短編小説「・・・・」



 「はい。こちらはラッセル探偵事務所」
 「もしもし。お宅は、浮気調査もやっているかね?」
 「もちろんですとも。浮気調査、素行調査、信用調査に金銭調査。我が社の歴史は他社とはひと味…」
 「いや、それならいいのだ。実は、女房が浮気をしているようなのだ」
 「それは、お悔やみ申し上げます」
 「そこで君らに浮気の証拠を握ってもらいたいのだ」
 「お安いご用です。我が社はあなたの期待に必ずお答えします」
 「うむ。それは心強い」
 「ではまず、奥様の特徴をお教え願えますか?」
 「分かった。年は30、中肉中背、背は高い」
 「というと、どのくらいでしょう?」
 「170というところか。これがなかなかの美人で、それはもう明るい性格の理想的な主婦というか…」
 「いや、それはいいのです。ほかに何か?」
 「うむ。笑うと、右の頬にだけえくぼができる」
 「ほう。右にだけえくぼ…と」
 「そして、左手の親指に火傷の痕がある」
 「火傷の痕…と」
 「そして最近、髪の毛を茶色に染めた」
 「茶色…と」
 「左の首筋に、ほくろがある」
 「ほくろ…と。ほくろは以上ですか?」
 「いや。右の胸にもある」
 「それから?」
 「へその横にも」
 「それだけ?」
 「左の内股に、2つ並んだほくろがある」
 「なんとまあ。お客様、困りますねえ」
 「何がかね?」
 「調査に支障をきたすので、情報は正確に願いますよ」
 「というと?」
 「左ではなくて、右の内股でしょう?」
 「ああ、そうだったな。…ん?」
 「では、費用をお振り込みください」
 「ちょっと待て!」
 「これからも、我が社をごひいきに。なお、離婚も専門ですよ」



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