バントと2番打者
理奈 「真面目な質問だ。いえ、他はふざけた質問ばかりだってことじゃないんだけど。
専門的っていうかー」
一平 「なんでしょう?」
理奈 「スチャルヒンさんから。「先日川相選手が犠打の世界新記録を出しました。
その時は感動で涙涙でした。その時解説者の方がおっしゃっていた事ですが、
「川相君の記録はもう抜かれないと思うよ。今は2番バッターの考え方が変わ
っているからね。今は2番バッターでもパワーヒッターみたいになっているから
ね。」昔は1番出塁2番送って3番→4番で得点。みたいな感じだったのだと
思います。しかし僕はまだ17ですから、詳しくは知りません。教えてください。
そして今の打順の考え方も教えてください」と」
一平 「あー、川相の犠打記録ね。地味だけど立派な記録だね」
理奈 「すごい記録なんだろうけどバントだからね。川相さんが巨人の選手じゃなかったら
こんなに取り上げられたかな?」
一平 「要らんこと言うな(^^;)。しかしなあ……。私はナマでTV見てなかったから知らない
んだけど、その解説者って誰かな? 「今は2番バッターの考え方が変わってる」?
そうかなあ」
理奈 「あ、そんなことないの?」
一平 「もう川相の記録は抜かれないだろうってのは正しいと思うけどね」
理奈 「それは?」
一平 「今までの世界記録は511だったわけだな。メジャーの記録だが、今から70年以上
も前の話だ」
理奈 「大昔だねー」
一平 「ああ。確かに今の大リーグは、序盤にバントで走者を送るって考え方はほとんどない
から犠打の数は少ない。故に数は伸びない。これは事実だろうな」
理奈 「日本は?」
一平 「2位は平野(中日−西武−ロッテ)。川相の先代のバント名人だが、451犠打なん
だ。つまり川相と60個以上も離れている。3位は新井(南海−近鉄)、4位は正田
(広島)で、ここまで全員が引退した選手だ。現役は5位に西武の伊東が入ってくる
が、まだ300もない。伊東も引退間際だから、300には届かないだろう。以後、10
位までに現役選手はいないんだ。故に、川相の記録を抜くのはかなり難しいだろう」
理奈 「じゃやっぱり今はバントしなくなってるからっていう、その解説者の意見が正しいん
じゃないの?」
一平 「違うと思うけどなあ。じゃあ今日の新聞でプロ野球のテーブルスコアを確認してみ
よう(8/24付)。昨日(8/23)のゲームでは、どんな選手が2番を打っているのか、
だね。
オリックスは大島。近鉄は水口。ロッテは喜多。ダイエーは川崎。西武は小関。
日本ハムは井出。阪神は赤星。横浜は石井。巨人は川相。ヤクルトは宮本。広島は
木村拓。中日は関川。
どうだい? その解説者が言うように「2番バッターでもパワーヒッター」なんて選手
がいるかい?」
理奈 「…いないよねぇ。こう言ってよければ、みんな川相さんタイプじゃないの?」
一平 「だよな。まあ、喜多、関川、赤星、石井あたりは2番というよりは1番タイプだけど、
少なくとも長距離砲じゃないし、一発長打が期待できる選手じゃないよな。もちろん、
チーム事情や監督の方針もあるよ。今季、ロッテは不振の福浦を2番に上げたこと
があった。これはバントさせるためじゃなくて、福浦の気分転換て意味が強かったろ
うな。あるいは、日本ハムの小笠原は長い間2番を打っていた。その間、送りバント
ゼロだった。彼は率も長打もある選手で、普通ならクリーンアップ。でも、その当時、
ハムのクリーンアップが万全だったこともあって2番を打ってた。そうじゃなくなって
からも2番だったけど、これは惰性じゃなかろうか。3番打ってもよかったからね。
だけど、この小笠原は特例中の特例だ。その解説者は、この小笠原の印象が強か
っただけじゃないのかな」
理奈 「ということは、今でもバントは多いんだね?」
一平 「多いよ。さすがに高校野球みたいに、2死覚悟で送ることは滅多にないけどね。
でも、初回先頭打者が出れば、まず送るんじゃないの? まあ2番打者がよほど好調
で、エンドランの成功率が高いとか、そういう場合は別だけどさ」
理奈 「じゃ、なんでこれから先も川相さんの記録が抜けないの?」
一平 「たぶん、打順がめまぐるしく変わるからだろうな」
理奈 「は?」
一平 「よほどチームの調子が良くて、けが人もいないところじゃないと、1年通じて打順を変
えないチームなんて、もはやあり得なくなってしまったからだ。さらに、力が同じなら、
ベテランより若手を使う傾向が強いから、ますます記録が生まれにくくなってる」
理奈 「そんなにコロコロ変わってるかな、打順て」
一平 「川相にしたって、今季はレギュラーじゃなかったろ? ケガ人の関係で復帰してるけ
どな。去年は仁志だったし。ロッテは選手いないし、ダイエーの川崎は今季出てきた
選手だ。中日は荒木が2番だったしな」
理奈 「ふんふん」
一平 「昨日のスタメンで、2番で固定されているのは西武の小関とかヤクルト宮本、オリッ
