緊急臨時会議 〜どうなる、新ドラフト!?〜
一平−さて、面白いというか、大変なことになってきたな。
理奈−どうでもいいけどさ、ここアタシのコーナーじゃないのに、なぜアタシがいるわけ?
一平−(「教えて!野球」はおまえのコーナーなのかよ(^^;))いやまあ、質疑応答の形の方がいいだ
ろうって判断だよ。理奈ならあのコーナーでコツがわかってるだろ?
理奈−そうなの? まあいいや。で、なに、ドラフトが変わるの?
一平−そうなんだ。これがもう一大変化と呼んでもいいくらいの大改革になるらしい。
理奈−それじゃわかんない。具体的に教えてくんないと。あ、その前に今のドラフト会議ってどうな
ってんの?
一平−うん、それでこそ理奈を起用する意味が出てくるな。で、現状なんだけども、箇条書きにして
みようかな。
1.1位指名、2位指名の選手には逆指名権がある。
2.ただし、上記条項に該当する選手は社会人および大学生のみである。
3.3位指名以下は各球団が希望選手を指名する。この際、他球団と指名がダブった時は抽選
によって指名権を得るものとする。
4.原則として指名枠制限はない。
まあ、こんなところかな。
理奈−ふぅん。高校生は逆指名できないってのは知ってたけど。そんで、これがどう変わるの?
一平−ちょっとその前に。あくまでこれは草案であって、確実にこうなるってものじゃないんだ。
こういう案が出てるよ、という程度のものだ。それを踏まえて説明するぞ。
1.自由競争で獲得する選手を2名まで認める。
2.ドラフト1位で指名する選手は、各球団が希望選手を公表し、他球団とバッティングした
した場合は、抽選によって1球団が指名権を獲得する。
3.自由競争で2名の選手を獲得した球団は、ドラフトでの1位指名権を喪失する。
4.2位以降の選手は完全ウェーバー制とする。
理奈−いきなりわかんないんですけど。自由競争ってなに?
一平−あ、それもわかんないか(^^;)。あのね、要するにドラフトに掛けなくていい、勝手に選手契約
を結んでいいよ、ということだよ。
理奈−え、なにそれ、ドラフトしないで新人獲っちゃっていいってことなの?
一平−そうなんだよ! これが一大変化の最たるものだ。ドラフト会議前にね、その選手および関係者
等と入団交渉して、合致したら入団させちゃっていいってことなんだ。
理奈−じゃドラフトはどうなんの?
一平−ただ自由競争で獲っていい選手は2名までだからね。当然2名の補強じゃ足りないから、他の
選手はドラフトにかけて獲得しなくちゃならないってことだよ。だからドラフト自体がなくなる
わけじゃない。
理奈−じゃ、4に書いてるウェーバー制ってなに?
一平−これは従来のドラフトで主流だった制度だね。簡単に言うと、早く指名した球団の勝ちって制度
だよ。基本的には、その年に日本シリーズで負けたリーグの最下位チームから順番に指名するんだ。
例えば、今年の例で言えばさ、日本シリーズで勝ったのはセントラルの巨人だな。だからいちばん
最初に1位指名できるのはパシフィックの最下位だった近鉄だ。次にセントラル最下位の阪神、そ
の次がパシフィック5位のオリックスってな感じで、だんだんと上位に行く感じだね。
で、1位指名がぐるっと一巡したら、今度は逆周りになる。巨人がまず2位指名して、次にパシ
フィック1位のダイエーが指名、次がセントラル2位の中日と言った具合に、順繰りになるわけだ。
理奈−へー。じゃあ指名した選手が他とぶつかったときは抽選になんの?
