恋と野球と戦争はどんな策を弄しても良い


理奈−「なんなの、今回のタイトル?」

一平−「ああ、アメリカの格言だよ」

理奈−「…。なんか前回からさ、ちょっとコーナーの趣旨に反してない?」

一平−「まあ、そういうな(^^;)。こっちのミスで、こういう問題について取り上げるコーナーを作ってなか
     ったんだ。仕方がないからここでやる。まあ、古い野球の話も出るからいいだろう」

理奈−「あ、そ。で、なに、どんな意味なん?」

一平−「文字通り。勝つためには何したっていいのだ、という、非常にアメリカ的な考え方だ」

理奈 「ああ。ちょっと掲示板にも出たね、そういうの」

一平 「うん。今回はこの2つを考えてもらいたい。
     ひとつ。ルール違反でないのなら、なにをやっても良いのか
     ひとつ。審判にバレなければ違反でもテクニックである。」

理奈 「はーん。ひとつめは何となくわかるかなあ。去年のローズへの敬遠攻めなんかもそうでしょ?」

一平 「そうだね。まあローズの問題は、あれは記録封じのために勝敗度外視でやったプレーだから、
     あんまり程度の高いもんじゃないけどね。プロ野球じゃないけど、非常にわかりやすい例がある。
     1992年のセンバツだ。準々決勝の試合で、当時、星陵高校で4番を打っていた巨人・松井は、
     での明徳義塾戦で、なんと全(5)打席敬遠されてしまったんだ」

理奈 「は!? 全部歩かされたの?」

一平 「そう。それもご丁寧に、全部キャッチャー立ち上がっての敬遠。もう走者なんか関係なし。塁が詰ま
     ってようが無走者だろうが、ぜーんぶ敬遠。徹底してたね。恐らく、たとえ満塁でも敬遠したんじゃ
     ないかなあ」

理奈 「……」

一平 「明徳義塾の馬淵監督は、星陵はとにかく松井だ、松井さえ抑えれば勝機はある、と思ったんだろ
     うな。しかし、あそこまで徹底するとは、当時、寒気がしたよ。実際、明徳はこの試合で星陵を敗っ
     てベスト4に進出してるしな」

理奈 「そうまでして勝ちたかったのかな。たかが高校野球なのに」

一平 「そうなんだろうな。ただ、やっぱり理奈みたいな不満をもった人が圧倒的で、その試合は明徳を
     罵倒するヤジがものすごかった。勝った明徳の選手が校歌を歌っている時も、スタンドからは怒号
     に近いようなヤジが乱れ飛んで、校歌が聞き取れないくらいだったよ」

理奈 「でもさあ、明徳の選手も気の毒って感じ。監督の指示に従っただけなのに。反発した選手もいたん
     じゃないのかなあ」

一平 「どうかな。その辺はわからないけどね。馬淵監督は、この件に関してはすべて自分に責任があると
     公言していたし、選手も「松井の敬遠は当然」と言っていた子が多かったね。どこまで本音かわから
     ないけどね」

理奈 「……ああ、そうか。それで、勝つためには何をしてもいいのかって話になんのか」

一平 「そうそう。この敬遠というのは別にルール違反てわけじゃない。戦法のひとつだし、悪いことではない
    はずなんだ。だいいち、敬遠したらその走者を一塁に出さなきゃならない。ペナルティは受けてるわけ
    だしね」

理奈 「でもさあ…。そのへん、どうなんだろ?」

一平 「まあ、結論を急ぐな。まだ例はある。
    最近はあまり聞かなくなったが、捕手のトリックというのがある。追い込まれた打者が、きわどい球を
    ハーフスイングでバットを止めたとする。スイングしたかどうか微妙なところだ。コースはきわどかったが
    ボールだ。だが、審判の耳に、「ピチッ」というファールチップの音が聞こえた。ボールはそのまま捕手
    は抑えた。ということはストライク、三振だ。
     審判は「ストライクアウト!」とコールする。バッターはびっくり仰天。スイングしていない。
    そう抗議すると審判は「いや、チップしたんだよ」。打者は食い下がる。「してないよ、バットに当たって
    ない」。審判、至って冷静に、「いや、キミはスイングを途中で止めてバットを引いたから、チップしたの
    がわかりにくかっただけだ。が、私はチップした音が確かに聞こえたんだ。三振だよ」。」

