3バントのファール


理奈 「これも掲示板で質問してもらったやつだね」
一平 「ありがたいよね。自分で質問作ろうと思っても、なかなか出来るものじゃないから
    ね。やっぱ、奇想天外というか意表を突かれるような質問てのは、ヤラセじゃ難し
    いね」
理奈 「じゃ行きましょか。えと、いえねこさんから。「ファールはいくつ打ってもいいのに
    なぜバントは3バントファールでアウトなんでしょうか」ってやつだね。そういや
    確かにそうだね。…ところでさ、いえねこさんて可愛いハンドルだけど、女の人?」
一平 「え? あ、ああ、まあな(^^;)」
理奈 「きれいな人なの?」
一平 「うん、ステキな人だけど…。楚々とした感じでな」
理奈 「ふぅん。まあいいけど。で、お答えは?」
一平 「これは単にピッチャー保護だろうね」
理奈 「ピッチャーの保護って?」
一平 「じゃまた例を出そうか。その昔、っていったって昭和50年代のお話なんだけどね、東
    洋大姫路高校に、前原クンという9番打者がいたんだ」
理奈 「それが?」
一平 「この前原選手、めったやたらと脚が速く、ベース・ランニングも抜群に巧かった。これ
    で普通に打てれば、往年の阪急・福本に迫るような選手になったろうが、悲しいかな
    天は二物を与えなかった」
理奈 「打てなかったんだ」
一平 「ああ。どうしても、ボールがまともにバットに当たらない。そこで前原選手が考えたの
    が、ファールで粘って四球を誘おう、という策だ」
理奈 「へぇ。うまくいったの?」
一平 「それがなかなか。そう簡単にファールが打てれば、フェアの打球だって打てたろうよ。
    スイングしたバットに、悲しいくらいボールが当たらない」
理奈 「じゃ、どうしたの?」
一平 「まともに振って当たらないなら、途中でバットを止めちまおうってことにした。つまり、
    バットにボールをかすらせるようにしたんだね」
理奈 「かすらせるって…、ファール・チップってこと?」
一平 「そうだ、そうだ。これはけっこうというか、かなり難しいぞ。まともに打ったら凡打に
    なってしまうし、ミート・ポイントを外そう外そうとしすぎると空振りしちゃうよな」
理奈 「それでうまくいくの?」
一平 「頑張ったんだろうね、前原クン。この技術をモノしてしまったんだ」
理奈 「じゃ、大活躍?」
一平 「すごかったようだね。前原君は、とにかく粘る。ピッチャーとしては、もうヒットでも何で
    もいいから、さっさと打って欲しいって思うようになってしまう。ところが前原君はバット
    にボールをかすらせるファールばかりだ。これには投手もまいる」
理奈 「でしょうね」
一平 「とにかく、投手としてはしつっこくファールされるもんだから、どうしても根負けしてし
    まうわけだ。で、結果的に四球を出す。すると前原クンは得意の脚にモノを言わせて、
    あっというまに二盗、三盗を決めてしまい、たちまちチャンスを作る。投手としては、
    前原クンへの四球は、ほとんど三塁打を打たれたのと同じになってしまうわけだ」
理奈 「はー」
一平 「こうなると投手としてはたまらないよね。1打席で20球くらい平気で投げさせられてし
    まう。1試合で、前原クン相手だけで100球近く投げさせられてしまうことになりかね
    ないのだから、これはまいってしまうわな」
理奈 「ちょっとキツイね。じゃあ、この前原クンを擁して、東洋大姫路は甲子園で大活躍?」
一平 「そこはフェア・プレーを重んじる高校野球だ。前原クン苦心のこの打法をバントの一
    種として扱うことにしたんだね。従って、前原クンとしてはこの打法でファールして粘
    ることことが出来なくなってしまったわけだ」
理奈 「あやー。かわいそうな気もするけど、ピッチャーのこと考えたらしかたないのかなあ。
    …ところでさ、カントク、よくこういう風に、都合良く昔の例とかがポンポン出てくるね。
    こういうのって全部覚えてるわけ? あ、このこともメールで質問があったんだけど」
一平 「印象的な話は覚えてるなあ、大抵。そうじゃないものも、どの本で読んだ、ということ
    くらいは覚えているんだよ。詳細は忘れていても、どの本に載ってたというのを記憶し
    てれば、それほど手間じゃないだろ?」
理奈 「…そういう記憶力ってさ、もっと建設的な方向に使えなかったの?」
一平 「うるさいよ(^^;)。でな、バントのファールもこれと同様、つまり投手保護という観点
    から来てるんだ」
理奈 「さっきの前原クンみたいに、やたら粘られたらピッチャーがたまんないってことね。
    でもなんで普通のファールがいいのにバントはダメなわけ?」
一平 「そりゃ、普通にバット振ってボールに当てるより、バントの方が簡単だからだ。バント
    でいいところに転がすのにはもちろん技術が必要だが、ただバットに当てるだけであ
    るなら、そう難しいことでもないんだ。だから、これを意図的に、しかも集団でやられた
    日にゃ、ピッチャーは簡単につぶれてしまうよ」
理奈 「あ、その防止策なのか」
一平 「そ。まあ、スイングしてカットするファールなら、打者側にもリスクが伴うから、これは
    認められるけどね。あ、リスクってのはカットするファールの場合、バントのファールよ
    りはずっと空振りしやすいってことね」
理奈 「3バントのファールも、当たり前のこととして考えてたけど、やっぱちゃんと理由があ
    んのね」
一平 「そうだね。ルールなんてのは、なぜそうなのかという理由はきちんとあるはずなん
    だ。その辺を考えていくのも野球の面白さを知ることになると思うね」