ベトナム戦争の帰還兵アレン・ネルソンさんは、PTSD(心的外傷後ストレス症候群)という後遺症に苦しめられました。ニューヨークに戻ったネルソンさんは、爆竹の音・ベトナム料理店のにおい・ハエなどにより、突然自分がベトナムのジャングルにいるという幻覚に襲われます。また、夜がネルソンさんを苦しめました。強力な武器を持たないベトナムの兵士は、夜ゲリラ的に襲ってくるのです。ネルソンさんは、夜になると神経が敏感になり、ちょっとのことでフラッシュバックが起こるのです。
そんなネルソンさんに、立ち直るきっかけを与えてくれたのは、小学生の少女の言葉「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」です。また、その後出会ったセラピストのニール・ダニエルズさんです。
苦しみの原因を私以外のものにあるという思想を仏教では外道といいます。それに対して責任逃れせず、自分の業として引き受けていく生き方を教えてくれるのが内観の道、仏道だと思います。そこにしか救いはないのだと教えられます。ネルソンさんにおける小学生の少女の言葉、またダニエルズさんのカウンセリングは、ネルソンさんに責任を転嫁してはいけない、それでは立ち直れないということを教えてくれたのでした。
教行信証の信巻に、親鸞聖人が涅槃経をお引きになられたところがあります。父の王を殺し自ら王になったアジャセ王がギバ大臣に勧められて釈尊にお会いするということがあります。そのギバ大臣の言葉とネルソンさんに対する少女の言葉が重なるように感じます。
ネルソンさんのもう一冊の本『戦場で心が壊れて』には、セラピストダニエルズさんとのカウンセリングの様子が詳しく載っています。合わせてお薦めします。小学生にも読めます。また、本山の「同朋新聞」3月・4月号にも詳しく載っています。
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』 アレン・ネルソン 講談社
『戦場で心が壊れて』 アレン・ネルソン 新日本出版社
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