用具について  バット編

理奈 「次はバットだね」
一平 「うむ」
理奈 「さすがに長さとかは決まってるんだよね」
一平 「もちろん。形状も決まってるよ。形は、なめらかな丸い棒であると規定されてるな。
    太さだけど、もっとも太い部分で直径が2インチと3/4以下であること。ちょうど
    7センチくらいだね。長さの方は42インチ以下。つまり1メートル6センチ7ミリ以下
    ってことになる」
理奈 「それが守られてればOK?」
一平 「いや、もうひとつある。一本の木材から作らなければならないんだ。つまり一本物
    じゃないとまずいわけだ」
理奈 「どゆこと?」
一平 「簡単に言うとだな、接着剤や薬品を使って接合したバットは認められないってわけ
    だ」
理奈 「くっつけたバットなんて、そんなのあるの?」
一平 「昔はね。日本じゃ一般的だった圧縮バットってやつ。これは、薬品を使って複数の
    木材を合わせたものなんだ。それだけならまだよかったんだけど、特殊な薬品を使っ
    てバットの剛性を高めて反発力を強めたりするメーカーが出てきたんだな」
理奈 「難しくて何言ってるかわかんない」
一平 「つまりルール違反をやってたってことさ。ところが日本のプロ野球じゃ、この圧縮バ
    ットを禁止にしてなかったんだな」
理奈 「またなんで?」
一平 「いろいろ理由はあるけどね・・・。まあ、今では圧縮バットは禁止になったから」
理奈 「あ。長さと太さは、それ以下ならいいわけ? 長いのはいけないけど短いのはいい
    のね?」
一平 「そうなるね。でもバットは短ければ短いほどバッターに直接ボールの威力が伝わっ
    てしまう。早い話が、手が痺れちゃうんだ。まあバントはしやすいかも知れないけど、
    短くて得することはないと思うね」
理奈 「普通はどれくらいの長さなのかな?」
一平 「大抵は34〜35インチってところだね。その昔、阪神にいた藤村富美男って打者
    は、物干し竿と呼ばれた長いバットを使って大活躍したんだけど、それでも37イン
    チだ。まあ、42インチのバットを使った打者ってのは、ちょっといないと思うなあ」
理奈 「ボールと違って重さの決まりはないんだね」
一平 「ああ、そうだな。基本的には重いバットの方が反発力が強いけど、まあ木製だから
    ね、重いったって知れてるってことだろう。あまり重くなるようなら、それは何かしら薬
    品加工なり接合があったと疑ってもいいね。それに、あまり重くてもバッターが扱えな
    いよ」
理奈 「そういえば高校野球は金属だけど、プロは木製だよね」
一平 「うん。基本はもちろん木製なんだけど、このあたりは各大会や組織の自由裁量にな
    ってることが多いんだ」
理奈 「なんで高校野球は金属バットなんだろ?」
一平 「昔の話だね・・・。今ほど豊かな高校ばかりじゃなかったってことさ。木製バットは折
    れちゃうだろ? その点、金属バットなら半永久的に使える。極端な話、チームに一
    本あれば間に合っちゃう」
理奈 「そだね」
一平 「でも、問題もあるんだ」
理奈 「ホームランばっか出るってことでしょ?」
一平 「ほほぅ、よくわかったな。そうなんだ、それも問題なんだな。もともと、金属バットが採
    用された理由は、さっきも話した通り、その耐久性とそれに伴う経済性なんだけど、
    それがないがしろになりつつあるんだよ」
理奈 「どういうことなの?」
一平 「金属バットというからには、永久とは言わないけどせめて1万打くらいは使えないと
    意味がないと思うんだ。それが最近ではせいぜい7000〜8000打。ひどいのにな
    ると5000打くらいしか寿命のないのもあるそうだ。一方、金属バットは剛性が高い
    から反発力も強い。これは副作用的なことだったんだけど、最近ではむしろこっちの
    方が重要視されてる面が強いくらいだ。剛性重視の傾向が、金属バットの寿命を縮
    めているんだな。本末転倒ってことだな」
理奈 「そうだなあ、アンフェアな感じだよね。もっと木製バットが安くたくさん出来ればいい
    んだね」
一平 「まあね。でもそれはムリだろうなあ」
理奈 「そだね、国産は難しいんだろうね。木とか少ないんでしょ」
一平 「まあ、杉だの樫だの、あるいは輸入のマングローブなんかでバットが作れりゃそんな
    こともないんだろうけどね」
理奈 「あれ、バットに使えない木があるわけ?」
一平 「むしろ逆だよ。使える木もある、と言った方がいいくらいさ。弾性と剛性を適度に持
    ち合わせた、バットに都合のいい木はそうないってことだ。主に青ダモって木なん
    だけど」
理奈 「それしかダメなわけ?」
一平 「厳密にはわからないけど、現状ではそう言っていいんじゃないかな。ヤチダモも使っ
    たらしいけど、大体は青ダモだね。この青ダモの成木から取れるバット用材木は、
    いいところ4〜5本てところらしい。柾目じゃないと困るし、数は取れないだろうね」
理奈 「う〜〜ん」
一平 「おまけに、この青ダモって木はバットくらいしか使い道がないらしいんだ。バットには
    最適だけど、バット以外には向かない。あとは薪くらいにしか使えないそうだ」
理奈 「じゃ贅沢品なんだね」
一平 「そうも言えるな」
理奈 「他に禁止事項はないの?」
一平 「あるよ。ほら、すべり止めのテープをグリップに貼ったりするだろ?あれはグリップ・
    エンドから18インチ(45.75センチ)以下じゃないとダメ。18インチ以下なら、ザラ
    ザラにしてもかまわないんだ」
理奈 「あ、そうだ、こないだ気がついたんだけど、木のバットって先っぽが丸くえぐれてるよ
    ね。でも金属バットはそれがないじゃない。あれはあってもなくてもいいの?」
一平 「へぇ、細かいところに気がついたね。えぐれているバットをカップ・バットって言うん
    だけど、深さは1インチ(2.5センチ)までになってるね。無論、なくてもいいんだよ」
理奈 「バットってひとくちに言っても、いろいろあるんだね」
一平 「そうだな。まあ、その辺も野球の面白いところだね。あ、それとプロでは1987年か
    らカラーバットが使えるようになったんだ」
理奈 「あれ、じゃ昔はダメだったわけ?」
一平 「そうだよ。私なんかの実感じゃ、まだ最近て感じがするね。昔は、カラーバットを持っ
    て打席に入ろうとした外国人選手が警告を受けたってこともあったくらいだよ。まあ、
    今だって、基本的に黒や茶系統の色しか認められてないしね」
理奈 「なんだ、残念。ブルーとか黄色とかピンクのバットがあれば可愛いのにね」
一平 「そう思うね。ファンの受けもいいだろうし、選手にとっても個性を表す手段のひとつに
    なると思うけど。さしずめ、中日ドラゴンズの井上一樹選手なんかはピンクのバットを
    使うだろうね(^^;)」