Spotlight

月姫 type-moon

瀕死の重傷からようやく回復した8歳の「僕」の目は、どんなものにも「死」を視ることができるようになっていた。
それから8年。旧い家柄「遠野家」の長男である「僕」は、病弱の自分に代わり遠野家の当主となった妹・秋葉に呼び戻され、屋敷に暮らすことになった。
同じ頃、街では吸血鬼の仕業と噂される奇妙な連続殺人事件が起こっていた――。

 同人ソフトだから、という理由で、このゲームの評価はあえて順位づけしないことにしました。つーか、自分でも評価が揺れてるのよ未だに。ここはシナリオだけを切り離して評価する場所、つー位置づけだからいいんだけど、総合点じゃあひどいもんだったし、今後の同人ソフトが全部こんなんになっちゃったらそれはそれで困ったもんだろうから。まあ俺はあんまり買いたいとは思わないけど。

 上のキャッチを見てもらえば、とりあえずの出だしはこんな感じだって判ってもらえるでしょ。常々言ってることだけど、小説としては結構使い古されたテーマかも知れないし、例えばそれがどんなに素晴らしい出来だったとしても、無名の新人がそういうテーマで書いた小説は、まずどこの出版社にも買ってもらえない。それはもちろん、小説ってジャンルがもう数世紀の歴史を重ねていて、こと活字印刷による出版って部分に限っても100年あまりの積み重ねがあって、その中で目新しい、あるいは目を引くものを提供しないと、もう商業ベースでは成功できない、儲けられない、という理由があるから。「この作品を世に発表する」とかなんとか、そういう高邁な思想は、多分、過去のものになってしまったんだと思う。書く側は副業を持てばいいんだけど、出版する側はそれが本業だから、儲けられないことには手を出さない。資本主義の必然だね。名の通った作家がステロタイプに乗っかった小説を書く分には、それは確実に商売になるから、売り出せる訳だ。
 つー訳で、この作品は、小説の形であれば、どうしても同人でなければならなかった。
 んでも、エロゲーなら、メジャーでもいけた。はず。ま、CGとかシステムとか、その辺が全てプロの手によればね。
 ほら、褒めてるでしょ? 俺は基本的に、この作品があの値段なら、それは「買い」だったと今でも思ってるんですよ。文句をいくら言っても、それは他に気になる部分が多かったから、に他なりません。

 さて。評価に入る前に、お断りを。
 このシナリオについて語るにあたって、考えたんだけど、やっぱりどうしても、ネタバレになっちゃいます。
 なんで、未プレイの方は、できればプレイ後に、この下を読み進んでくださいませ。いや、こんなゲームやるつもりねーよ、てんならいいんですけどね。やっても損はしないから。システムでムカつくことはあるんだけど。



