第13位

カナリア 〜この想いを歌に乗せて〜
Front Wing

角川書店が全面的にバックアップする、メディアミックスエロゲー。
その割にはあんまり売れてないみたい。一般にアピールするより、
もうちょいコアな層を大切にしてもイイんじゃない?
損はさせないよ。いいもの作ってくれるんなら。

 まさかここにランクインするとは想像もせずに購入したエロゲー。どこに突っ込むかさんざん迷った挙句、「ONE」よりは文章力も構成力も落ちるだろうけど、でもこのキャラ設定とコメディのセンスで「いちょうの舞う頃」は超えるか、との判断で、このランクに落ち着きました。
 「魂のゲームレビュー」の方でも予告しましたが、ここから先、特に佐伯綾菜のシナリオに関しては、ほぼ全てネタバレです。判っていても面白い、とまでは申しません。衝撃も面白みのうちなので。ですんで、まだプレイしていない人でこれからこのゲームをやってみようかと思っている方は、できたらこれ以降、お読みになる前にプレイしてみてください。で、プレイ後、戻ってきてください。両手を大きく広げてお待ちしています。

 最近のエロゲー、殊にヌルいタイプの(イタいタイプと言ってもいいか)それをプレイして気にかかるのは、キャラを際立たせる手段として、「身体障害」を用いてる点。多分スタートは、旧Tactics(現在のKeyの人々が在籍していた頃ね)の一連の作品、「Moon.」と「ONE」だったんじゃないかな。いや、その前にもそういう設定のゲームはあったんだろうけど、俺がやってないんでさ。メジャーになったゲームでは、多分、「ONE」が最初だと思うんだけど、どうですか皆さん?
 もちろん、「何でもあり」のエロゲ業界だし、それが反則だと責めるつもりは毛頭ない。「ONE」のみさきシナリオは俺も好きだし、家庭環境の設定つーヤツがある程度のパターンを持っている以上(だって親は普通父親と母親しか存在しないし、その祖父母まじえたって組み合わせには限りがあるもの)あとはターゲットキャラ本人の身体的精神的特徴を個性づけの道具として使わないと、シナリオライターのネタが枯渇してしまう訳よね。それにもちろん、視覚障害を持っている、という理由でキャラにしないのも、却って反則だと思うし。こういうのって差別とか何とかうるさそうだけど、俺が今までやったゲームだけで考えれば、むしろ他の環境的要因の方がひどい使われ方をしてることが多いんで、とりあえずはOKなんだと思ってた。
 で、この佐伯綾菜シナリオで、この思いは確信に変わった。病気、あるいは障害という要因を、シナリオを成立させるためのこの上なく重要なファクターとして配置、全く隙のない方法で活用、エンディングまでを一気に走り抜ける。このシナリオは、そういう方法論において、間違いなく、大成功していると思う。
 綾菜シナリオの肝は2つ。「ハッピイ・エンドが必ずしもシアワセいっぱいにはなっていない」点、そして「障害の内容をストーリイや台詞回しに生かしている」点。そのどちらもが、俺の中では非常に高評価になった理由です。
 ひとつめ、「必ずしもシアワセではないハッピイ・エンド」。何の罪もない部長が死に、最終的にその死を乗り越えた形でライヴは行われるんだけど、みんながみんなそれに納得している訳ではない、という雰囲気が、行間から滲んでた。だから、ライヴは成功したけど、多分それは、本人達にとっての成功ではあっても、全体的には大成功とは呼べないシロモノだったのかも。何しろ一夜漬けだし。でもシナリオ上、綾菜の耳に歓声を残しておかなくてはならないから、本人は満足しているって表現をしている。いや、例えばそのライヴが大成功だったとしてもさ、綾菜の耳は多分近い将来聞こえなくなって、主人公はそれを全て背負って生きていかなければならない。別れないんなら。一度受け入れたものを、それを理由に改めて拒むのは、それは最低の所業だから、ああやって受け入れてしまった以上、主人公は別れられない。でも綾菜は聴覚を失って、もう呼びかけにも応じてくれない。これはせつないよお。ラスト、主人公が普通に話す「愛してる」を綾菜は聴き取ることができず、主人公はまるで叫ぶように「愛してる」と繰り返す、つー表現があったんだけど、これは今までやってきたエロゲー全てを見渡しても、3本の指に入るほど秀逸なエンディングだと思う。だって、ねえ、考えてもみてよ、この後綾菜は聞こえなくなるんだ、もう主人公がいくら叫んだところで、その言葉は直接彼女の心に届かないんだよ? そういう気分にほんの一瞬だけでも浸らせられたので、俺はもう負けたと思いました。
 ふたつめ、「障害の内容を生かしている」点。ま、これは「ONE」のみさきシナリオでもあったかも知れない。でもあれは、視覚障害があってもフツーの恋愛をするんだよ、というところに重きを置いていたように記憶してる。こっちは逆。せっかくフツーの恋愛をしてるのに、これから間違いなく「障害」に置き換わってしまうとんでもない「病気」ゆえ、それが壊れてしまいそうになる、という表現。特発性両側性感音難聴、という病名が、これほどまでに衝撃的に捉えられるとは。それは多分このシナリオがバンド活動をテーマにしてるから、なんてカンタンな理由もあるんだろうけどさ。
 その他にも、この綾菜シナリオは俺的に気に入った部分が結構ある。8月31日の踏切のシーン。カットバックと効果音、音楽、んでシナリオ、とかなり映画的な手法で、だからシナリオだけのパワーであんな迫力を持たせられた訳でもないんだけど、高評価は当然だと思う。
 ま、後半の盛り上がりのためにそう感じるのかも知れないけど、美香シナリオに比べて、合宿前の(7月31日までね)イベントがなさ過ぎてつまらん、つー面もある。これは今後の課題だなあ。全体のバランスってのもあるんだろうけど、まずは飽きずに楽しめるオアシスをいかにタイミングよく配置するか、だよね。
 綾菜シナリオのことばっかりで何なんだけど、美香シナリオもたいしたもんですよ。このコメディのセンス。やりとりのスムーズさ。結局このライターさんって、ドラマとかそういうシナリオの経験者なんじゃない? 勉強不足で知らんのだけど、ギャグとかドタバタ系の会話がホントに面白かった。綾菜シナリオの凄みがなくても、ある程度の評価はできるくらい。
 青い、青過ぎる(恋愛表現が)つー非難が一部サイトで見受けられましたが、俺的には、こんなもんだと思うんですよねー。四国の田舎の高校2年生、って設定から見ても、別に必要以上に幼いとは思わなかったし。俺がこんな年齢のときなんて、もっと青かったような記憶が。この青さを楽しむのも、学園ものエロゲーの愉しみだし。
 えー、絵理シナリオが「みゆき」じゃないか、つー声は、そのとおりですけど、主人公だけ知らないって部分が違うかな。本家「みゆき」は両方が知ってて知らないふりしてる、という不健康極まりない設定だったもんね。
 千秋シナリオは、エロだけよい。あとはどうでもいいや。薄味やし。

 で、申し訳ないんですが、まだまゆみシナリオやってないのよー。も少し待って。眠くてさ。(2000.9.19)