「思い通りになって当然、ならないとすぐ怒るんだから」 …という事で、拙作『ベルゼブル』の中のセリフの引用から始まった今回のレビューなんですが。 世の中、こういう人は大変多いものです。 エロゲーには姉が必要だとか。 血のつながらない妹が欲しいとか。 ある日突然、義母が欲しいとか。 俺の女房も未亡人にならねぇかとか。 …その手があったか! こんばんは。 今でもたまに別れた女房と飲みに行く豪腕はりーです。 今回ご紹介するのは、不思議商法で物議を醸した「CIRCUS」さんの1レーベル「FETISH」より、2004年に発売された『終の館』〜恋文〜です。 まず最初にお伝えしたいのは、この作品は厳密に言うとゲームではありません。 エロい切ないフェティッシュノベルだそうです。 冒頭からエンディングに至るまで、ただの一つも選択肢がありません。 漢らしく一本道です。 「とりあえず、教室に顔を出す」 「まずは先に職員室に行く」 「ハワイのために」 …そんなもん一つも出てきません。 要するに。 ゲーム性はまったくのゼロ。そして難易度もまったくのゼロ。 実に清々しい、本来のノベルの姿と言えましょう。 誰とエンカウントするか悩んだり、受け応えで決断迫られたり、そういったゲーム的な楽しみとはまた違った楽しみが、この作品にはあるわけです。 プロの作ったプロのノベルです。 一切の選択肢に悩まされる事なく、どっぷりと物語世界に浸れるメリットがあるのです。 はい、ここを勘違いしてはいけませんよ。 この作品に対する評価をざっと見渡すと、時おり「ゲーム性がない」というその一点において辛い評価を下されている場合があります。 私の体の中心部で熱〜いティーが沸かせそうですよ。 ん熱ぅ〜! …いや、何の予備知識もなく買ったのなら仕方ないですよ。 でもね。ノベルだと知っていたなら。 自分でバイクを買っといて「屋根がない」と怒っても滑稽なだけです。 ウソみたいな話ですけど、本当にこういう人がいるらしいんですよ。 いやあの、これノベルですから。物語ですから。一本道ですから。 辞書を引くとよろしいかと思います。 え〜、さて中身の方なんですけども。 背景が露西亜戦争末期という事で、実に時代を感じさせる文章です。 かと言って別段読みづらいというレベルではなく、この手のゲームをプレイできる年齢の方なら普通に読み進められると思います。 さすがに夏目漱石とかその辺は習ってると思いますんで、これで駄目というなら生まれた国を間違ったとしか言い様がありません。 ちなみに「正露丸」ってあるじゃないですか。腹痛に効く薬の。 あれがちゃんと「征露丸」になってます。 元々はロシアを征服する薬なんです(本当)。 いつの間にやらロシアが正しいマルになっちゃったんですが、こういう細かい所が泣かせます。 んで、主人公は森という名の少尉さん。プレイヤーですね。 親御さんの残した大きな屋敷の主です。 大きな屋敷です。 さあ、来ました。 皆さん準備はいいですか? なにィィィッッ!? 空に鳥がいるように。 海に魚がいるように。 屋敷にはメイドさんがいるものです。 しかも。しかもですよ。 この作品に登場するメイドさん、「藤」という名のメイドさんなんですが。 1・主人公に対し尊敬の念を持っている。 (タメ口など以ての外である) 2・仕事に対し誇りを持っている。 (メイドのコスプレをした娼婦ではない) 3・だけどえっち。 それじゃあぁぁっ!!!! …大仁田厚も絶叫の、ストレートなメイドさんです。 メイド原理主義者の方なら買い。 そう断言して構わないでしょう。 この藤さんが実によろしい。 「〜ですよう」的な独特の言い回しが、鼻に付かないレベルでよく個性を表現しています。 「うにゅ」だ「にゃあ」だ言う馬鹿は見習って欲しい。 ほんの時々、「やンだぁ」みたいにナマリが出ますけど、その辺がまた田舎出身の素朴な感じが出ています。 そしてストーリーなんですが、オフィシャルから引用してみましょう。 恋人同士の手紙を代筆する男とそのメイド。 互いに想い人への恋文を書き綴り懐に認めてはいるが、 身分の違いを気に病む二人。 未だ、その手紙は渡されるべき相手には届けられず… …という事で、時代の生み出した悲劇が背景にあります。 あんまり書くとネタバレになっちゃうのでアレですが、盛り上がるにつれ二人の哀切な想いがひしひしと伝わってきます。 実質ヤレるのはこいつだけなんですけど。 思いのたけに引きずられ、まるで何かに取り憑かれたかのように全編に渡って体を重ねます。 そっち方面を期待している方には、パッケージの文章を引用しましょう。 HCG率75%。 着衣H率ほぼ100%。 これが正しくなければニュートン力学が崩壊します。 そしてさらに。 特筆すべきはその値段です。 定価1000円。 …シングルCDです。 ボリューム的には丸々4時間以上、独特のこの世界に連れて行かれます。 まるで中国産のシイタケみたいです。 もちろん別に農薬くさいとかそういう事はなく、このクオリティの作品をこの値段で出した事には敬意を表します。 当然ボイスも回想機能もちゃんと付いてます。 長さ的には一緒のくせに■外道狩り■とはえらい違いです。 地味〜にオチてませんけどね。 いや、個人的には、あの終わり方はプレイヤーの想像の余地を残しているので好きなんですが。 シリーズ第1作という事で、これでいいと思います。 一応は完結してますからね。 そう、この『終の舘』は連作ノベルです。 この〜恋文〜以降、順に〜双ツ星〜、〜罪と罰〜、〜檻姫〜、〜人形〜と続いて完結します。 全部1000円。 …まるでヤマギシの物干し竿です。 要するに5000円で20時間以上のボリュームなので、凡百のそこらのゲームよりはじっくり楽しめるかと。 ゲーム性云々申される方にはお勧めできかねますが、たまにはこういう実直な物語も良いでしょう。 ただ、まあ。 チョロチョロ出てくるフザケたメイドは激しく勘弁ですが。 back HOME |