短編小説「超人ゼンラマン」



 誰も知るまい!
 このサマーコートの下が全裸であることなど!!
 誰も知るまい!!!
<ゼンラマンことサカモトリュージは、今日も京浜急行線・下り普通電車の釣り皮を掴んでいた>
 世の中平和に見えるが、実は違うのだ。
 邪悪な怪人の魔の手から、明日を担うサラリーマンを救うのだ。
 むむ、悪の電波の反応が。
<ゼンラマンの下腹部には、邪悪な電波をキャッチする強力な生体アンテナが仕込まれているのだ>
 2両目のシルバーシート。そこだ!
<そこには3人の怪人が、セーラー服に身を包んで座っていた>
 悪の組織の印であるケータイを、こともあろうに車内で堂々と使うなど。なおかつそこはお年寄りの指定席。
 小泉首相が許しても、このゼンラマンが許しません!
 変身だ! ダッピ・エフェクト・エクスプロージョン!
<ゼンラマンは、わずか3秒でサマーコートを脱ぎ捨てることができるのだ>
 周りの人間がサッと引く。ゼンラマンの登場に、驚きを隠しきれないのだ。
 みんな、もう安心だぞ。
 行くぞ怪人。社会常識アタックだ。
 「そこな女子高生。お年寄りに席を譲りたまえ!」
<ゼンラマンの激しい攻撃。しかし、怪人はひるんだ様子もない。逆に凶悪な攻撃を返してきた!>
 「エ〜」
 「マジ〜?」
 「ダサ〜」
 ぐおっ!! お、恐ろしい攻撃だ(特に3人目)。ええい、こうなったら、素早いタッチワークで対抗だ。
 そこの目ぇ丸くした婆さん。交代せよ。
<ゼンラマンは、疲れたら無関係な人間を盾にすることによって、いつでも体力の快復を計ることができるのだ>
 ふっふっふ。この婆さんを見よ。苦しそうだろう。
 きさまらのケータイが、心臓のペースメーカーを狂わせているのだぞ!
 「チョ〜」
 「テユ〜カ〜」
 「ミタイナ〜」
<怪人たちはまったく臆せず、さらに凶悪なメール攻撃に出るのであった>
 ぬおお、いたいけな婆さんをこんな目に合わせて、それでも平気なのかこのツェッペリンを知らない世代は。
 おのれ、何としても金沢文庫か八景までに倒してやるからな。
 覚悟しろ。最後の手段だぞ。
 そこの朝帰りの酔っ払いよ、カムヒアー。
 お前だよ。早くしろ。
 行くぞ必殺、リバースゲロブレッシング!!
<ゼンラマンは、おっさんの喉に2本の指を突っ込んだ>
 見たか、このあしたのジョー2的な光り輝く酸っぱい攻撃を!
 「マジムカ〜」
<怪人たちは、揃って能見台の駅を降りていった。今日も平和は守られたのだ>
 京浜急行にゼンラマンのいる限り、悪の栄えることはない。さあ、お婆さん。安心してお座りなさい。
 なに、嫌だと? いいから座れよ。
 おお車掌さん。今日もご苦労であります。
 なーに、大したことじゃありません。正義の味方として、最低の義務を果たしただけなのですよ。はっはっは。
 おや、一緒に来い?
 いてて。そんなに引っ張らなくても。
<ゼンラマンは、車掌たちに脇を守らせながら、悠然と電車を降りて行った。ありがとう、ゼンラマン。さようなら、ゼンラマン>
 だから、女子高生がね…。
 ちょっと、話を聞いてくださいよ…。

            < 完 >

 「おまけ・ゼンラマンの歌」
 黒い乳毛をたなびかせ
 夕日をバックに駆けて行く あの人は
 正義の味方 僕らのアニキ
 ムキムキボディで戦うぞ ゼンラマン
 パンパンスパパーン
 タオル片手にパチパチパンチ
 シュラシュラシュシュー
 乾布摩擦で元気モリモリ
 愛を守るために 今日も行く
 ひと肌脱いで こんなんどうじゃ
 超人 超人 ゼンラマン



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