短編小説「白い家の少女」



 雪が、降っていました。
 少年は、荷物を背負っていました。
 今日の荷物は、新鮮な野菜と、豚の肉です。それを今日も、あの白い家に届けに行くのです。
 白い家には、少女がいました。
 白い髪に、白い肌の、可愛い少女です。
 少女は、家を出たことがありません。言葉をしゃべることができません。
 それでも貴族の娘なのです。
 貴族は少年の雇い主です。
 きっと、誰にも言えない事情があって、あの白い家に少女は閉じ込められている。少年はそう思っています。
 さくさく、さくさく。足音が、吹雪の中にこだまします。
 家に着いたら、少年は荷物を置いて、呼び鈴を鳴らします。そして柱の陰に隠れるのです。
 すると少女が出てきます。荷物は少女のための食料なのです。
 もうずっと、こんな毎日を繰り返しているのです。
 少年は、少女に会ってはならない決まりです。
 でもいつか、少女と一緒に山を降りたい。少年はそう思っています。
 少女のことが好きなのです。
 神様が本気で雪を降らせる前に、少女を連れて山を降りよう。こんなことを思っていると、白い家に着きました。


 今日も、少女は素敵でした。
 明日こそ一緒に山を降りよう。少年は決心しました。
 貴族には、きっと追われるでしょう。だから、山を越えた向こうに行くしかないでしょう。
 それはとても辛い道です。でも、頑張ってやり遂げるつもりです。
 武器と毛布を用意して、少年は眠りにつきました。


 さくさく、さくさく。
 今日は、とても脚が軽い。少年の心は軽やかです。
 いつものように呼び鈴を鳴らすと、少女が出てきました。
 でも今日は、柱の陰には隠れません。
 始めて二人は出会いました。


 少女は、戸惑ったような顔をしています。
 少年は笑いかけました。
 少女も笑いました。
 少女の冷えた体を、少年は抱きしめました。
 少女はうれしそうに、少年の体を抱きしめました。
 そして少女は、少年を食べ始めました。
 二人はとても幸せでした。



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