 順位を考えるにあたって、いちばん気になったのは、ウチのランキング内の作品に共通した「匂い」が感じられないことでした。
 巧みでも、拙くても、そのシナリオが人の心に直接作用しようとしていること。これが、ウチのランキングの上位作品に共通している部分じゃないか。改めて、そう感じたんですよさっき。
 でもこの作品は、事実関係の巧みさ、展開の面白さ、だけでシナリオをこしらえてる。
 言ってみればこれは、書く人の志向の差でしかありません。上手い下手ではなく、好み。展開重視と内面重視。要求される文章力も構成力も、それほど差はないはず。
 ただ、内面を描写しようとした部分も、特に裏シナリオ(遠野家ルート)では結構目立つんで、どうやらこのシナリオライターさんは内面描写を切り捨ててる訳じゃなくて、たまたま展開構成力が秀でていて、そっちの才能に頼ってたら内面の方がちょっとお留守になっちゃっただけ、という感じですか。
 遠野家ルートの方だと、いわゆるエロゲーのお約束的展開(妹ネタ、昔一緒に遊んだ女の子ネタ、毎晩のように繰り返される悪夢ネタ、等々)が多くて、正直、安心できました。いや、類型的表現を好んでる訳でもないんだけど、感情移入に必要な表現てのは限られてるから、訳の判らない金髪ねーちゃんとかうざったい天然眼鏡ッ子よりはひねくれた妹とか一見無表情のメイドさんの方が身近に感じられるんですね。
 後は、西洋吸血鬼ネタってものに対する親近感をどの程度持てるのか、つーことか。真祖、とかって表現は、どうやら菊地秀行の影響下にあるみたいだけど、俺は個人的にはあの作家は西洋かぶれっぽくってあんまし好きではないんで(昔はさんざん読んだんだけどねえDとかエイリアンなんとかシリーズとか)、表ルートはやっぱり好きにはなれなかった。この辺は純粋に好みの問題なんだろうけどね。でもねえ、ストーリイを組み立ててる要素を考えても、やっぱり欠陥が目について、あんまり完成度は高くないような気がするんだわ。アルクェイドとかシエルをストーリイの中心に据えることで、どうしても吸血鬼あるいは教会をネタの真ん中に持ってこざるを得なくなって、だけどそこに主人公遠野志貴を絡めなくちゃいけないから、志貴の能力とかアルクェイドに対する殺人衝動とかを無理やりでっち上げて、さらにストーリイの中核にも志貴を持ってくるために、遠野家の呪われた血筋がどうとかこうとか言ってる訳です。ここでよくよく考えるとさ、「吸血鬼」ってネタと、「遠野家(異能の旧い血)」ってネタ、2つが真っ向からぶつかっちゃってる。小説ならここは文句なく、どっちかを削って、シンプルかつ判りやすい設定にしたうえで、もう少しそれぞれのキャラの人となりを掘り下げて、単純なストーリイ(展開)に複雑な人間模様(キャラ同士の絡み)って構図を作るね、俺なら。
 その点、裏(遠野家)ルートの方はさ、吸血鬼ってのが切り捨てられて、遠野家の旧い血の話になってるから、シンプルかつ判りやすい、俺的には面白い話が作れる、とまあこういう訳です。
 ここまで書けば判ると思うけど、俺のベストエンディングは、秋葉のトゥルーエンディングです。翡翠のトゥルーも捨て難いんだけど。個人的に好きなエンディング形態、ってのがそれぞれあると思うんだけど、特に俺はバッド・ハッピイエンドってのが好きでさ。みーんなシアワセってのは苦手なんです。ハッピイエンドの呪縛は受けてるんだけど、でも死んじゃうヤツはきっちり死んじゃえ、ってのが信条なのよ。
 どのストーリイがどうよかった、ってのは、まあやりゃあ判るってことで、割愛します。いや、語ろうかと思ってたんだけど、前述のとおり、内面より展開で押してるストーリイだから、話の展開だけで全ての評価ができちゃうんで、わざわざ俺がそこに評価を付け加えるこたあねえかなあ、ってことで。ここは多分、このライターさんがメジャーになっていこうとしたら、乗り越えなきゃいけない壁なんでしょう。面白いけど後引かないシナリオなんだよねこれって。キャラもよく書けてはいるけどそんだけだし。「衝撃的」とか「情けないけどエロゲーで人生観変わった」とか、そういうものとは残念ながら無縁のシナリオだよね。
 もうひとつ。同人だから許されるのかな? 「先生」の存在と、訳の判らない「月蝕」ってストーリイ。いかにも同人、って感じのおまけですよね。はっきり言って、あんなん要りません。つーかむしろ邪魔です。「先生」は何か代替物が必要だけど、「月蝕」は本当にムダ。蛇足ここに極まれり、ですね。何のためのエンディングなのか。全てのエンディングの余韻がかき消されちゃう。あれは本当に腹立ちました。
 つー訳で、まあここの次回作がどうとか、そういうのは気になりません。わざわざ追っかけようとも思いませんし。願わくば、シナリオライターさんだけ、どっかのメーカーと契約するか入社するかして、商業ベースに乗っかる作品を出してください。その方がこのライターさんのレベルを底上げできます。ソノラマ的、とは思いますが、それでもそれだけのレベルは間違いなく持ってるように見えます。今後のエロゲー界には貴重な人材。頑張って欲しいもんです。
 おあとがよろしいようで。(2001.5.13)