理奈 「どーゆうカラクリなわけ?」

一平 「だから捕手のトリックだよ。要するに、バットを引いた時に、キャッチャーがそれに合わせて、口で「ピチッ」
    と音をたてただけなんだ」

理奈 「えーーーー、なにそれーーーー」

一平 「ズルが嫌いな理奈さんらしい反応ですね(^^;)。20年くらい前まではけっこうあったんだ。今はどうか
    わからないけど。これをやられても、あまり激しい抗議はしなかったんだよ。なぜかって? だって自分
    のチームの捕手も同じことをやってたからさ」

理奈 「でもやだー、そういうのー」

一平 「もうひとつ面白いのを紹介する。西鉄にいた豊田泰光遊撃手がまだ18歳の新人だった頃の話だ。
    一塁走者が盗塁を試みた。打者はそれを助けるために空振りする。ところが捕手は、その投球を
    後逸してしまったんだ。当然、一塁走者はややスピードを落として二塁を目指した。そこでベースカバー
    に入った豊田遊撃手、こうつぶやいたんだ。「ファールか……」。これを聞いた一塁走者、てっきりバッタ
    ーはスイングしたときファールチップしたもんだと思いこんでしまい、小走りで一塁へ戻ろうとした。
    そこへボールを捕った捕手から一塁へ矢のような送球。ランナーはタッチアウト」

理奈 「なになに、どういうこと?」

一平 「だから、実際はチップじゃなくて本当に空振りだったってことだよ。つまり豊田が一塁走者をだました
    んだよ。プレー中は無駄口たたいちゃいけないってルールはあるけど、豊田のはあくまでひとりごと
    だし、違反ではない。真に受けた一塁走者が悪いってことになってる」

理奈 「うーーん……」

一平 「今度はもっと本格的なのを紹介しよう。これはメジャーの例だ。ホワイトソックスのグランド・キーパー
    の話ね」

理奈 「整備屋さん?」

一平 「ああ。だが、このホサードさんという人はなかなかすごい。彼のやったことを書いてみよう。

     まずファールラインの引き方だ。自分のチームに、俊足でバントのうまい選手が何人かいる場合、
    一塁線と三塁線のファイルラインを出来るだけ平らにしておく。そこへバントすれば切れてファールに
    なることは減るだろうね。逆に、相手チームにそういう選手が多い時は、バントがファールになっちゃう
    ように、外側に向けて傾斜をつけておくわけだ。こうすれば、ラインに転がったバントは切れてしまう。

     2つめは外野フィールドの管理だ。味方の外野手が、打力優先で守備や脚、肩が今ひとつの場合、
    試合前の整備の時に、たっぷりと芝に水をまいておく。そこへ打球が飛べば、当然球足が遅くなり、
    ラクに追いつくことができるね。

     3つめは内野だ。我がチームの内野手が名手揃いなら、内野の芝(メジャーのグラウンドは日本と
    違って内野も芝だ)を短く刈り込んでしまう。ゴロの球足は速くなるが、うまい内野手なら対応できる。
    逆にこっちが攻撃するときは、強いゴロを打てば内野を抜ける確率が上がるわけだ。
     反対に、こっちの内野手がうまくない場合は、芝を刈らずに伸ばしておき、さらにたっぷり水をまく。
    そして、内野手の守備位置の土は硬く整備しておく。出足がよくなるからね。

     4つめはホーム付近の土の整備。こっちのチームの投手が、低めにボールを集めたり、落ちるボール
    で勝負するタイプなら、ホームプレート周辺は、砂を多く混ぜて水もたっぷり含ませる。そうすれば、
    仮に捕手が取り損なっても、大きなバウンドはしないし、転がるスピードも遅くなる。

