・「もぎり」発祥は野球だった!?



理奈−「なによ、もぎりって」

一平−「あれ、知らないのか? ほれ、野球でも映画でもチケットを係員に見せると、半分ちぎって返してくれるだろ?
     あれだよ、あれ。半券なんて言い方もするよな」

理奈−「ああ、あれ。え、で、なに、あれって野球場が始まりなの?」

一平−「実はそうなんだ。まずその前に、日本のプロ野球のチケットの半券には何て書いてあるか知ってるか?」

理奈−「あ、わかるかも。こないだのが残ってる。んーと、「雨天その他で5回までに試合が成立せずに中止となった場合
     は、予備日に有効です」だって。予備日ってなに?」

一平−「予備日ってのは、その中止になった試合を再度行なう日程のことだ」

理奈−「そうか。そうだろうね」

一平−「でもこれ、あんまりよくないぞ」

理奈−「なんで? だって中止になった試合の再試合をまた見れるんでしょ?」

一平−「「見れる」って言うな(^^;)。ら抜き言葉は嫌いなんだ、個人的に。まあいい。で、何がまずいかというと、日本の
     場合、この予備日ってのはあまり多く設けていない。中止が多くなったりすると、どうしても全日程終了後に組み
     込まれることなってしまう」

理奈−「何がまずいの」

一平−「だからさ、事前のスケジュールがすべて終わった後に追加するってんだろ? ということは、大抵の場合、優勝
     はとうの昔に決まってしまっているだろうよ。つまりは消化試合ってことさ。まだ順位争いが熾烈な頃の試合を
     見たくてチケットを入手したのに、それが雨で中止になって、挙げ句にその代わりは消化試合しか見られない
     ってことになっちゃうでしょうが」

理奈−「あーー、そりゃイヤだなあ」

一平−「だろ? それで同じ料金なんだからたまらないよ」

理奈−「アメリカだってそうなんじゃないの?」

一平−「それが違う。大リーグでは、基本的に全日程終了日を動かさないの。9月いっぱいで完全に全試合終わらせる
     んだね。それも全球団だよ」

理奈−「ムリがあるんじゃないの? アメリカだって雨天中止はあるでしょう?」

一平−「うん、もちろん。ただ違うのは、予備日をすぐに作ることだ。例えば、今日中止になった試合は、来週の空き日程
     にすぐ入れてしまう。どうしても空きがなければWヘッダーもやる。大リーグの日程がシビアなのはこういう理由
     もあるんだ。18連戦だとか24連戦だとか平気であるからね。9月で終わらせるため、ただでさえタイトな日程なの
     に、数少ない移動日や休養日もどんどん予備日として使ってしまうんだ」

理奈−「きっついね」

一平−「選手はね。お客さんにとっていいことさ。例え中止になってもすぐに代わりが見られるし、まして消化試合を
     見なければならないこともない」

理奈−「でも、どうしてメジャーはそこまで日程にこだわってるんだろ?」

一平−「ファンのためさ。消化試合を数多く見せるなんて失礼だ、という考え方なんだな。だから、どうしても全日程が
     期間内に終わらなかった場合、残りの日程がカットされてしまうこともある。それくらい厳しい」

理奈−「徹底してるなあ」

一平−「徹底していると言えば、雨天中止でもそうだぞ。試合開始時点で雨が強く降ってれば、プレイボールを見合わ
     せる。こりゃ日本もアメリカも同じだな。しかし日本の場合、どんなに待ったって30分がいいところだろうね。
     ところがメジャーはすごいぞ。最低でも1時間15分は待たなくちゃならない。規則で決まってるんだ」

理奈−「1時間15分も待つのかー」

一平−「それも「最低でも」だからな。審判の判断次第では2時間でも3時間でも待つことがある」

理奈−「日本でもそうすればいいのに」

一平−「どうかな。日本でこうやったらファンがついていけないだろう。10分待たされたって怒るんだからな。まして
     1時間以上待たされて、挙げ句中止だなんて言われたら騒ぎ出す短絡的なファンもいるだろう。アメリカでは
     選手は審判はもちろん、ファンも根性が入っているだね」

理奈−「あ、また脱線した」

一平−「あ(^^;)。そういう時は理奈がちゃんとチェックしてくれよ、そのために来てもらってるんだから」

理奈−「でも、こういう寄り道話も面白いよ」

一平−「ありがとうございます(^^;)。話を戻すと、アメリカの半券にはこう書いてあるんだ。「雨天その他によって、
     入場後ゲームが行なわれなかった場合、このチケットは同リーグの通常の試合の同額シート券と引き替え
     ます」と」

理奈−「どゆこと?」

一平−「つまり、見るカードを替えてもいいってことだ。日本なら、広島−巨人戦が雨で中止になってしまった場合、
     その半券は予備日に組み込まれる同じ広島−巨人戦しか見られない。例えば、今日の試合が雨で中止
     になったら、その半券では明日の同じカードは見られないってことだ」

理奈−「アメリカでは見れるの?」

一平−「OKなんだな。日本で言ったら、中止になった広島−巨人の半券で、明後日のヤクルト−中日戦を見ること
     も出来るんだ。非常に親切なシステムだね」

理奈−「へぇー。あれ、でもまだもぎりの話って全然出てないね」

一平−「あ、そうでしたね(^^;)」

理奈−「もぎりの半券の前って、どういうチケットだったの?」

一平−「ああ、これがボール紙だったらしいね」

理奈−「ボール紙?」

一平−「うん。お金を払うと、そのボール紙のチケットを観客が受け取って、観戦する時に受付にそれを渡す、と
     いうシステムだった。でまた、そのボール紙のチケットを再利用したわけだ。なんだか木札みたいだな」

理奈−「なんか大雑把」

一平−「そう思うね(^^;)。これだと困ったことも起るんだ。仮にその試合が中止になったとする。すると観客は、
     またそのボール紙のチケットを返してもらって別の日に見るわけだけど、その時、観客だった証拠がない
     んだよ」

理奈−「証拠?」

一平−「だからさ、試合が流れたら、観客はまたチケットを返してもらうために窓口に並ぶだろ? でも、その時、実際
     にはチケットは買っていなかった人が並んだらどうなる? あるいはひとりで2回も3回も並んだらどうだ?
     窓口の担当者にしたって、何千何万といる観客のすべてを憶えていられるわけもない。見分けがつかないん
     だよ」

理奈−「なるほどねー。いるんだろうな、そういう詐欺する人」

一平−「で、これは非常に困るわけだ。あるオーナーによると、「平日に5000人入ったゲームが中止になったりする
     と、日曜のチケットをもらうために10000人以上並んだりすることもあった」んだそうだ。これじゃ大損だね」

理奈−「そのための半券なのね」

一平−「そうだ。A・パウエルというオーナーが考え出した方法が、現在の半券もぎりのシステムなんだ。これなら
     観客は確かにチケットを買ったという証拠を持っているわけだからね」

理奈−「今じゃ当たり前だけど、当時としては賢いよね」

一平−「素晴らしいね。この制度が採用されたのは1880年代とされている。このシステムの優れている点を認めた
     他の興業もこぞって採用した。映画や舞台だね。舞台も中止になることはあるし、映画にしろ舞台にしろ、
     いったん外に出た観客が戻ってくるとき、確かにチケットを買った人かどうかという見極めはつかなったもんだ
     から、この制度は大歓迎されて今に至っているんだね」


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