有象無象
タイトルは有象無象だが、これは、長い話ではなく細かい小さな逸話ばかり、という意味
にとって欲しい(^^;)。実際の経験談などというものは、いちいち由来だの伝説だのを
調べることなどないので、話せば一言で終わるようなものが普通である。むしろ、やけに
由来話がついてくる話は眉唾と見た方がいいかも知れない。
1.金縛りの恐怖
どういうわけか、私は若い頃からよく金縛りにかかる。科学的には、精神は覚めたの
に肉体的には休眠状態、という解釈のようだ。実際、ひどく疲れた時とか、旅行先の
宿などでよくかかるところから見ると、この解釈で正しいようだ。
この金縛り、経験者はわかってくれると思うが、かかると怖いものなのだ。何しろ、
目覚めているにも関わらず、体がまったく動かないのである。経験したことのない人は
想像してみて欲しい。
はっと目覚めると、体がぴくりとも動かない。息苦しい。得も言われぬ恐怖が忍び寄る。
そんな中の経験談である。
その1
これは都内の荒川・西日暮里に住む親戚の家に泊まっていた時の話。
夜中に突然、目が覚めた。息苦しい。体が動かない。例によって金縛りらしい。慣れては
いるが、怖いものは怖い。うんうん唸って、見えない力に抵抗していると、ふっと首が動く
ようになった。
やれやれ、もう少しで脱出だ、と思って首をもたげると目の前に人の手首が浮いていた。
手首だけ、である。付け根はフェードがかかっているかのように消えている。
よく見ると、やけにカラフルである。虹のような色彩になっている。手首だけは白かったが。
その光景を考えるとなかなか笑えるが、その時は当然怖かったですよ(^^;)。
翌朝、朝食のときに、その話をすると、叔母も従姉妹も平然と「あ、出たんだ」(^^;)。
簡単に言ってくれるなと思って彼女らの話を聞くと、どうやらこの家は「出る」らしいのだ。
なんでも、夜中に階段を上ってくる音がしたり、誰もいない部屋のドアが開閉する音が
聞こえる、というのは茶飯事らしい。なので、そういう現象にはすっかり麻痺している
そうだ(^^;)。
その2
今度は実家の話。前述したように、私はしょっちゅう金縛りにかかっていた。どうもそう
いう体質らしい。でまた、その時もかかってしまったわけだ。
私の場合、大抵は5分とか10分くらいで解放されるのだが、この時はやけに長かった。
いや、実際に時間を計ったわけではないので断言は出来ないが、少なくともそう感じた。
いつもより息苦しい感じが強いし、体も一向に解放されない。「長いな、長いな」と思って
体を動かそうとしていると、突然、となりから「長いでしょう?」の声。
「えっ?」と思ってそっちを向くと、白い女性が座ってこっちを見ていた。
…これはけっこう怖かったですよ(^^;)。でもね、後日、これとそっくりのエピソードを
あるコラムで読んだのね。「へー、彼女、あちこちに出てるんだなあ」って感心したりして。
そんなわけあるか(^^;)。
2.人魂
いわゆる火の玉である。霊魂のなれの果てだの言われているが、実際は燐が燃えた
現象らしい。私も一度だけ見たことがある。
もう10年くらい前になると思う。さるパソコン通信のOFF会が、地元・群馬の伊香保
温泉で行われた。地元の私が幹事をして宿をセットアップした。事件はそこで起こる。
宴会が終わって、二次会を部屋でやろうということになり、いちばん大きい部屋で
酒盛りをしていた。宴たけなわであったが、ひと風呂浴びたいという者が出たので、とり
あえず打ち切り、連中が湯からあがったら三次会ということにした。
私は風呂へは行かず、ベランダで涼んでいた(秋口だったと記憶する)。窓枠に腰掛
けて団扇で涼をとっていると、ふと目に入ったものがある。見下ろすと(部屋は3階)、
なにやらおぼろげに光るものがふらふらと飛んでいるではないか。
あれ?と目を凝らしてもまだ見える。どうやら錯覚ではないらしい。その物体は2つ
あり、街灯の下あたりで舞っているように見えた。それでも見えるということは、街灯の
光に負けない光力を持っていたということになる。
ホタルにしちゃ、やけに光るなと思っていたが、そのうち風呂に行っていた連中が戻
って来たので、ベランダから離れた。それっきりである。
後日聞いたのであるが、その時、私と一緒に部屋に残った人も窓の外を見ていた
らしい。聞いてみると、「一平さんが外をじっと見てるから、何かあるのかな」と思った
のだそうだ。火の玉らしき物体について聞いてみると、「いや、何も見えなかった」。
うーむ、ありゃ何だったんでしょうねぇ?
