短編小説「夢」



 とても不思議な夢を見た。
 あの素晴らしい女性。生めかしく光る肌。美しく濡れた瞳。
 朝露の中に、彼女の姿態が浮かび上がる。ああ。
 私の心を虜にしてしまった。
 ああ、だが何と不思議な夢であることか。
 彼女の瞳も、その肌も…俺の体に重なっている。
 俺が彼女なのか。彼女が俺なのか。
 彼女になった夢を見たのか。
 もう一度会いたい…。


 とても不思議な夢を見たわ。
 あの素敵な男性。肉感的に光る肌。情熱に濡れた瞳。
 朝露の中に、彼の姿態が浮かび上がる。ああ。
 私の心を虜にしてしまったの。
 ああ、でも何と不思議な夢なのかしら。
 彼の瞳も、その肌も…私の体に重なっている。
 私が彼なの? 彼が私なの?
 彼になった夢を見たの?
 もう一度会いたい…。


 「かわいそーたい」
 ヨッチが言う。
 「オイのを分けるとよ。ほら」
 テツヤは一番小さな奴をもらった。お兄ちゃんの威厳を込めて、ヨッチはテツヤに笑いかけた。
 「これでもう、寂しくなかたい」
 テツヤもにっこり笑った。
 「でも、おまんの奴、いっつも寝とるとねえ」
 小さな虫カゴの中のカタツムリ。今はカラの中に体を隠している。
 「…きっと、夢ば見とる」  いとおしそうに、テツヤはその宝物を見つめている。
 これでもう、寂しくなかとね。



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