ドラフト問題 〜独禁法との関係、そして結論?〜
− 民法90条に関してはわかりました。では独占禁止法違反の疑いというのはどうでしょうか? これなんか、
私はかなり意外な気がするんですが。
多村−商法学者の中には、ドラフト制度が買い手独占により市場における新人選手の交渉力を奪って
しまい、独禁法(「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」が正式名称。一般に「独占
禁止法」とか「独禁法」と呼ばれる)8条1項1号ないし同法3条後段に違反する可能性が高いとし
ている方もいらっしゃいますので、明快に否定できるとまでは言えないかもしれません。ドラフト制
度の目的の1つに、契約金の高騰を抑えることは明らかです。とすれば、競争制限的であること
は否定し得ないのではないでしょうか。もっとも、私も独禁法はさわりしか勉強してませんので、
細かい議論は存じません。悪しからず、ご了承ください。
独占禁止法8条1項
事業者団体は、次の各号の一に該当する行為をしてはならない。
一 一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。
(二〜五号・略)
同法3条
事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。
− ははー、なるほどー。そう考えれば独占禁止法と結びつかないこともないですね。確かに、ドラフト制度が新人
選手の交渉力を奪ってしまう、というのは言い得て妙です。しかしこれは選手契約と統一契約書、そして代理人
問題でも同じことが言えそうですね。代理人問題も、後日取り上げたいと思います。
では、最後に、多村さんご自身の、ドラフトに関する見解を教えてもらえますか?
多村−ドラフト制度の問題点は、新人選手の選手契約をドラフト制度のみによって行う点にあると
言えるでしょう。つまり、新人野球選手は交渉権を有する球団としか契約できないため、ドラフト
制度が憲法22条1項で保障された新人選手の職業選択の自由を侵害しないのか、ということが問題
なんだと思います。
確かに、新人野球選手は、交渉権を有する球団が希望する球団でなかった場合には、交渉権を持つ
球団への入団を拒否する自由しか有しないことになりますから、プロ野球選手になるという決定に
制約を受けていることは否定できません。
しかし、プロ野球界(日本野球機構を中心とした興行団体?)は、プロ野球を興行として行う団体
です。各球団間の勢力の均衡を図るというドラフトの目的は、興行を成功させ、選手、球団を
はじめとした球界全体の維持・存続と、発展のためには必要不可欠です。また、逆指名制度や
FA制度の導入により、不完全ながらも選手に対する球団選択の自由が認められ、ドラフト制度の弊害
は多少なりとも緩和されています。
このようなプロ野球界の性質を考慮すると、ドラフト制度が憲法22条1項に反するとまでは
言えないでしょう。
う〜ん。いまいち説得力に欠けますな(笑←笑ってる場合じゃない)。
− なるほど、よくわかりました。ドラフト以外の入団方法、例えばテスト制度が復活すればどうか、との考えも
ありますが、ドラフト指名に引っかかる選手たちに球団選択の余地が少ないことには変わりありませんね。
どうも根が深い問題で、拙速に結論を求めるというのに無理があったかも知れません。この問題は、進展が
あり次第、また多村さんに考察していただきたいと思います。
長時間ありがとうございました。