえるかな・・・。じゃあな、無死走者1塁で打者はピッチ
    ャーゴロを打った。投手−二塁手−一塁手とボールが渡ってダブルプレーになった。
    次。無死一塁で打者がピッチャーライナーを打った。投手から一塁手にボールが行
    って、走者は戻りきれずにダブルプレーになった。併殺打はどっちだ?」
理奈 「あんたさっきから何言ってんのよ、どっちも併殺で併殺打でしょ?」
一平 「それが違うんだよ。最初の例は理奈の言うとおり、併殺打だよ。でも2番目の例は、
    併殺ではあるけど併殺打ではないんだ」
理奈 「なに言ってるかわかんないよーーー!」
一平 「短気を起こすな(^^;)。2つの例の違いは何だかわかるか?」
理奈 「えーと、バッターが打ったのがゴロかライナーかの違い。あ、もしかして併殺打って
    ゴロじゃないと記録されないとか」
一平 「あ、惜しいぞ。わかりやすく言うとな、バッターがランナーより先にアウトになった
    場合
は、以後、走者がアウトになっても併殺打とはならないんだ」
理奈 「あ、そうか。最初の例だとピッチャーゴロでピッチャーが二塁へ投げて走者が先に
    アウトになったんだよね。だから併殺打なわけね?」
一平 「そうそう。2番目の例は、ライナーだから先に打者がアウトになっただろ? だから
    併殺打とは記録されないんだ」
理奈 「じゃあさ、もっとわかりやすく言うと、ゴロでダブルプレーになったら併殺打になって、
    フライやライナーでダブルプレーなら併殺打ではないってことなのね?」
一平 「惜しい。ちょっと違う」
理奈 「なんでよー、あんたアタシが言うこと何でも違うって言う気でしょ」
一平 「そうじゃないよ(^^;)、いじけるなよ。だからさ、最初のアウトがバッターだったら併殺
    打にはならんと言ったでしょうが。フライやライナーはもちろんだが、ゴロだって先に
    打者がアウトになることあるでしょう」
理奈 「そうかな」
一平 「あるさ。例えばな、走者2塁でバッターがピッチャーゴロ打ったとするだろ? 投手は
    一塁に送球してアウトにしたんだけど、その間に2塁走者が3塁へ走ったとする。これ
    を見て、一塁手は三塁へ投げて走者をアウトにした。これはどうだ? ゴロだったけ
    ど、先にアウトになったのはバッターになるだろ?」
理奈 「うーん。じゃこれは併殺打にはならないんだよね? でも併殺にはなるの?」
一平 「そうそう、その通りだよ。ひとつのプレーでいっぺんに2つ以上のアウトをとれば、
    それは併殺になるんだよ。でも、走者が先にアウトになったのなら、それは併殺打に
    はならない。つまり、併殺ではあるけども、併殺打ではない、というケースだね。
    これはよくあることなんだ。逆にな、さっきのプロの例は併殺ではないけども併殺打
   ではある
ってケースなんだ」
理奈 「今ひとつピンと来ないんだけどな・・・。あ、じゃあさ、外野フライでゲッツーってある
    じゃん。ランナー3塁でバッターが外野フライ打って、ランナーはタッチアップでホーム
    へ走ったけどタッチアウトってやつ。あれはどうなんの? 先にフライで打者がアウト
    になったわけだから併殺打にはならないの?」
一平 「そうだ、そうだ。守備側からすれば併殺、つまりゲッツーにはなるんだけどね。
    いろいろ例を出したけど、どうだ、わかったかな?」
理奈 「わかったような、わかんないような・・・。あ、じゃあね、三振ゲッツーってあんでしょ、
    あれはどうなんの?」
一平 「考え方は一緒だよ。三振ゲッツーってのは、打者が三振した時に走者が盗塁を試
    みたんだけどアウトになったってやつだよね。これもよくあるよね」
理奈 「これも一連のプレーで2つのアウトをいっぺんにとったから併殺なんだけど、バッタ
    ーの三振が先で、走者のアウトが後だから併殺打にはならないのかな」
一平 「おおー、理奈、すげーじゃん、大正解」
理奈 「へへ、ホント?」
一平 「じゃもうひとつ問題を出そう。無死1,2塁で打者がサードゴロを打ったとしよう。打球
    を捕った三塁手は三塁ベースを踏んで二塁へ送球、セカンドはさらに一塁手に送球
    して全部アウトになった。これはなんだ?」
理奈 「トリプルプレーでしょ?」
一平 「そうだな。じゃあこのケースで、三塁手が三塁を踏んだけど、走者の足の方が早くて
    三塁セーフ、だけど、二塁と一塁はアウトになった。これは?」
理奈 「3つアウトじゃないからトリプルプレーじゃないよね。三塁はセーフだけど、二塁と一
    塁はアウトだし、走者が先にアウトになってるから併殺打にはなるのかな?」
一平 「わかってきたな、その通り。これは三重殺にはならなかったけども、立派に併殺だ
    し併殺打にはなるんだよ。じゃあ次な。
    上記のケースで、三塁手はサードを踏んで走者をアウトにして二塁へ投げた。だけ
    ど、この送球は間に合わなくて二塁はセーフになっちゃった。でも、その送球を一塁
    に送って打者はアウトにしたとする。これはどうだろう?」
理奈 「難しいよー。3つはダメだけど2つはアウトにしたから併殺にはなったんでしょ。でも、
    併殺打にはならない・・・のかな?」
一平 「残念。併殺になるというのは正解だけど、併殺打にもなるんだよ。さっきも言った通
    り、打者より先に走者がアウトにはなってるだろ? その走者が二塁走者だろうが
    三塁走者だろうが関係はないんだよ。三塁アウトで二塁セーフ、一塁アウトだから、
    二塁が飛ばされてるもんで併殺打にならないような錯覚があるけど、これも併殺打
    になるんだね」
理奈 「結局、とにかく打者より先に走者がアウトになって、2つ以上のアウトがとれれば
    併殺で併殺打になるのね」
一平 「うん、そうだね。もちろん、一連のプレーじゃないとダメだけどね。どうだ、ちょっと難
    しかったか?」
理奈 「うん、ちょっと・・・。でもなんか少し賢くなった気がする」