阪神・星野監督のお願い

　　　　　たびたび掲示板でも話題にしているが、阪神選手大量選出の問題である。
　　　　６月７日現在のオールスターファン投票のセントラルリーグ最多得票選手は以下の通り。

　　　　　先発投手　井川　慶
　　　　　中継投手　伊藤　敦規
　　　　　抑え投手　Ｍ・バルデス
　　　　　捕手　　　　矢野　輝弘
　　　　　一塁手　　（清原　和博）
　　　　　二塁手　　今岡　均
　　　　　三塁手　　片岡　篤史
　　　　　遊撃手　　藤本　敦士
　　　　　外野手　　桧山　進次郎
　　　　　外野手　　（松井　秀樹）
　　　　　外野手　　（高橋　由伸）

　　　　　言うまでもないが、今季のタイガースの好調ぶりからすれば、球宴に多くの選手が選ばれる
　　　　のは当然だ。しかし、だからと言って、彼らよりずっと優秀な成績を収めている選手が落選す
　　　　るというのは、どうしても納得できない。

　　　　　中でも問題なのは、ショート部門で１位の藤本選手である。表題の「星野監督のお願い」と
　　　　は、各スポーツ紙でも記事になっていたが、星野監督によるタイガース・ファンへのメッセージ
　　　　である。記事によると、「もう藤本には入れないで欲しい。監督として恥ずかしい。それで
　　　　なくても阪神ファンはバカにされているのだから、これ以上バカにされるようなことは
　　　　やめて欲しい」と言っていたそうだ。ファンが自分のチームの選手に投票したことを否定
　　　　しているのである。星野監督にとっては血を吐くような言葉だろう。この苦悩の発言を、藤本
　　　　へ投票し続けるタイガース・ファンはどう受け止めているのだろうか。

　　　　　さらに、具体的に選手名を出して、その選手には投票するな、と言っているわけで、これは
　　　　かなり異例である。短絡的なファンは、藤本イジメのように受け取っているのだそうだが（唖然）、
　　　　星野監督にしたら、藤本のためを思っているのは明白だ。なぜ打率．１７１の藤本が、．３３０
　　　　を打っている井端（中日）より得票数が多いのか。守備にしろ、走塁にしろ、どう見たって井端
　　　　が上だ。だからこそ星野監督は「藤本ではなく井端に入れてくれ」と発言したのだろう。
　　　　　しかも藤本は、今では関本や斎藤にレギュラーを奪われている状態なのだ。なのに阪神ファ
　　　　ンは藤本に入れ続ける。

　　　　　過去にも組織票問題はあった。昭和３０年のことだが、この年のセントラルは、一塁手の
　　　　巨人・川上と三塁手の巨人・広岡達郎以外の７名が阪神選手だった。さらに昭和３８年の
　　　　パシフィックでは近鉄勢が６名も選ばれている。特にチームが好調だったわけではない。
　　　　この年は４位に終わっているのだ。
　　　　　そして昭和５３年には、最悪の事態が起こる。パシフィックのファン投票選手のうち、なんと
　　　　８名が日本ハム選手で占められたのである。これはさすがに大問題になって、最終的には
　　　　ファイターズが自粛という形をとり、「オールスターに出られる成績ではない」として遊撃手の
　　　　菅野光男と三塁手の古屋英夫の両選手を出場辞退させている。

　　　　　変わったところでは、昭和４７年のセントラルで、三塁手部門のトップに、六大学の人気者・
　　　　荒川尭（サンケイ）が選ばれそうになったことがある。もちろん、当時の三塁手といえば巨人
　　　　長嶋茂雄だ。成績的にも当然、長嶋の方が上だし、なにしろセントラルの顔が選ばれないと
　　　　いうのは異常事態だ。この時はなんと、各スポーツ新聞が連帯して「長嶋を落とすな」キャン
　　　　ペーンを張って、事態に対処した。結果的には、これが実ったのか、はたまたファンが良識を
　　　　取り戻したのか、無事に（？）長嶋がトップになっている。

　　　　　さて、今回の阪神選手だが、いささか困ったことに、これは全国的な組織票ではないのだ
　　　　ろう。これが阪神電鉄なり、大手阪神応援団なりが中心になって音頭をとった結果だ、という
　　　　のであれば、実はまだマシなのだ（悪質だけどね）。
　　　　　組織票以外でこういう結果になる、ということは、かなり数多くの阪神ファンというのは、
　　　　「自分の見たい選手だけ選ばれれば良い」という、甚だジコチューな人間ばかりだ、という
　　　　証拠になってしまうのだ。そうでないとすれば、「野球を見る目がまるでない」ということに
　　　　なる。これも困った話だ。だからこそ前述したように、「これ以上バカにされるようなことは
　　　　やめてくれ」という星野談話につながるわけである。

　　　　　そして何より問題なのは、その人たちが藤本に投票したことが無駄になる可能性が高い
　　　　のだ。断言してもいいが、もし仮に藤本が本当にファン投票１位になってしまったら、藤本
　　　　本人も、星野監督も、昭和５３年の日本ハムと同じ対応をとるだろう。マスコミを通して知
　　　　る藤本選手本人は、至極真っ当で真面目な選手のようである。ファンのことを考えつつも
　　　　辞退表明するのはやむを得ないだろう。そんなつらい思いを藤本選手にさせても良いの
　　　　ですか、タイガースファンのみなさん。

　　　　　誤解のないように言っておくが、無論、阪神ファンにも良識のある方はいらっしゃるだろう。
　　　　きっとその方々は「あんなやつらと一緒にしないでくれ」と、くやしい思いをしているに違いない。
　　　　そういう純粋な阪神ファンの方へお願いしたい。是非、表だって今回の問題を取り上げて
　　　　欲しい。是非、オールスター投票を行なって欲しい。こういう事態が続く限り、阪神が勝って
　　　　喜ぶのは狂信的な阪神ファンだけになってしまう。あたら伝統のあるチームがそうなるのは
　　　　我慢がならない。良きにつけ悪しきにつけ、非常に刺激のある監督が就任して、タイガース
　　　　というチームは大きく変わりつつある。ファンだけが旧態依然でいいのか？　ファンも生まれ
　　　　変わろう。