クス大島くらいのもんだろう。あとはけが人関係だとか、今季から2番だとか、そういう
選手が多い。ああ、近鉄の水口も2番かな」
理奈 「そんなに変わるんじゃあ、数を積み上げる記録は難しいね」
一平 「そうだな。まあ2番じゃなくてもバントはあるけども、2番がやっぱりもっとも多いからね」
理奈 「じゃあ、今では2番もパワーヒッターというのは誤りだけど、川相さんの記録は抜かれ
そうもないってのは本当ってことでいいかな」
一平 「そうだね。そんなところだね」
理奈 「じゃあ次。今の打順の考え方だそうだけど」
一平 「今でも、1番が出たら2番が送って、3,4番のヒットを期待ってので間違いないと思う
よ。組み方は流行り廃りというのはあるんだ。でも、日本は基本的にそういう感じだと
思う」
理奈 「流行り廃りって?」
一平 「故人だが、名将、知将で名高かった三原脩監督。この人は2番打者最強打者論と
いうのを唱えていて、2番にバントさせなかった」
理奈 「バントしなかったんだ」
一平 「いや、そうじゃなくてバントはしたよ。スクイズもよくやったし。でも、たとえば初回で
1番打者が出塁しても2番にはそのまま打たせたりすることが多かった」
理奈 「なんでだろ?」
一平 「もともとこの人は、大洋とか弱い時代の西鉄とかを率いていきなり優勝させちゃうよ
うな人だったんだけど、奇襲とか先制攻撃を得意としたんだな」
理奈 「奇襲?」
一平 「ピッチャーをトップバッターにしちゃうとかな。西鉄の時なんかは、2番に豊田泰光を
置いてた。この人は30本くらいホームランしちゃう人だ。だから、1番が出たら2番も
打たせて、ガンガン攻撃する方針だったんだな。無論、2番にバントさせることだって
あったけどね」
理奈 「大リーグ風か」
一平 「そうだね。1,2,3番に強打者を置く「流線型打線」なんて言い方をすることもあった
な。あと、山内和弘がロッテの監督時代、ダブルクリーンアップという打線を組んでた
こともあった」
理奈 「なにそれ?」
一平 「1,2番で出塁、進塁させて3,4番のヒット、長打で得点する。5番、6番は残った走者
を返すって感じで普通は組むん、打線てのは。ところが、この時のロッテ打線は、1〜4
番まではそれでいいとして、5番にはまた脚の速い打者を持ってきた。6番も然り。そし
て、本来は下位打線であるはずの7番、8番に長打力を秘めた強打者を持ってきたん
だね」
理奈 「そりゃすごいね。あ、それでダブルクリーンアップか」
一平 「まあ贅沢な話だね。もっとも、こんなことが出来たのも、当時のロッテ打線が強力だ
ったからだ。リー、レオンに有藤、張本と、3,4番を打てる打者が4人もいたから出来
たことなんだけどね」
理奈 「じゃバント自体は減ってないんだね?」
一平 ないね。実際、犠打がいちばん多かったのはセントラルは89年の中日、パシフィック
は90年の西武だ。むしろ増えてるくらいだよ。だけど2番がコロコロ変わったりしてる
から、分散しているだけなんだ」
理奈 「でもさ、プロの選手って案外バントがヘタじゃない?」
一平 「ん? ああ、ヘタが多いね」
理奈 「難しいのかな、やっぱ」
一平 「バントか? いや、そんなことはないよ。誰にでも出来る簡単なことではないけども、
うまくやれば出来ないこともない。プロに入るような選手なんだから、当然みんなうま
く出来るはずだ」
理奈 「じゃなんでヘタなの」
一平 「だって練習しないもん。高校生がなぜあんなにバントうまいかと言えば、打撃練習の
かなりの部分を裂いてバント練習しているからだよ。一方、プロでバント練習するなん
てのは、それこそ川相タイプの選手だけじゃないかな。限られた練習時間でバント練習
なんかしたくないんだよ」
理奈 「なんで?」
一平 「つまらないからだろうな。打った方が気持ちいいよ。それにバントしたって個人成績は
上がらないしね。上から指示でもされない限りはやらないんじゃない?」
理奈 「難しくはないって言ったよね?」
一平 「うん。バッティングとかピッチングってのは、正直言って天性の部分が大きいんだ。特に
飛距離とか速球の速さなんてのはそうだね。努力ではどうにもならない部分が確かに
ある。でもね、バントは違うんだ。これは才能関係ない。練習すればするだけうまくなる
ものなんだ。だからこそ高校野球では重要な戦法になってるんだよ。天才的な選手が
いなくても、確実にバントで送って得点するってのが基本だから」
理奈 「ふうん」
一平 「で、プロってのは才能のある人の集まりだからね。今さらバントなんて、とか、なんで
オレがバントなんか、って思う人は多いだろうな。だからバント練習なんかロクにやらな
い。うまくなる道理がないよ。高校生の方がバントがうまいのは当然なんだな」
理奈 「ちょっと脇道に逸れたとこもあったけど、スチャルヒンさん、おわかりになりましたでしょ
うか?」