短編小説「塔」



 今日は、記念すべき100回目の建造だ。
 まずは、しっかりと基礎工事に入らないといけない。
 地面に深く縦穴を掘り、大きめの岩を埋める。これが塔を支えるのである。
 しっくいの代わりに、粘着性の泥を塗る。これを怠ると、とても衝撃に耐えられないのは証明済みだ。
 満足できる土台が出来上がった。次は上部だ。
 機械化の進んだ昨今の事業と違い、すべて人力で行わなければならない。とても原始的な工法だが、それだけにやりがいもあるというものだ。
 完成した塔を夢見る。きっと、天まで届くような、壮大なものになるだろう…。
 今日こそは。きっとやり遂げてみせる。
 パパは偉大な建築家だった。
 僕だって。
 手ごろな岩を探していると、背後に人の気配がした。
 むっとする汗の匂い。奴だ。
 2メートルはありそうな巨漢が立っている。
 巨漢は僕の顔を見て、苦笑いを浮かべた。
 「まだ、諦めていなかったのか」
 野太い声で、言った。
 僕は胸を張って答えた。
 「ああ、もちろんさ。今度のやつは今までとは違う。絶対に耐えてみせるよ」
 「では、試すとしよう」
 巨漢が前に出る。僕は青くなって止めた。
 「待って! まだ基礎の段階だよ。これからもっと…」
 「時間だ。下がれ」
 僕は必死に巨漢の腰にしがみついた。
 止めなくちゃ。もうたくさんだ。
 だけど、巨漢は僕の体を軽々と振りほどいた。
 そして背中の巨大な鉄のバットを握る。
 僕は泣きわめいた。まただ。昨日と同じだ。その前も、その前も…。
 巨漢がバットを降り下ろす。
 岩が砕け、土台がぼろぼろと崩れて行く。
 ああ、僕の塔が。
 僕の塔が崩れて行く。


 跡形もなくなった河原で、僕は呆然とたたずんでいる。
 手が白くなるほど拳を握って。
 唇を噛んだ。血の味がする。
 明日こそ。
 僕にも考えがある。土台を叩いたら、奴の体に塔が崩れてくるように石を積んでやろう。
 そしていつか、この地獄の河原から抜け出してやるんだ。
 鬼め。今に見ていろ。
 僕はまた岩を手にした。ひとつ積んでは親のため…。



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