     5つめはブルペン。それも相手チームが使うのブルペンだ。ふつう、グラウンドのマウンドとブルペンの
    マウンドは同じ条件になってるはずだけど、ここを5インチくらい高くしたり低くしたりしておくんだな。
    ここでウォームアップした投手がグラウンドのマウンドに立つと違和感を感じてしまう、という寸法だ。

     ホサードさんは、これだけでホームゲームの勝敗が10試合くらい変わってくると言ったそうだよ」

理奈 「正々堂々としてない。こすっからい!」

一平 「そうなんだが、特にルール違反とは言いにくいんだよ。気がついていれば、どのチームでもやって
     たかも知れないし、効果は絶大だろうしな」」

理奈 「でもやだ! みんな! こういうの、認めちゃっていいの!?」

一平 「まあ、上に書いたのは大げさな例だけど、今でもある身近な例としてはこんなのもある。
    捕手が、審判の目を誤魔化すために、捕球したミットをストライク・ゾーンに動かすテクニック。あるいは、
    当たってもいないのに、「当たった当たった」と死球を主張する打者。盗塁などの際、ベースカバーの
    野手が、送球を受ける前にグラブで走者にタッチし、その後で送球を受ける。これを一連の動作でスム
    ーズに見せ、まるで送球を受けたあとタッチしたかのような錯覚を作り出す。
     こういうのも厳密に言えばルール違反とは言えないが、そんなことをしてまで勝ちたいのか、とか、
    審判を騙して勝つのが本当の意味の勝利と言えるのか、とか。逆に、それこそテクニックである、という
    主張もあるだろう。
     たとえれば反則投球だ。ボールにツバや泥を塗って投げるスピットボールやマッドボールなどは、
    典型的だね。見つからなければいいという考え方だ。確かな統計ではないが、メジャーの投手の20%
    以上は、何らかの違反投球をしている、という調査もあるくらいだ。
     サッカーでも、こういうのはいくらでもある。ファールをファールに見せないテクニックとかね」

理奈 「だからアタシはサッカー好きじゃないんだよ、きっと」

一平 「あ、そ(^^;)。サッカーにシミュレーションというのがあるんだが知ってるか?」

理奈 「あ、サカつくとか?」

一平 「バカ、そりゃゲームだ(^^;)。シミュレーションゲームじゃなくてだな、シミュレーションだ。これはな、
    されてもいないのに、相手からファールされたようにひっくり返って痛がるようなフリをするようなプレー
    だ。で、反則のフリー・キックをとったり、相手にイエローカードをかぶせたりしようとする」

理奈 「きったねー」

一平 「言葉遣いを改めなさい(^^;)。まあ、平たく言えば審判をだまくらかして自軍を有利にしようという
    ことだ。さっき言った「当たってない死球」みたいなもんだ。これもサッカーの一部であり、良かれ悪し
    かれ、サッカーというのはそういうスポーツらしいんだな。もっとも、最近はこの手のプレーを厳しく取り
    締まる方向にはあるらしいけど」

理奈 「アタシはキライです」

一平 「わかってますですよ(^^;)。でまあ、この件についてもみなさんのご意見をうかがいたいんだ。
    サッカー界でも、この手のプレーを嫌う風潮があると同時に、それも技術だとして認める人もいる。

     ルールにあることなら、敬遠だろうが何だろうが利用するのは決して卑怯ではない、勝つため
    には当然なのか?
     それとも、同じ勝つにも勝ち方がある。トリックや敬遠で勝っても意味はないのか?

     たとえルール違反でもバレなければ勝ちなのだ。審判を誤魔化すのもテクニックである。
    それとも、違反は違反であり、審判をだますなどもってのほかであるのか。

     みなさんのお考えを、是非掲示板の方へお願いします」


    戻る