3.幽霊?
「あれが巷で言う幽霊なのかな」というものを見たこともある。2例ほど出そう。
これはもう15年以上前になる。柴犬を飼っていたので、毎朝晩は運動に連れ出して
いた。朝は7時前、夕方も6時ころと決めていたが、人間さまの都合でどうしても時間
がずれ込むことがある。これはそんなときの話である。
何でそうなったか覚えていないのだが、夕方の運動が午後9時くらいになってしま
ったことがあった。お犬さまは不満たらたら(^^;)だったが、それでも杭から鎖を解く
と、人間さまを引きずるようにすっ飛んでいく。
いつもの散歩コースである川の堤防の上を走っていると、ずっと先に何か白いもの
が見える。堤防だから、当然、街灯なんてものもなく真っ暗である。そこに白いものが
あったので目についたのだろう。
だが、あまり気にもしないで、そのまま走った。当たり前だが、その白いものに
向かって走っていくのである。繰り返すが、当時はあまり気にもならなかった。
で、いい加減近づくと、ぼんやりとしていたものが徐々に輪郭を持って現れた。
どうも人のようである。「?」と思いながらも走り近づく。犬が止まったので私も
止まった。改めてよく見ると、20メートルくらい先に、子ども(男の子に見えた)が
しゃがんでいるではないか。不思議には思ったが、別に怖くはなかった。
犬も引き返そうとしているので、そのまま帰宅した。そこで改めて考えてみたのだ
が、なぜ真っ暗なのにその子どもの輪郭がはっきり見えたのだろうか?
で、もう1例。
こっちは12年くらい前の話。私は高崎に住んでいるが、仕事で毎日のように館林
というところに通っていたことがある。クルマを飛ばしてもおおむね2時間近くかか
ってしまう。ここへ、朝6時には家を出て、帰ってくるのは午前さまという生活が半年
くらい続いた。これはそんな時に経験した出来事だ。
その日、珍しく午後10時くらいに仕事が終わり、家に向けてクルマを走らせていた。
いやもう疲れたし、早く帰りたいので、少々速度違反を犯していたかも知れない(^^;)。
その時である。
車線の真ん中に男の子がいる!
こ、これはまずい!と思って急ブレーキ、同時にハンドルを大きく左に切った。
が、間に合わなかったらしく、縁石に左前輪が当たってしまった。そのまま体勢を
建て直し、折良く見えていたガソリンスタンドにクルマを突入(^^;)させたのである。
スタンドの兄ちゃんもびっくりしたようで、「だいじょうぶスか、お客さん?」と駆け寄
ってきた。「パンクしてるっすよ」。
あれだけ派手にぶつかったのだから当然パンクくらいしているだろう(^^;)。
見るとホイールも傷だらけである。あとでわかったが、ハンドルの軸まで曲がってし
まったようだ。
仕方がないので、スタンドでタイヤを買って(実はパンクなどというものではなく、
タイヤが破けてしまっていた)履き替えた。
念のため、道路を確認したが、見えたはずの男の子なんてどこにもいやしない。
*****
こんなところである。これだけ見てれば信じたくなるような気もするが、まったく
信じていない(^^;)。どうせ錯覚の類だろうとしか思ってないのだ。確かに、それが
錯覚だという証拠も、霊現象ではないという証拠もない。が、逆に言えば、それが
心霊現象だという証拠も何一つないのである。なんだかわからないものを見た、
というのは事実だが、なんだかわからない、説明不可能なものは霊に決まっている
というのは乱暴な話だと思う。
では、次回は私が経験したもっとも怖い話を書こうと思う。