一平−いや違う。完全ウェーバーなんだから、指名した時点でその球団に指名権が出来る。先に他球団
に指名されたら、他の球団にはもうその選手を指名する権利はなくなるんだよ。わかりやすく言う
と、ある選手に対してドラフト1位で阪神と西武が獲得を目指していたとするね。この場合、阪神
はセントラルの最下位だから、パシフィック2位の西武よりもずっと指名の順番が早いわけだ。
だから、同じ順位で同じ選手を指名しようとしても、先に指名したもの勝ちってこと。
理奈−じゃもう、運とかクジとかが絡む要素はないわけね。
一平−そうなるね。純粋に各球団の戦力均等化を図ろうとするものだね。
理奈−でもこれじゃあさ、選手の希望って全然かなえられないんだね。
一平−そう、そこが唯一の問題だった。だから、最初は完全ウェーバーだったものがくじ引きになり、最後
には今の逆指名制度になっていったというわけだ。
理奈−制度についてはなんとなくわかったけど…。
一平−どうした、納得できんか?
理奈−うん。なんだか新しい制度って不自然じゃない?
一平−理奈もそう思うか(ため息)。明らかにおかしな制度だね。自由競争とドラフトを無理矢理同じ
土俵に乗せて運用しようとしているのが感じられて、ギクシャクした感がある。どうしてこんなこと
考えたのかなあ。
理奈−どうしてなんだろ?
一平−まあ想像はつくがね。多分、ドラフトを撤廃したい連中がいるんだよ。恐らくは巨人と西武だね。
他にもあるかも知れないけど。そういう球団は、もうドラフトなんかやりたくない、各球団が好き
に選手を獲得したいと思ってるわけだ。必然的に、そういうチームは人気とカネが両立する球団に
限られるがね。
理奈−なんとなく、アタシもドラフトはない方がいいと思う。なんとなく、だけど。
一平−理由を言ってみなさい。
理奈−うん。やっぱさあ、好きな球団でプレーさせたいってことかなあ。嫌いなチームはもちろんだけど、
同じプロでも好きなチームに入れないって、なんかかわいそうだもん。
一平−そういうこともあるとは思う。私なんかは別の意見を持ってるが、まあそれはいい。
でもな、以前はドラフトなんかなかった。ずっと自由競争だったんだよ。なのにドラフトが出来た。
なぜだかわかるか?
理奈−なんで?
一平−ちょっと考えればわかることだが、どうしたって人気球団、金持ち球団に優良選手が集まりやすいっ
てことだよ。もちろん、力のある選手のすべてが人気チーム好きとは限らないし、カネに動くとも
言わないけど、そういう選手がほとんどなのは否めないよね。となると、そういう球団ばかり戦力を
補強して、そうでない球団はロクな補強ができない。ということはどうなる?
かつての悪夢の再現だよ。特定球団のみ力が傑出して、常時そのチームしか優勝できないということ
になりかねない。
理奈−う〜〜ん。
一平−ドラフト制度が充実して以降、セントラルは巨人の黄金時代は終わっている。パシフィックにしても、
戦略的に見事な補強を続けてた西武が黄金時代を築いたが、それでも優勝チームがだいぶバラけている
だろう? 近鉄やヤクルトの初優勝などは、ドラフトがなかったらあり得なかったとする人も多いんだ。
理奈−じゃドラフトは必要悪なのかな。
一平−必要悪か。そうかも知れないね。それでも選手の人権を考慮したからこそ逆指名権(これはこれで問題
があるが)が生まれ、フリー・エージェント制度が出来たんだから、改善はされていると思うよ。
それと、こう言っちゃ身も蓋もないけど、逆指名ができてから、ドラフト会議がファンにとってつまら
なくなってるのは確かだよね。どの球団がどういう有力選手を獲得するのかが事前にわかっちゃうから。
スリルや意外感がなくなったというか。まあ、これはファンの一方的な感覚だけど。
理奈−なんでこんな制度になっちゃったんだろ?
一平−早まらないで欲しいんだが、まだこの制度で行くと決まったわけじゃない。まだ話し合いの途中なんだ。
それを前提にして聞いてよね。
んで、なんで新制度がこんなにアンバランスなのかというと、さっきも言った通り、自由競争とドラフ
トという相反する制度を同時に両立させようとしたからなんだ。発言権の強い某球団が強行に自由競争を
主張したんだろうな。多分、去年のドラフトでオリックスに1位指名されて巨人に入れなかった某高校生
投手の件もかなり影響しているだろう。といって、ドラフト存続を主張する球団の方が多いのだから、
これを無視することも出来ない。そういうことで双方折衷という意味で、こういうのが出来たんだろう。
理奈−ムリムリだよね。
一平−というか、本来のドラフトの意味がなくなっているよ。ドラフト制度が巨人側によって、完全に骨抜きに
されたってイメージだね。
理奈−どして?
一平−だってさあ、本来ならドラフト1位か2位で指名されるような有力選手たちはみんな自由競争の対象に
なっちゃうんだよ。ということはさ、今の逆指名制度と大差ないわけだし、ドラフトにかかるのはそう
いった有力選手以外の選手ということになる。
理奈−じゃ今までの逆指名の枠がそのまま自由競争になったって考えればいいだけじゃないの?
一平−表面的にはな。逆指名との大きな違いはな、自由競争にすることによって、契約金上限を撤廃すると
いうことなんだ。
理奈−え、そうなの?
一平−そうだ。今まではな、契約金上限が1億円、出来高払いで5,000万円、計1億5,000万円まで
ということになっていた。けどな、これを守ってる球団は少なかったと思うよ。誰とは言わないけど、
某球団では1位指名の選手に5億払っていたという話もあるし、どのチームも似たようなことはやって
ると思う。それは公然の事実だったんだけど、なるべく問題視しないようにしてきてたんだな。
理奈−なんでよ?
一平−某球団のご機嫌を損なっちゃうからだな。表沙汰にして大騒ぎすれば、「最初っから自由競争にすれば
そんなことをしないですむのだ」という論法で攻めてくるのは目に見えている(ため息)。
理奈−……。関係ないけど、そういう裏金渡していたって言うのはなんでバレたりするの?
一平−そりゃバレるさ。確定申告だよ。これには正確に収入額を申告しなくちゃならない。誤魔化せば脱税だ
からな。その納税金額から算定すれば、いくらもらったかというのはわかるだろう。
でまあ、そういう裏でコソコソをしないでいいようにする制度が今回の自由競争制度ってわけだ。
理奈−そんならそれでもいいのかな。
一平−どうかな。私が懸念するのはね、多分、本人や家族はもとより、関係者にも実弾(カネ)が飛ぶって
ことだ。例えば野球部の監督だな。その選手が所属していた野球部の監督にカネを渡して、その選手に
特定球団へ入団するように言わせたりする。選手にとって監督というのは大きな存在だ。技術面以外に
もいろいろな相談相手になってることが多い。実際、監督のアドバイスで入団を決めたという選手も
多いからな。まあ、今でも多かれ少なかれ、似たようなことをやってる球団もあるだろうけど、これが
堂々とやられるようになるんじゃないかと思うんだ。監督だけじゃなく、担任の教師とか校長先生とか、
果ては親戚やら地元の名士やら、ね。
理奈−問題だらけだね…。
一平−ゆがんでるね。正直言って、こんな制度が成立したとして長続きするとは思えない。残念なことだが、
これはドラフト撤廃、完全自由競争の前触れだろうね。今の案ではドラフトは骨抜きだ。こういう
案でやるならば、むしろ逆にドラフト1位と2位指名を完全ウェーバーにして、3位以下を自由
競争にした方がいいくらいさ。だが、そういう正論は、今の球界には通らないだろうなあ。
理奈−ちなみに、高校生はどうなんの? 今までは高校生は逆指名ダメだったんでしょ?
一平−この新制度が成立すれば、高校生も自由競争の対象になる。でもなあ…。
理奈−……。
一平−これじゃあ、形骸だけになったドラフトなんかスッパリやめて完全自由競争でもいいくらいだよ。
もっとも、撤廃派は我々がそういうのを待ってるんだろうなあ。